「キケン」と書かれた愛護センターの咬傷犬 絶え間なく注いだスタッフの愛情 やがて人間を信じてくれた

2021年、広島県内の動物愛護センターに1頭のまだ若いオスのワンコが収容されていました。もともとは野犬とのことで、過ごす檻近くの壁のボードには「キケン」と書かれています。その言葉通り、人間が通るだけで歯を剥き威嚇してくるワンコでした。

一見すれば、とても接しにくそうです。噛み癖のあるワンコは特に引き取り手がないケースが多く、このままでは殺処分対象となってしまいます。

行き場を失ったワンコの保護・譲渡活動を行うピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)では、このワンコを引き出すことにしました。当初は「ガウガウ犬」と、そのまんまの名で呼ばれていましたが、後に名付けた名前はくらのすけ。くらのすけは人間に心を開いてくれるのでしょうか。

■「僕をどこに連れていくんだ」とガブッ!

犬が噛みつこうとする理由はいくつかあります。特に警戒していたり、不安やストレスを感じているときは噛みつこうとすることが多いものです。

ピースワンコのスタッフがくらのすけを引き出した際も、強い警戒心を抱いている様子で、「僕をどこに連れていくんだ」「僕に何をするんだ」とばかりに歯を剥いて吠え、ときにガブッと噛みつこうとしてきました。

過去にも多くの咬傷犬を「噛まない犬」に変身させてきたスタッフは動じません。「大丈夫。くらのすけもたっぷりの愛情を注げば、いつかきっといい子になる」「一緒にがんばろうね!」と、威嚇してくるくらのすけに対して、優しい言葉をかけてあげました。

■興奮する犬に効果アリ? 「目隠して体を触る作戦」

とはいえ、相変わらずくらのすけは、馴れない環境に置かれた不安から噛みついてきます。そのため、スタッフは安全のためにも当面、手袋必須で接することにし、さらにまずは、くらのすけの気持ちを落ち着かせることを目指しました。

その一つが目隠して体を触る作戦です。威嚇するワンコの目を隠して、周りを見えなくした状態で体を触ると落ち着くことがあり、くらのすけも見事その通りに吠えなくなりました。そして、気持ちが落ち着いたところで体にリードをつけていきました。

ワンコは拘束されて首が閉まってしまうことに強い不安を抱くので、ここでもスタッフは「大丈夫だよ、怖くないよ」「偉いね、かわいいね」と優しく声をかけながらなでて、気持ちを落ち着かせました。そして、リードを付けた状態で人間が周りにいても緊張しなくなることを目指しました。やりすぎると、「リードが嫌い!」ということになりかねないので、最初のうちは短時間。ゆっくりゆっくり、少しずつ少しずつ、くらのすけの不安を和らぐよう慎重にトレーニングしていきました。

■当初はとにかく嫌がっていたハーネス

こうしたトレーニングを日々少しずつ続けて数週間。くらのすけは以前ほどの興奮を見せなくなり、スタッフが体に触れることも許してくれるようになりました。

「よし大丈夫だ! くらのすけ、信頼してくれてありがとうね」と喜んだスタッフは、次にくらのすけを散歩に連れてくことにし、ハーネスをつけようとしました。しかしここでもまたガブッと噛みついてこようとします。

これまでは施設内でのトレーニングで、「悪いことは起きない場所だ」ということをくらのすけが理解したのでしょうが、見慣れないハーネスを体につけられ、「どこかへ連れて行かれる」「また知らない場所に連れ出されるの?」とくらのすけが警戒し、再び噛みつこうとしたように映りました。

そこでもスタッフは諦めません。「そっか。くらのすけはハーネスが嫌なんだね。でも大丈夫だよ。馴れたら外もきっと楽しいはずだよ」と声をかけ、くらのすけの気持ちが落ち着くよう、10分ほどなで続けました。くらのすけの表情が穏やかになっていったところであらためてハーネスをつけると、今度は成功。くらのすけはここから散歩の練習を始めることにしました。

■「ワンコは必ず変わってくれる」

散歩で外に出ても、くらのすけは人間との歩調がわからず、強く引っ張り、あるいは急に固まって動こうとしなかったりと一筋縄ではいきませんでした。しかし、それでも優しいスタッフの根気強いサポートと優しい声がけにより、上手に散歩できるようになりました。今では「本当に元野犬なの?」と思うほどに成長し、餌もスタッフの手から直接食べられるようにもなりました。

くらのすけは、このように少しずつ人馴れトレーニングを重ね、今日もピースワンコの施設で成長を続けています。

「何があっても絶え間なくたっぷりの愛情を与えれば、ワンコのほうも人間を信じてくれるようになり、そして必ず変わってくれるものです」とスタッフは言います。こういった優しい思いを持つ人が増えれば、ワンコと人間はもっと仲良しになれるでしょうし、行き場を失うワンコ、殺処分になるワンコの数も減っていくのではないでしょうか。

ピースワンコではそんな思いを抱きながら、今日も多くのワンコの命を救い出し、お世話をし続けています。

ピースワンコ・ジャパン

https://peace-wanko.jp/

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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