中国・地方都市でも反スパイ条例が可決 まさに「総動員」で摘発強化か…より高まる在中邦人の拘束リスク
福島第一原発の処理水放出により、中国は日本産水産物の全面輸入停止という経済的威圧を仕掛けた。中国国民の経済的不満が習政権に向かう中、そのガス抜きのために実行に移したともいえる全面輸入停止は簡単には解除できないだろう。解除すれば国民から弱腰だと判断され、ガス抜きの効果自体が消え去り、返って“反習近平”の不満が膨れ上がる可能性もある。
一方、日本政府が処理水放出を一昨年4月に決定して以降、中国では反スパイ活動を担う国家安全当局が、中国の政界や経済界に深く関わっていると見なした邦人に対する監視を強化していたことが最近分かった。
中国は早い段階から処理水放出の決定に反対する意思を明確にしてきた。その間に日中政府関係者の間では処理水放出について会合が複数回設けられたが、中国政府がなぜ反対の意思を示したのかなど詳しい内情を探ろうとする日本当局者がいることを懸念し、国家安全当局は邦人への監視を強化したという。
処理水放出が実行に移され、日中関係が急速に冷え込む中、今後は上述のような監視がいっそう強化される恐れがある。
中国ではスパイ行為の定義が大幅に拡大された改正反スパイ法が7月から施行されたが、内陸にある重慶市では7月下旬、改正反スパイ法に基づいた反スパイ条例が議会で可決され、9月からそれが施行された。
重慶の反スパイ条例では国家安全当局や警察だけでなく、一般企業や各種団体も警察などとスパイ活動を監視し、反スパイ活動で主体的責任を負うことが明記されており、いわば地方“総動員”でスパイ摘発行為が強化される恐れがある。
国家レベルで大幅に強化された反スパイ活動が、地方の条例として具体的に施行されたということは、中国当局がより身近な立場から、反スパイ行為を摘発していこうとしていることの現れでもある。重慶をモデルケースとして、今後同様の条例が、北京や上海、広州など他の大都市にも広がっていくことだろう。特に上海では多くの日本人が生活を送っていることから、上海に駐在員を配置する日本企業は動向に注意が必要だ。
なぜ日本産水産物の全面輸入停止という決定に至ったのか、中国当局は日本がそれを探ろうとしているとして在中邦人への監視を強めている可能性が高い。そして、それは当然機密情報に該当するもので、正に改正反スパイ法の出番と言える。
改正反スパイ法が施行されて以降、これまでのところ幸いにも邦人が拘束されたとの報道はない。しかし、外見は法律であるが、中身は中国当局の判断によって何とでもできるもので、政治的に解釈、運用されていく。要は、日中関係の冷え込みによって邦人への監視の目も強化され、それによって拘束されるケースが増えることになる。今後は、改正反スパイ法に基づく条例化ドミノ現象に拍車がかかることが懸念される。
◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。