必要なのは「担当者のやる気」と「暗い場所」 移動映写「映画センター」の歩みとこれから
例えば小学校時代、体育会に集まって映画を観る。暗くなった公園で映画を観る。そんな経験の裏には「映画センター」の存在がある。
映画センターは全国にあり、移動映写を中心に、公共ホールや映画館がない地域で上映会を企画。スクリーンで映画を観る体験を提供している。
兵庫県映画センターの過去の上映作品を見てみると、『オズの魔法使』(監督:ヴィクター・フレミング/1939年)や『カサブランカ』(監督:マイケル・カーティス/1942年)などの名作が。しかし名作を上映することができても、経営は難しくなっているという。
「映画料も値上がりし、厳しいですね」
そう語るのは兵庫県映画センター代表の林洋志さんだ。
「上映会自体の本数はコロナ禍に比べて増えてきました。しかし、動員は落ち込んだままです」
映画センター主催の上映会の動員の多くは、シニア層が中心だという。とはいえ、これは一般的な映画館と変わらない。しかし動員はなかなか増えない。映画センターの上映会場は、学校やホールでの上映に加えて、行政主催の啓発事業など多岐にわたる。地域が変われば来場者の好みも変わってくるため、どんな作品が当たるか分かりづらいのだそうだ。
映画センターは移動映写を中心に業務を行うが、場所だけでなく、最近はもう一つ問題があるという。
「映画の配給会社さんとも長い付き合いですが、映画を借りるための映画料もこの10年で少なくとも1.5倍ほど値上がりしました。行政の主催事業など予算の決まった上映会と、ホール上映でそれなりの入場料収入があって、やっと経営が成り立ちます。でも最近は赤字が続いています」と林さん。
大きなホールでの上映は1回につき100人入ったとしても赤字になってしまうそうだ。移動映写は1回の上映でどれだけ動員を上げられるかで売上が決まる。毎日上映ができる映画館とは違う興行の形だ。
林さんによると、兵庫県だけでなく、大阪などの同業者も経営は厳しいという。
「行政が主催する上映会の仕事が取りづらくなっていると聞きます。映画を上映する団体はたくさんあります。最近は安く上映できる団体が優先的に仕事を取る。作品や映写技術の質の高さに見合った価格では、仕事ができなくなっているみたいです」
■場所さえあれば、どこでも映画を上映できる
取材日は「第124回KEN-Vi映画サロン」(会場:兵庫県立美術館)が開催されていた。「令和5年度文化庁優秀映画鑑賞推進事」と題して、『Wの悲劇』(監督:澤井信一郎/1984年)、『どついたるねん』(監督:阪本順治/1989年)など4本が35mmフィルム上映された。
映写技師の高橋さんは「今回のフィルムはどれもキレイで上映自体がとても貴重」と語る。
映画センターはもちろんフィルム上映だけでなく、デジタル上映も行うことができる。
今後の活動についてもお聞きした。
「全国に映画センターはあります。魅せ方が上手な映画センターは、地域の他団体と協力し、『実行委員会』を作っています。そして運営する上映会も丁寧です。我々も同じように横のつながりを強くし、1回の上映を大切にしたい」と林さんは語り、「暗いところがあれば、我々は映画をきれいに映すことができます。民間行政関係なく、映画を観たい、誰かに映像を観せたい仕事があればお任せください」と締めくくった。
(まいどなニュース特約・宮本 裕也)