「心臓に中性脂肪が貯まるなんて…どんなに不摂生したの?」→実は希少難病・TGCV 生活習慣病と誤解され、孤立してきた患者の思い
「中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)」は、2008年に日本の心臓移植待機症例から発見された心臓病。国内外で多くの患者が、「病気の診断がなされない」「適切な治療を受けられない」と孤立している希少難病だ。
TGCV患者会の会長である川村郁子さんは2012年頃から体調に異変を感じ始め、2016年にようやくTGCVであると診断された。
「患者会に入って思ったのは、私のようになんの病気か分からず、命の危険にさらされている人がいるかも知れないということでした。多くの人に、この病気を知ってほしいです」
■体調に異変を感じた4年後に病名が判明
2012年、川村さんはむくみや息切れといった症状を感じるようになった。足はむくみでクリームパンのような形になり、少し歩いただけでも休みたくなるほど疲れてしまう状態だったという。
そして2年後の2014年、肺水腫を発症。心臓が肥大し、緊急入院となった。この時はTGCVであることは分からず、狭心症と診断され、カテーテルによるステント治療を受けたという。
だが、1年後の2015年4月、再び肺水腫となり、入院。翌年の1月まで市立病院で入退院を繰り返した。2014年からの合計入院期間は、約13カ月。このままでは死を覚悟するしかないのでは…と思ったため、情報を集め、東北大学病院へ紹介してもらった。
担当医が紹介状に、通常の心不全とは違う病気の可能性があるため、あらゆる検査をして欲しいと記してくれたことから、川村さんは心臓カテーテルによる心臓内の血液採取と組織採取や運動負荷をかけての心臓検査など、より精密な検査を受けることができたという。
だが、最終の診断が下せなかったため、検体を大阪大学へ送ることに。そうして、2016年6月、ようやくTGCVであると判明したのだ。
TGCVは胸痛や息切れ、むくみ、しびれ、疲れやすさなどといった症状が見られるそう。本来なら、心臓のエネルギー源となる中性脂肪が心臓や血管に蓄積し、重症の心不全や冠動脈疾患をきたしてしまうのだ。
川村さんの場合は心臓内への脂肪の蓄積は顕著ではなかったが、白血球の中に脂肪の細かい粒が溜まっている状態になっていたそう。
「通常の心臓病ではないのでは…と、ずっと疑っていたので、TGCVと診断されて納得がいきました。ただ、治療薬がないことや原因不明であることを説明され、眼の前が真っ暗に…。患者数も驚くほど僅少だと知り、なぜ自分がこんな病気にならなければいけないのかと半分、怒りにも似た感情が湧きました」
■TGCVは生活習慣病ではないことを知ってほしい
病名が判明した後、川村さんは塩分や水分の摂取量に気をつけながら、溜まった脂肪を分解して流す「トリカプリン療法」という食事療法を受けることになった。これにより、歩いたり階段を登ったりと、普通の生活が送れるようになったという。
しかし、トリカプリン療法は保険適応外であるため、1カ月に5000円ほどの治療費がかかる。また、川村さんの場合は病名が分かる前に肺水腫と腎不全が同時に進行したため、週3回の透析も必要だ。
「医師からは、私のように心不全と腎不全が同時に進むTGCV患者が他にもいると聞いています。私は緩徐型1型糖尿病もあるので、血糖値を最低1日3~4回測って記録しています。使用しているセンサー付きのインスリンポンプ(SAP)は7日ごとにセンサーを交換し、3~4日ごとにインスリンを入れたボトルの交換も行っています」
患者会に入会したのは、2016年のこと。きっかけは、医師に勧められたからだった。患者会は、東北大学病院に通う患者と大阪大学の平野医師によって立ち上げられたそう。2017年、患者の方が亡くなったことから、川村さんが会長職を引き継いだ。
「2016年の入会時、私は会員番号6番でした。当時は全部で9名ほどしか患者がいないと言われました。現在の会員数は家族会員も含めて、127名。病気に関する情報や栄養コラムなどを掲載した会報を、年3~4回発行しています」
川村さんいわく、TGCVは循環器専門医にも病名がまだ浸透しておらず、自身も過去に「中性脂肪が心臓に貯まるなんて、どれだけ不摂生してるの?」と、心無い言葉をかけられたことがあったという。
「再入院の時には、『ちゃんと頑張らないから何度も戻ってくるんでしょ?』や『出戻ったね』などと言われ、ショックを受けたこともあります。私の場合は、どれだけ生活習慣を改善しても心不全が進行していきました。TGCVは生活習慣病ではないのだと理解されてほしいです」
■自身もキャリアを失って…孤独な闘いを続ける患者仲間にエールを送る
医療従事者にも病名が浸透していないこともあり、現在、TGCVの患者数は全国に約600人ほどしかおらず、病気と孤独に闘っている患者も多いと川村さんは語る。
「心臓病なので、仕事を継続することが難しい方も多いです。私も講師の仕事を辞めざるを得ず、キャリアを失いました」
理解がまだ進んでいない病気を、なんとか多くの人に知ってもらいたい。そんな思いから、川村さんは2017年に、ブログ「私TGCV患者です」を開設。2023年9月25日までクラウドファンディングを行い、患者の救済や支援を目的としている「一般財団法人栩野財団」の活動費を募っている。
「患者さんは比較的高齢な方が多いので、ネット環境もなく、情報を集めることができないことが多いのも課題です。私のように定期外来に通い、日常生活も気を付けているのに肺水腫を繰り返し、心肥大もよくならない場合はTGCVが分かる医療機関で検査を受けてほしい。患者会のホームページに掲載している医療機関も参考してほしいです」
そう訴える川村さんは同士に、こんなメッセージを贈る。
「私もかつては不安に押し潰されそうになり、死ぬのかな?と、先の見えないトンネルの中にいるかのような気持ちでした。でも、状態が改善したことで、決して絶望してはいけない、希望があるんだ!と思えるようになった。だから、一緒に頑張って生きて生きて、生き抜いていきましょう。あなたは決して、ひとりではありません」
患者会では今、TGCVの指定難病化の実現に向けて声をあげているという。その叫びがより多くの人に届き、社会や医療から患者が孤立しない世の中になってほしい。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)