「変わり者だと思われています…」 タイガース優勝からAKB48現象、たま駅長まで あらゆる社会現象の経済効果を計算しまくる関西大名誉教授ってどんな人?

阪神タイガースが18年ぶりにセ・リーグで優勝したことによる経済波及効果(以下、経済効果)は全国で969億1238万円-。今年9月、メディアで一斉に報じられたこの数字を各種データに基づいて弾き出し、発表した人が誰なのかご存知だろうか。それは、関西大学の宮本勝浩名誉教授。プロ野球やWBC、AKB48総選挙、オリンピックなどなど、何か大きなイベントがある度に経済効果を計算しては惜しげもなく数字を提供してくれる名物先生で、報道関係者、特に関西のメディアにとってはあまりにもありがたい存在である。そんな宮本名誉教授も、2023年で78歳に。大変失礼ながら、いつまでもお世話になりっぱなしというわけにもいかない。近況や今後の展望について聞いた。

宮本名誉教授は1945年1月、和歌山市生まれ。幼少時に大阪へ転居し、小学校4年生までは大阪の福島で育った。タイガースの本拠地である甲子園球場にもほど近く、父に連れられて足繁く通ううち、自然と虎ファンになったという。 

大阪府立大教授を経て、2006年から関西大大学院会計研究科教授。2015年に定年退職し、名誉教授に。専門は理論経済学で、学生や院生らに興味を持ってもらおうと、身近な事象の経済効果を試算するようになり、それが今の活動につながっている。 

■優勝後は取材殺到、食事もゆっくりできず

「タイガースの“アレ”が決まると、30分おきくらいに取材が入り、2日ほどはゆっくり食事もとれない状況でした。18年ぶりということもあってすごい盛り上がりでしたね。でも、楽しい忙しさでしたよ」 

脊柱管狭窄症で歩行がやや困難な状態だと聞いていたので心配しつつの取材だったが、宮本名誉教授、めちゃくちゃ元気である。「取材依頼をいただいた時は確かに足腰が痛くて大変だったのですが、だいぶ回復してきました。昨日も孫と一緒にUSJに出掛けて、一日中歩き回っていましたので。1万3000歩くらい歩きました」

■経済効果を計算し、報道機関に提供する理由

経済効果の計算は、何らかの公式に数字を当てはめると誰でもできる。…そんな生易しいものではない。ありとあらゆるデータを収集した上で、計算は最短で1、2週間程度、大規模なイベントだと2カ月ほどかかることもある。宮本名誉教授がそんな大変な思いをしてまで経済効果を試算し、大学広報などを通じて報道機関に頻繁に提供する動機は大きくふたつあるという。

「ひとつは地域や日本を明るくするような話題を提供したいから。タイガース優勝はもちろん、お花見や花火、バレンタインなど、楽しいイベントでどれだけお金が動くかがわかれば面白いじゃないですか。逆に芸能人の不倫であるとか、今回のジャニーズ事務所の問題などによる“マイナス”の経済効果を計算してほしいと頼まれることもありますが、僕はそういうことは一切やりません」

「もうひとつは、経済に関心を持ってもらいたいから。経済学は、一般の人にとっては身近なようで実はあまり馴染みがない学問です。誰でも知っている社会的イベントの経済効果の計算を通じて、経済の魅力や面白さの一端をお伝えできればいいなと思っています」 

■現在78歳、誰か後継者は…

タイガース優勝が世間のお金をどれほど動かすのか、宮本名誉教授が初めて試算したのは2003年。それから20年にわたり、タイガース関連にとどまらず、宮本名誉教授が発表する様々なイベントの経済効果が、新聞やテレビなど各種メディアを賑わせてきた。

「僕ももうええ年なので、いつまでもできるわけじゃありません。後継者、ですか? うーん…もちろん計算できる教え子は何人かいますが、それぞれ好み、興味が違います。スポーツに全く関心がない人もいますからね。それより自分の専門に時間や労力を割きたいというのが研究者の普通の感覚でしょう。誰もが私と同じように野球やサッカー、ゴルフなどスポーツ全般に興味や情熱を持って計算するのは不可能ですし、強制することもできません。ましてや、関心のない人が何年も続けるのはなかなか難しいでしょうね」

「どちらかと言うと“趣味”に近いので、自分の本業(研究)をこなしつつ、となるとやっぱり相当ハードルが高い。僕自身、今年も英語の論文を一本書いて大学の雑誌に出す作業を進めながら、阪神-オリックス戦の計算をしていますから。できるだけこの先も継続できるような人を探してお願いしたいとは思っていますが…」 

そう、経済効果の計算はあくまでも宮本名誉教授の“趣味”的な活動。しかも、経済効果を世の中に発表することは、研究者としてはほとんどプラスにならないのだという。

「この活動が有名になったので、知らない人からは『こんなことばかりやっている変わり者』と思われがちです。たまにきちんとした数理経済学の本を出したら、『真面目なこともやってるんですね』と言われる始末。でも、僕はちゃんと毎年英語の論文も書いていますし、学会で発表もしているんですよ。偏ったイメージで見られる悔しさですか? 僕自身が楽しんでやっているので、それはないですね」 

「かつて財務省の審議会の委員をしていた関係で、タイガース優勝の経済効果について講演したことがあります。財務省の若手から管理職まで150人くらいの前で、計算の根拠や方法について詳しく話したのですが、『もっと適当に計算しているんだと思っていました』と驚かれましたよ(笑)」 

■最も印象深い経済効果は「たま駅長」11億円

せっかくの機会なので、宮本名誉教授がこれまで計算してきた多岐にわたる経済効果の中で、最も印象深いものは何なのかを聞いてみた。 

「僕の故郷にある和歌山電鐵貴志川線貴志駅の、たま駅長(猫)です。経営難が続く小さな鉄道会社が放った起死回生の一発が当たり、国内外のメディアに取り上げられるように。実際に乗客も増えたと聞いてこれは面白いと思い、現地まで足を運んで調査しました。経済効果自体は1年間で11億円と決して大きな数字ではありませんでしたが、地方の課題解決の一例として国土交通白書にも載りましたし、現地の皆さんも喜んでくださった。天国のたま駅長(初代)もきっと喜んでくれているんじゃないかなと思います」 

最初に「もうええ年なので」と仰っていた宮本名誉教授だが、直接話していると、まだまだエネルギーがたぎっているのを感じる。

「例えば2009年に東京のマスコミから頼まれてAKB48の経済効果を計算した時、僕はAKB48のことなんて何も知りませんでした。でも調べてみたら社会現象になっていて、経済効果も膨大な金額になっていた。知らないことを知るのって、やっぱり楽しいですよ。同世代の人との話題は病気と年金のことばかりですが、若い人たちと話すと刺激を受けますし、新しい計算のアイデアも湧いてきます」

「まあ、寿命がいつまでもつかはわかりませんが、これからも皆さんが明るい気持ちになれるような経済効果を計算していきたいと思っています」

差し当たっては、阪神とオリックスの日本シリーズ関西対決ですね!

(まいどなニュース・黒川 裕生)

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