工事現場でひとりぼっちだった猫 京都→名古屋へ、命のバトンつながり甘えん坊の“家猫”に

 安心しきった表情で眠る茶白猫の千夏(ちなつ)くん。今は愛知県名古屋市に住む今村奈緒美さんと数匹の猫ちゃんと一緒に楽しく暮らしていますが、2年半前までは、京都・三条駅前の工事現場でひとりぼっちで生きていました。

 もともとはお母さん猫ときょうだい猫と一緒に住み着いていた千夏くん(当時はニャン太郎、タマ、なっちゃんなどいろいろな名前があったそうです)。事務所として建てられたプレハブの下で雨風をしのぎ、工事関係者や近くで客待ちをしているタクシー運転手がくれるお弁当の残りなどを食べていました。追い払われることはなく、むしろそのエリアにいる野良猫やカラスから守ってもらっていたと言います。

 ところが、気づけばお母さん猫ときょうだい猫はいなくなり、ひとりぼっちに。交通量の多い道路が目の前だったようですから、事故に遭ったのかもしれません。

 そんな千夏くんの前に一人の女性が現れました。2020年8月のことです。近くのバスターミナルを利用していた河崎仁美さんは大の猫好き。事情があって家では飼えませんでしたが、「こんなところに猫が…」とやせ細った千夏くんに目を留め、毎日ごはんや水をあげるようになりました。

 千夏くんは触らせてはくれませんでしたが、ごはんを持って行けば喜んで食べてくれました。オジさんたちがくれたおにぎりも空腹にしみたでしょうが、猫用のカリカリフードや缶詰、ピューレなどは格別だったに違いありません。

 ところが11月頃になると、吐き戻すなど衰弱している様子が見られるようになり、野良猫にお腹を噛まれたこともありました。京都の冬は寒いので、気候も影響したのでしょう。河崎さんに体を触らせてくれるようになったのは、心身ともに弱ってきていた証拠かもしれません。

■どうしても助けたい!

 河崎さんは年末年始も欠かさず世話をしに行き、千夏くんを保護することを考えました。ただ、自身の家では飼えません。そこで相談したのが今村さんでした。今村さんは『清春の幸せ探し』というブログに猫との日常をつづっていて、河崎さんはその読者だったのです。

「名古屋で読者の皆さんと“オフ会”をしたとき、『参加はできないけれど皆さんで』とお菓子を送ってくださったり、交流はありました。ただ、京都と名古屋で離れていましたし、コロナが流行っていたこともあり、『近くの保護団体さんに相談してみては』といったことしか言えなくて」(今村さん)

 河崎さんは地元でいくつか問い合わせてみましたが、引き受け先は見つからず。やり取りを続ける中で、河崎さんの「どうしても助けたい!」という熱意に打たれた今村さんは、近くに住む猫仲間のテツさんに相談しました。ちょうどそのとき猫を飼っていなかったテツさんは、預かりボランティアを快諾。あとは千夏くんを保護するだけとなりました。

 21年1月9日。千夏くんは野良猫たちに追い立てられるように、母猫やきょうだい猫が事故に遭ったかもしれない“禁断の”道路を渡り、溝に身を潜めました。翌朝、河崎さんがキャリーを持って行くと、素直に入ったそうです。この時を待っていたかのように。

「千夏がいた場所の工事は6月で終わり、事務所も撤去される予定だったので、それもあって河崎さんは保護を急いでいたんです。無事に保護できて本当によかったです」(今村さん)

 病院を受診したのち、新幹線で名古屋へやってきた千夏くん。テツさんの家で1週間程過ごしましたが、夜鳴きがひどく、獣医師の「猫のいる家のほうがいいかも」というアドバイスを受けて、今村家にお引越し。そこが千夏くんの“終の棲家”となりました。

■できる人が、できることを

 外での生活が長かったからでしょう、食べ物への執着が強く、流しのゴミをあさったり、電子レンジの扉を開けたり……いろいろ大変だったようですが、次第に落ち着き、今ではごはんを残したり、他の猫に譲ったりできるようになりました。

「うちに来た頃は、野良の血が騒ぐのか外猫の表情を見せるときもありましたが、今では抱っこが大好きで、私のベッドの上で寝る、家猫らしい猫になりました。京都の皆さんがやさしく接してくださったからでしょう、とてもやさしくていい子に育っています。すべての方のサポートがあって、今の千夏がいる。苦労して生きてきた分、これからは健康で穏やかにと思います」(今村さん)

 工事現場の人たち、タクシーの運転手さん、河崎さん、テツさん、今村さん……誰か一人欠けても、千夏くんの命は守られませんでした。「すべての人が、それぞれの立場で、その時できることをしてくださった。それこそが本当の動物愛護だと思うんです」と今村さん。

 テツさんは「預かるとき、皆さんがつないでくれた“たすき”の重さを感じました」と言い、河崎さんは今も千夏くんのごはん代を今村さんに送るなど、サポートを続けています。できる人が、できることを。動物と人間が共生していく上で、最も大切なことかもしれません。

(まいどなニュース特約・岡部 充代)

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