京都の中学教諭はやり投げ世界王者の元ライバル 競い、高め合った友・北口榛花選手への思い語る

 8月にハンガリー・ブダペストで開かれた陸上の世界選手権女子やり投げで日本人初の金メダルを獲得した北口榛花選手(25)とライバル関係にあった同学年の女性が京都府綾部市にいる。現在は中学教諭として陸上部の顧問を務める。2年前まで国内外の大会で競い合った競技人生を振り返り、「彼女と戦った経験があるからこそ、今の自分がある。指導者として陸上の楽しさを伝えたい」と話す。

 同市出身で綾部中体育教諭の山下実花子さん(26)。大会閉幕の翌日にLINEで「おめでとう」と送ると、北口選手からは「ありがとう」と返ってきたという。「北口選手ならやってくれると信じていた。パリ五輪での優勝はもちろん、どこまでも突き進んでほしい」と快挙を喜ぶ。

 9月1日の道徳の授業では、「友だちとは何か」をテーマに北口選手が競技する動画を見せ、「ふと意識してしまう存在が北口選手。ライバルとして負けないように競技をやってこられたのは、彼女が友だちだから」と生徒に伝えた。

 山下さんは中学で野球部だった経験を買われ、福知山市の京都共栄学園高でやり投げを始めた。2年で全国高校総体(インターハイ)への出場を果たし、全国4位と頭角を現す。その大会で優勝したのが同学年の北口選手だった。「上には上がいると思い知らされた」と振り返る。

 北口選手を追い越そうと練習に明け暮れ、3年で当時の日本高校新記録を樹立した。だが、優勝できると信じて臨んだインターハイでは、北口選手に及ばず2位に。その後、高校記録も北口選手に塗り替えられた。

 「当時は目も合わせたくないほどライバルだと思っていた。勝てなかったことが悔しくて泣き崩れた」。雪辱を果たそうと強豪九州共立大に進学。一から技術を学び、2016年のU20(20歳未満)世界選手権では、北口選手の8位を上回る6位入賞を果たした。

 翌年の日本選手権でも北口選手を抑えて3位になった。「うれしかったが、この年がピークだった」。その後は重圧を感じて結果を出せず、国際大会で上位入賞を続ける北口選手と対決する機会は減っていった。

 東京五輪の代表選考を兼ねた21年の日本選手権は7位に終わった。優勝を果たし代表に選ばれたのは北口選手。「できることは全てやり切った」。その年、第一線を退いた。

 山下さんは地元の子どもたちに陸上競技に親しんでもらいたいと昨年、中学教諭として故郷に帰ってきた。中学にやり投げ種目はなく、短距離走を指導する。北口選手と競い合った経験は「互いの仲間意識につながった」といい、生徒には仲間と支え合って練習する大切さを説く。

 山下さんは「北口選手には、内に秘めた強い精神力がある。これからも高い目標を持って世界で活躍してほしい」とエールを送る。

(まいどなニュース/京都新聞)

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