ひどく怯えた眼差しに…「早く安心させてあげないと」 ケージに3年間閉じ込められていた“繁殖猫”が人に心を開くまで

「私自身、くっこさんのお迎えを決めるまでは劣悪な環境下にいる繁殖用猫や悪徳ブリーダーの存在をよく知りませんでした。そうしたブリーダーの方に聞いてみたい。動物が好きですか。ブリーダーの仕事に誇りを持ち、家族にちゃんと仕事内容を言えますか」

そう口にする飼い主さん宅で暮らすのは長足タイプのマンチカンである、くっこちゃん。

くっこちゃんは、悪徳ブリーダーのもとで“繁殖用の猫”として、ぞんざいな扱いを受けていました。

■数百匹もの猫を見る中で…目に留まった1匹の猫

2019年10月5日、25年もの月日を共にしてきた愛猫ロクちゃんを亡くした飼い主さんはペットロスに。

「ロクは食いしん坊でお魚を焼いたり、唐揚げの匂いがしたりすると、キッチンに飛んできました。20歳を過ぎてからも足腰は丈夫でしたが、亡くなる1カ月ほど前から、パウチを食べなくなり、トイレがまたげなくなりました」

飼い主さんは湯がいて細かくした刺身やササミをあげ、ペットシーツで排泄ができるようにサポート。なんとか命を紡ごうと努力しましたが、10月4日、ロクちゃんは倒れ、翌日に息を引き取りました。

「その時期、私は毎週末、予定が入っていました。ロクは私のことを思って、予定が入っていない週末を虹の渡る日と決めてくれたんだと思います」

ロクちゃん亡き後は、心が空っぽに。何もする気になれず、悲しみに打ちひしがれていました。そんな姿を心配した旦那さんから、新しい猫を探したらどうかと言われ、飼い主さんは保護猫と里親のマッチングサービスを行う里親募集サイトを閲覧。

「新しい猫を迎えることで、ぽっかり空いた心が埋まるのではないか。そして、いつまでも泣いてばかりでは、ロクが成仏できないと思ったんです」

数百匹もの猫を見る中で目に留まったのが、ひどく怯えた目をした1匹の猫。それが、くっこさんでした。

目がまん丸で、とてもかわいいのに、すごく怯えている。一刻も早く安心させてあげたい。そう思い、対面をせず、お迎えを決意。サイト側に連絡をした後、飼い主さんはくっこちゃんの生い立ちを知りました。

くっこちゃんは、当時3歳。繁殖用の猫としての役目を期待されていましたが、雄猫が嫌いでブリーダーが思ったような繁殖ができなかったため、繁殖猫を引退。ブリーダーのもとにいた3年間はケージ生活で、自由を感じられるのは、たまにケージの外に出してもらえた時だけでした。

「ケージに閉じ込めるだけの生活や子どもが産めないからとお払い箱にされたくっこさんの気持ちを想像したら、胸が締めつけられ、怒りを覚えました」

■「いつか慣れてくれたら…」と猫に寄り添った見守りをした

そのサイトでは譲渡時、サポート提携病院で獣医師が健康診断をし、正確な説明を聞いてから引き渡すシステムであったため、飼い主さんは後日、サポート提携病院へ。くっこちゃんは目やにが見られましたが、幸い、血液検査などでも異常は見られませんでした。

自宅では、くっこちゃんが少しでもくつろげるように段ボールやマット、クッションを用意。サポート提携病院ではマイクロチップの埋め込みや避妊手術も行ったため、抗生物質を飲ませようとしましたが、抱っこしようとすると、くっこちゃんは手をガブッと噛み、逃走。

慣れるまでに時間がかかる。そう感じた飼い主さんは必要以上に構わず、自由にさせてあげようと思ったそう。あえてケージは用意せず、自分たちが恐怖の対象にならないよう、静かに様子を見守り続けました。

くっこさんは新しい環境になかなか慣れることができず、やがて粗相をするように。そこで、飼い主さんは猫がどんな時にどういった理由から粗相(スプレー行為)をするのかを調べ、対策を練りました。

「ネットには急激な環境変化や不安を感じる時に気持ちを落ち着かせるために行うと書かれていたので、スプレーをかけていた台所の引き出しに段ボールとペットシートを隙間なく張り、床にもシートを敷き詰めました」

その場所には新しいトイレも設置。いつか、このトイレで用を足してくれるはずと考え、気長に待ちました。

すると、1カ月後、くっこさんはトイレで用を足してくれるように。飼い主さんは嬉しさを噛みしめ、「お利口さんだね」とくっこさんを褒めました。

「粗相をするのは悪いことではありません。くっこさんは新しい環境に慣れるのに戸惑い、一所懸命だったはずですから」

■お迎えから4カ月に初めて触れた!

飼い主さん家族が心がけた“優しい見守り”は、ちゃんとくっこさんの心に届いていました。お迎えから、約4カ月後。ついに嬉しい出来事が!初めて、くっこさんの首を撫でることができたのです。

「ゴロゴロしながら、じっとしていました。それまでは遠くから名前を呼んで近づいても、すぐに逃げていたので、一度も触れることができませんでした。けれど、この日を境に、少しずつ触ることができるようになっていきました」

この子はきっと甘え方を知らず、甘えることを経験したことがなかったから戸惑っていたんだ。そう感じた気飼い主さんは、ますますくっこちゃんのことが愛しくなりました。

「今では明け方やお昼寝時にベッドへ上がってきて、私の左肩で一緒に寝ます。その時、左手を首に回し、ぴったりとくっついて私の顔を見て甘える姿が本当にかわいい。耳が後ろに引っ張られて、怪獣みたいな顔に変身する、あくび姿もかわいいです。」

くっこさんは出窓に乗るステップ台となっているミニテーブルの前に飼い主さんが座ると、顔を傾けてコトンと倒れ、触ってアピールをすることも。

また、旦那さんが使用している耳栓が大好き。旦那さんが起床してリビングに来ると、ベッドの上に耳栓が落ちていないか探しに行きます。

「見つけると、咥えながら急いでリビングに来て遊び始めます。一心不乱に遊ぶその姿が、ちょっとコミカルです」

ただ、繁殖猫として扱われていた心の傷が垣間見える瞬間は今でもあります。例えば、捕まえられたり、抱っこされたりするのが苦手。

抱っこしながらの爪切りができないため、飼い主さんは2カ月に1度、動物病院で爪切りをしてもらっていますが、病院で捕まえられると失禁や便失禁。

また、大きな声や動作の人を警戒。お迎え当初は旦那さんとの距離も、なかなか縮まりませんでした。

「あくまでも憶測ですが、繁殖させようとした人物が男性だったのかなと感じます。来客時も一目散に逃げます。心の傷だらけです」

高いところへのジャンプも苦手で、ダンボールや紙袋にも入らず、ブラッシング時以外はへそ天もしない。好きなお刺身も隅に持って行き、隠れて食べる。そんな姿を間近で見ているからこそ、飼い主さんは劣悪な環境での繁殖を動物に強いている悪徳繁殖業者に強い怒りを感じています。

実は、くっこさんを引き取る時、繁殖用猫について調べ、辿り着いたのが当媒体に掲載されていた、ある猫ちゃんの生い立ちでした。

「その子ほど、くっこさんは劣悪な環境ではなかったと思われますが、ケージ生活を強いられ、1匹でいるのが好きなところは同じです。性格もあると思いますが、雄猫も人間も嫌いだから、その子もくっこさんも1匹でいたのではないかと思ったんです」

負担を考えず、命をモノとして扱う悪徳ブリーダーや繁殖屋によって年に数回も出産させられ、ボロボロになる子が近い未来、どうかいなくなってほしい。飼い主さんは、そう願わずにはいられません。

頑張ってきた分、これからのニャン生が満ち足りたものでありますように。くっこちゃんのニャン生に触れると、そう願いたくなると同時に、自分にできる動物の守り方も考えたくなります。

(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)

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