タイガースの「アレ」に貢献 才木浩人投手の名字のルーツ 難読名字だったから…読んでもらえるように漢字を変えた?
18年振りのリーグ優勝を決めた阪神タイガース。その優勝を決める大一番・9月14日の巨人戦で先発したのが才木浩人投手だ。
才木投手は高校球界では無名の須磨翔風高出身の24歳。2016年のドラフト3位で入団、2年目に6勝を挙げるも右ひじの手術で育成契約となり、昨年7月に3年振りの勝ち星をあげていた。この日は先発して7回1失点に抑えて8勝目をあげ、防御率も2点そこそこと大活躍をみせている。
この「才木」という名字はそれ程珍しい名字ではない。名字ランキングでは5000位あたり。筆者は5000位以内を普通の名字と考えているので、ギリギリ普通に入るかどうか、という名字である。
「さいき」と読む名字にはいろいろな書き方がある。最も多いのが「佐伯」でこちらはメジャーな名字だ。以下、「斎木(齋木=「齋」は「斎」の旧字体)」「斉木(齊木=「齊」は「斉」の旧字体)」と続き、「才木」は4番目。これ以下はかなり少なく「済木」「斉喜」「斉城」「齋城」「斎喜」「佐井木」「才記」などとも書く。珍しいものでは「再起」というのもある。
さて、こうした「さいき」と読む名字の多くは「佐伯」から漢字が変化したものだろう。「佐伯」の歴史は古く、古代豪族大伴氏の一族。佐伯部を率いて、大伴氏とともに軍事でヤマト王権に仕えた、宮廷の防御を専門とする軍事貴族である。
しかし、平安時代以降は朝廷内では没落し、神官や地方官僚として活躍した。代々厳島神社の神官をつとめた他、讃岐の佐伯氏からは空海が出ている。
ところで、この佐伯氏は「さえき」である。「佐伯」は本来「さえき」と読んだが、後に「さいき」とも読むようになった。現在でも「佐伯」の8割程が「さえき」で、「さいき」は約2割と少なく西日本に集中している。
しかし、「佐伯」で「さいき」と読むのは難読である。今では「さえき」も難読だが、古い時代では「佐伯」は「さえき」と読むのが常識だった。そこで、「さいき」と読む「佐伯」さんは、正しく読んでもらえるよう、その読み方にあった漢字に変える人も多かった。「才木」はそうした名字も1つである。
「才木」は西日本に多く、とくに長崎県と兵庫県に集中している。
◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら、実証的な研究を続ける。NHK「日本人のおなまえっ!」にコメンテーターとして出演中。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。