ネグレクトの犬を保護「水入れは乾いて砂が…」屋根もなく、サビた鎖につながれ→今は「ずっとの家族と幸せに」
「ムクだけの家族ができたことが一番の幸せ」
元飼い主からネグレクトを受けた元保護犬が里親さんのもとで幸せになるまでのエピソードに3万件のいいねがつき、Instagramで話題になりました。
投稿したのは、種子島(鹿児島県)でたった1人で犬猫の保護活動に取り組む「種子島アニマルレスキュー」の吉岡裕美さん(@tanegashima.animal.rescue)。3年半ほど前、犬小屋もない場所につながれて悲しそうな顔をしていた犬と出会いました。その犬の名前は、ムクくん。当時7、8歳くらいの男の子でした。
「私が保護活動をしていることが種子島で知られてきた頃、ムクの元飼い主の知り合いから『〇〇さんの家には犬がたくさんいて、まともに世話をしていないらしい』と聞いて、気になってムクたちの家に見に行ったのが始まりです。ムクを初めて目にした時、屋根もない木の下の土の上に鎖でつながれていました。たまにしかもらえなかったと思われる水入れは乾いて砂が入っていて、餌入れにも砂がたまっていました。水とご飯はいつもらったの?という感じで…きちんと世話をされていないのが丸分かりだったんです」
■ボランティア、元飼い主を説得し14匹の犬を順番に保護
そこのおうちには、ムクくんを含め14匹の犬がいました。どの犬もムクくんのように放置され適正な飼育はされずにいたとのこと。そこで、吉岡さんは放っておけず、元飼い主に犬たちを引き取りたいと伝えました。しかし、最初は一筋縄ではいかなかったといいます。
「最初の1匹目が大変で…最初は頭ごなしに帰れ!と言われたんです。私が行くと14匹の犬がほえて、村の人から叱られるからとの理由で追い返していたようですが。私は怒られても犬のため、めげずに何度も足を運びました。元飼い主に話し掛けたりコミュニケーションを取って、犬にジャーキーを持っていったり水を替えたりして…そのうち心を開いてくれて、『犬の世話が大変でもらい手がいるなら手放したい』と元飼い主から言うようになりました」
粘り強い交渉を続けたことで、元飼い主から犬たちを引き取る許しを得られた吉岡さん。「猫もたくさん保護していて、自分の家の犬も下半身付随など手のかかる犬ばかり…世話ができる頭数は2匹まで」と決めているといい、2匹ずつ保護することになりました。
里親が見つかれば次の犬を引き取るという形で、全ての犬を保護するまで吉岡さんが通い続けることに。そのうち吉岡さんのアドバイスもあり、2日に1回くらいしか与えていなかった餌なども、元飼い主はほぼ毎日餌や水を与えるようになったそうです。そして、昨年5月、14匹のうち10番目の保護となったのがムクくんでした。
「元飼い主は、私が順番に引き取っては幸せなおうちへ里親に出していることが分かっていたので、ムクを連れ帰る際にはあっさりよろしくお願いします、という感じで引き渡してくれました。ムクは長年つなぎっぱなしで、鎖がサビて首輪も取れない状態。ペンチで鎖と首輪を切り離しました。
またムクはほえる犬で少し気が強いと元飼い主に聞いていたので、おうちにお迎えする時は保護猫たちとは隔離して犬舎で過ごしてもらいました。犬舎ではそこそこ広いこともありつながずフリーにしてあげたところ、とてもうれしそうだったムク。歩けるという自由の身を初めて味わえたのでしょう。ただあちらこちらにおしっこをかけるので掃除が大変でしたが…またお散歩するようになって、シャンプーをしてから猫がいる家の中に入れてみた時のこと。猫に攻撃をしない犬だと分かりました。それから私たちと一緒に家の中で暮らすようになったんです」
■10番目に引き取った元保護犬 自由になって散歩好きに! ついに里親さんのもとへ
他の保護猫や保護犬たちとの暮らしが始まり、お友だちもできたというムクくん。すぐ仲良くなったのが、バーニーズのルークくん(雄・9歳)です。元飼い主から虐待され、かんでしまい手放され、吉岡さんのところにやってきたワンちゃん。でも今では優しい子になったとか。少し気性の荒かったムクくんも圧倒されるほどの大きな体のルークくんですが、優しくムクくんを受け入れてくれました。
そんな環境の中で、ムクくんにも変化が起きました。「とっても甘えたさんでなつっこくて、散歩も大好きで家の犬のチビ太と浜辺で一緒に走り回るのが好きな子になりました。それに賢い子で言ったことを分かってくれて。留守番と言うと奥に引っ込んだり、ダメと言うとやってること止めてくれたんです。それにお腹をみせて甘え、うれしい時は笑顔になりました」と吉岡さん。とはいえ、次の犬を保護するためには保護犬とはいつかお別れの日がきます。今年8月、ついにムクくんにもずっとの家族である里親さんが見つかったのです。
「とても寂しさがありました。明日からそばにいない…不安でもあります。でも里親さんと面接してとても素敵なおうちと判断したので、うちで大勢の1匹よりは里親さん家族の大切な1匹でいる方がどれだけ幸せかと。寂しいけれど後で幸せな写真なども送ってくださり、長年の劣悪な環境などを思い出して、今は良かったなと涙が出てきます。ムクは幸い、種子島の里親さんなので先日会いに行ってきました。私を見てとても喜んでうれしそうでしたが、最後は新しいお母さんのそばに戻り、ムクが自分から私に『僕はここのうちの子です』と言ってくれたと感じて…大切にされていることが分かり安心しています」
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■「どうして可愛がれないのに、お世話もしないのに飼うのか」
吉岡さんの投稿には、こんなコメントが寄せられました。
「すごいよね犬って。愛情の欠片もない人間の近くにいたのに、また人間を信じてくれるんだから。人間だとそうはいかないよね。どうして犬はこんなにも………(涙)尊い天使を救ってくれて、ありがとうございます」
「最近また繋ぎっぱなしの犬がいると聞いてつらくてたまらないです 幸せになってほしい」
「どうして、可愛がれないのに、お世話もしないのに飼うのか、意味がわからない」
「動物はいつでも優しい。飼育放棄しても、虐待しても何故人間は大した罪に問われないのか。ムクの幸せをいつまでも願ってます」
「胸が張り裂けそうです。日本でも、このような虐待をした飼い主は処罰を受けるべきだと思います。もっと、厳しくするべきです」
「同じ事されてみてください どうして想像力が働かない人が多いのでしょう。そう言う人に限って、ワンちゃんと暮らしている涙が出ます」
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■飼育放棄、置き去りになった犬猫たちを助けたい…
吉岡さんは関西エリアに住んでいましたが、種子島にいる母親の看病で短期間の帰省時に粗末に扱われる犬猫たちを多く目にして放っておけず。意を決し2019年秋に島へ移住。島のバス運転手をしながら保護活動に奮闘しています。これまで保護した犬猫は累計350匹以上、里親に出したのは250匹を超えているとのこと。種子島で飼われている犬猫の現状や自身の活動について、こう話します。
「島の人は犬や猫に関心が薄く、劣悪な飼われ方を見ても誰も気にも留めません。そういう環境の犬猫が多いので見慣れているからかもしれません。人情が厚くとても優しい人が多いこの島ですが、動物には冷たい気がします。犬猫が病気でも治療をしない飼い主の多いことにも驚きます。最低限のノミの駆虫もされていない犬猫も多く、外飼いの犬はほとんどフィラリア症に感染して、最後は外の朽ちた犬小屋で孤独に苦しんで死んでいっています。とはいえ、こんな飼い主ばかりではないのですが…。
今の活動としてですが、犬猫の適正飼育などを伝えても改善されない飼い主に対しては、できるだけ私が引き取って新しい里親を探しています。ただ強引な引き取りはしていません。このほか野良猫のTNR(Trap/捕獲し、Neuter/不妊去勢手術を行い、Return/元の場所に戻すこと)も3年半ほど前から私が島で初めて取り組み、不幸な命を生ませないための活動であることも少しずつ広まってきているようです。これからも、島の人たちに命の大切さを訴えながら活動を続けていきたいと思います」
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)