バス運賃箱に使われているのは、人間の…!?→真相をメーカーに聞いた「都市伝説?」「ネタかと思った」
生活の足として欠かせないバスについて、あなたはどれぐらい知っていますか?
先日、バスの運賃箱のパーツに「インド人の髪の毛が使われている」とSNSで話題となり、「都市伝説の類い?」「インド人もびっくり」などの声が集まりました。
この投稿に、交通機器メーカーレシップ(@lecipjp)が反応。「運賃箱を作っている中の人です。硬貨と整理券を仕分けるための部分に約50年前から人毛を使用しています」とX(Twitter)へ投稿し、リポスト欄は驚きのコメントで盛り上がりました。
「ネタかと思ったら本当に人毛だった」
「湿度計にはフランス人の茶色の髪がいいと昔聞いたことがあります」
「鳥の羽根とか動物の体毛だとか、自然界の作り出す素材は面白いですね」
など、皆さんも興味津々のご様子。
かくいう私も、「なにゆえ人毛!?」と気になって仕方がないので、投稿された製造会社レシップの広報さんにお話を伺いました。
■運賃箱やICカードリーダの国内トップシェアの有名企業
岐阜県に本社を置く「レシップ」は、バス・鉄道用電装機器を中心に製品を提供。私たちが目にする機会の多い製品でいうと、バス車内に設置されている運賃箱やICカードリーダライタ、車内液晶表示器、降車ボタン、整理券発行器、バスの外側についているLED式行先表示器などがあります。鉄道用製品では、ワンマン運行をする車両向けに、運賃箱や液晶表示器、灯具など。これらの製品は、いずれも国内でのシェアが高いことが特徴で、業界では有名な企業なんです。
■運賃箱のお金と紙類を仕分けるブラシに「人毛」が!
中でもバス用運賃箱はシェア約60%、レシップが誇る製品です。何とその運賃箱に、人毛(人の髪の毛)が使われているというからびっくり。物に溢れたこの21世紀に、なぜ素材が「人毛」に決まったのか、お話を聞きました。
ーーあの運賃箱に髪の毛が使われているとは、本当に驚きました! ちなみにレシップさんが運賃箱をつくるようになったのは、いつからですか?
「運賃箱が世の中に登場したのは、路線バスのワンマン運行がはじまった1960年代頃です。当社は、1970年にバス用運賃箱を開発しました」
ーー開発当初から、運賃箱のパーツに人毛が使われていたのですか?
「1970年代前半に開発されたのは、斜めベルト式運賃箱(MS-1000型)。これは、硬貨が自動で金庫に収納されるように斜めベルトを使用したタイプとなります。この運賃箱の初号機から人毛を使用しております」
ーー運賃箱のどんなパーツに人毛が使われているのですか?
「バスの運賃箱には硬貨だけでなく、整理券や回数券、紙幣、硬貨など、色々な物が投入されます。硬貨は硬貨だけで集めたいので、それを機器内で仕分けすることが必要となります。その際に使う『仕分けブラシ』に人毛が使われています」
ーー具体的には、どこに仕分けブラシがありますか?
「一般的なバス運賃箱は、投入された硬貨や紙類を小さなベルトコンベアーのようなもので奥にある金庫まで送り込むのですが、『仕分けブラシ』があるのは、金庫の手前になります。運転士側に設置されているアクリル板でできたのぞき窓から見える部分です。大変見えにくいのですが、ブラシ状の部分に人毛が使用されています。ブラシひとつが約数センチほどの毛の長さ、数十本ほどの毛束です。染色や加工などはせずに、そのまま使用しています」
ーー次にバスに乗った時、見てみます! なぜ人毛を採用することになったんですか?
「理由は主にこの4つですね。
①紙の重量ではしならず、硬貨の重量でのみしなる、ちょうどよい硬さである
②ブラシに癖がつきにくい
③静電気を帯電しにくい
④ベルトのコーティング剤を削り取ってしまうような硬い材質ではない(硬貨が流れていくベルト表面は、硬貨を滑りやすくするためにフッ素コーティングを施している)」
--ブラシの素材が人毛に決まるまでに、他にはどんな素材が候補に上がりましたか?
「豚毛、馬毛、プラスチックなど、いろいろな素材を試しました。結果、製品化につながったものが人毛でした」
ーーSNSで話題となっていたように、使われているのはインド人の髪の毛なんですか?
「はい、現在はインド人の髪の毛です。これはインド人の髪の毛が優れているというわけではなく、調達・コスト・品質面などを考慮して採択しました。人毛を取り扱う商社より購入しています。ちなみに、当初は中国人の髪の毛を使用していましたが、調達・コスト面などの観点から現在はインド人のものになっています」
ーーいわば輸入材料なんですね! 他にもバスにまつわるアイテムはありますか?
「玩具メーカーのトイズキャビン様とのコラボ商品で『バス降車ボタンライトマスコット4』という製品が、密かに大人気となっています。押すと『次、とまります』と音声が鳴るおもちゃなんですが、路線バスに設置されている降車ボタンを忠実に再現してあると好評で。
あとは……個人的には、バスに乗るなら、バスマニアの間で『マニア席』と呼ばれている席がお勧めです。運転士さんのすぐ後ろの席のことで、運賃箱の『仕分けブラシ』部分はもとより、運転士さんの手元の操作などの様子も見られる、大変面白いシートです!」
この秋は『マニア席』に座って、バスのお出掛けを楽しみたいものですね。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・東寺 月子)