「この子は私が引き取ります!」離婚するとき・同棲を解消するとき…ペットの“親権”はどうなる?【弁護士が解説】

ペットを飼っていた夫婦が、不幸にして離婚することになった場合、ペットはどちらが引き取ることになるのでしょうか。同じような問題は同棲しているカップルにも見られますが、2人がどのような関係性だったかによって、状況は複雑になるようです。ペットに関する法律問題を取り扱っているあさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。

■離婚の場合…「財産分与」の問題として取り扱われます」

未成年の子どもがいる夫婦が離婚するときは、どちらが子どもと同居して監護していくのか、子どもの「親権者」を決めなければなりません(民法766条)。離婚届にも必ず子の親権者を記載しなければならないことになっています(戸籍法76条、77条)。

この「親権」は、人間の子どもに関する規定であり、ペットには当てはまりません。ペットは法律上「物」として扱われているため、離婚後のペットの帰属先については「親権」ではなく、「財産分与」の問題として取り扱われます。もちろん、離婚届に帰属先を記載する義務もありません。

「財産分与」とは、離婚するにあたって夫婦が婚姻生活中に協力して形成した財産を清算・解消することを主な目的とする制度です(民法768条)。

婚姻中の夫婦のどちらに属するのか明らかでない財産はその共有に属するものと推定する(民法762条2項)とされていることから、夫婦の財産の多くは夫婦の共有財産になっていると考えられますが、婚姻関係を解消するにあたってはこの共有状態も合わせて解消する必要があります。これが財産分与の制度です。

財産分与は、まず、夫婦間の協議で行います。婚姻中に飼い始めたペットについても、「夫婦が婚姻生活中に協力して形成した財産」として、例えば自宅不動産や預貯金口座、車などと同じように、離婚後どちらが引き取るか、夫婦間の話し合いによって決めることになります。

   ◇   ◇

話し合いによってどちらか一方が引き取り手と決まればいいのですが、夫婦のどちらもがペットを引き取りたいと主張して譲らない場合はどうでしょうか。

この場合、話し合いでは財産分与が解決しなかったものとして、家庭裁判所に調停を申し立て、家庭裁判所において話し合いを行うことになります(民法768条2項)。調停による話し合いでも解決しなければ、最終的には審判で裁判官が分与方法を命じることとなります(家事事件手続法272条4項、別表第二)。

家庭裁判所は、一切の事情を考慮して分与させるべきかどうか、分与の額及び方法を定めます(民法768条3項)。つまり、夫婦双方の意思はもちろん、ペットのそれまでの飼養状況や、今後の飼育能力・可能性などを考慮して、夫婦のどちらが今後の飼い主としてふさわしいのかを決めることになります。

例えば、主にどちらが普段世話をしているのか、どちらが飼育費や治療費を支出しているか、どちらによく懐いているか、一方から虐待を受けたりしたことはないか、といった事実を、証拠や心証に基づいて検討し、判断します。多忙で家にほとんど帰れないとか、仕事がなく収入に余裕がないとか、離婚後に住む予定のマンションがペット飼育禁止の規約があるとかいった事情は、ペット引き取りに関して不利に働くことになるでしょう。

なお、結婚前から所有していた財産や、婚姻中自己の名で得た財産は、その人単独の所有物として、財産分与の対象にはなりません。このような財産を特有財産と言います(民法762条1項)。

例えば妻が結婚前から飼っていた猫がいて、結婚後も実家から連れてきてそのまま夫婦一緒に飼っていたが、ついに離婚することになった、という場合、猫は「結婚前から有する財産」、つまり妻の特有財産として妻に帰属します。このような場合に夫が離婚後も猫を引き取って飼い続けたいと思うのであれば、妻から別途譲り受ける合意を取り付けるしかありません。

■同棲の場合…お互いの関係によって方法が変わります

私の事務所には、ペットを飼っていた同棲カップルが関係解消することとなった際のペットの引取で揉めている、という相談も多く寄せられています。どちらも猫を引き取りたいといって譲らない場合や、話し合いができずに一方が飛び出してしまったような場合は、どうすればよいでしょうか。

どうすればよいかは、同棲関係の内容によります。

双方ともに結婚の意思があり、同一の生計を営んでいる内縁・事実婚の間柄であったのであれば、婚姻類似の関係として離婚に関する規定が準用され、1でお話したような、家庭裁判所での財産分与の手続を取ることになります。

結婚と同視できないような、あくまで「お付き合い」の範囲内だった場合はどうでしょうか。

この場合、夫婦の財産共有の推定も働かないので、まず猫の所有権の帰属が問題となります。ここでは、「どちらが購入したのか」、もっと具体的に言えば、「どちらがお金を出したのか」が重要なポイントになります。

例えば彼女の側が猫の購入資金を全額負担し、契約書にも購入者としてサインしていれば、猫は彼女のものと判断されるでしょう。「ペットは法律上物として扱われる」という点を重視すれば、購入した者に所有権があることになるからです。もちろん、その一点だけで決まるものではなく、お金は出したがその後全く世話をしていないような場合は、購入資金やペットの贈与を受けて所有権が移転していると考えることもできるでしょう。

お金を二人で出し合った場合など両者の共有物と判断された場合は、共有物分割の訴えを起こすことになります。共有物分割には、現物をそのまま分ける現物分割、一方が取得するかわりに対価を支払う代償分割、現物を競売してその代金を分ける換価分割の3つの方法がありますが、ペットの場合は2番めの代償分割が行われることが現実的です。そもそも猫の価値をいくらとするのか、どちらがいくら出して買い取るのか、など、かなり揉めるケースが多いようです。

■こじれそうなら弁護士に相談を

以上のように、ペットの「親権」で話し合いがつかないときは、財産分与や共有物分割の方法を取ることになります。いずれの方法も裁判手続が絡む複雑な問題ですから、弁護士に相談の上で進めていくことをおすすめします。

◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。

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