コロナ禍、不安定な雇用…追い詰められる若者たち 映画「a20153の青春」が描く日本の現在地 監督と出演者が神戸で思い語る

母親と義父から虐待を受けて育ち、コロナ禍で仕事と住む場所まで失ってしまった青年の八方塞がりの彷徨を容赦なく描いた映画「a20153の青春」。社会情勢の変化で苦しい状況に追い込まれている若者たちを孤立させてはいけないとの思いを込めて、自身で脚本も手がけた北沢幸雄監督と、転落していく主人公を一途に思い続けるヒロインを瑞々しく演じた神倉千晶さんが23日、作品を上映中(26日まで)の神戸映画資料館を訪れた。

長年ピンク映画や日活ロマンポルノで活躍してきた1953年生まれの北沢監督が、若い世代や非正規雇用の人たちがコロナ禍で大きな打撃を受けていることに心を痛め、社会構造の問題提起と連帯のメッセージを表明しようと製作。タイトルにある「a20153」とは、主人公・川島拓也(兼次要那さん)の派遣社員登録ナンバーである。

北沢監督と神倉さんはこの日、上映後の舞台挨拶に登壇。北沢監督は「コロナ禍で仕事を失う人が相次いだことがこの映画を作るきっかけですが、そもそも、それ以前から派遣、非正規で働く人が多くなり、若い人がなかなか正社員になれないということを聞いていました。最低賃金も先進国最低レベルで、生活が不安定な人も確実に増えている。日本はいつからこんな国になったんだろう…これは映画でしっかり描いておかなければという思いで作りました」と力を込めた。

本格的な演技は2年前に撮影された本作がほぼ初めてだったという神倉さんは、オーディションで役を射止めた。北沢監督は「演技に硬さはありましたが、誠実でひたむきな役柄なので、むしろそれがいい方向に出るんじゃないかと考えて彼女にお願いしました」と明かした。

一方、北沢監督の印象について「口数が少なくて最初は怖かった」と笑う神倉さんだが、右も左もわからない現場で北沢監督を含むスタッフや共演者らに支えられて無事に乗り切れたといい、「とても温かいチームだった」と振り返る。「最後の撮影を終えて、監督から『神倉さんでよかった』と言っていただいた時は、涙が溢れました。今もお会いすると、元気か、仕事はどうだ、と気にかけてくださるのがとてもありがたく、心強いです」

舞台挨拶の終わりに、北沢監督は「これからも配信や上映会を通じて作品に触れていただく機会はあると思いますのでよろしくお願いします」と客席に呼びかけ、神倉さんは「これからも頑張ります。名前だけでも覚えて帰ってください」と笑顔を見せた。

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昨年の東京を皮切りに始まった「a20153の青春」の劇場公開はこの神戸映画資料館が最後となるが、現在は一部配信サービスで視聴が可能。また11月17日(金)18時45分から東京の豊洲文化センターで、トークイベント付き上映会が予定されている。詳しくは公式サイトで。

(まいどなニュース・黒川 裕生)

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