宝くじのルーツ、日本最古の富くじ「箕面富」 年に一度の運試しに行った
一発当たれば億のお金が手に入る、そんな夢を買える宝くじ。日本でのルーツは実は、大阪府にある箕面山瀧安寺(みのおさんりゅうあんじ)の富くじだと言われています。毎年10月10日に行われるその行事を訪ねてみました。
■上方落語に描かれた大阪の富くじ
上方落語に「高津の富」という演目があります。江戸時代、大阪市中央区の高津神社で行われていた「富くじ」を巡って、一文無しの主人公と宿屋の主人が右往左往するという面白いお話です。落語の中でこの富くじ、一口当たり一分という設定になってます。そして、一等当選金は千両。一両は四分ですから、四千倍ということになりますね。現在の宝くじは、法律で250万倍(例えば一口300円の宝くじで、最高額は7億5千万円)まで、ということになっていますから、富くじはかなり倍率が低く感じます。しかしこれは仕方ないことで、高津神社の周囲の人々に世話役が手売りするやり方ではそうそうたくさんの口数が売れるわけもない、ということでしょう。1ユニット1千万枚も発行されて全国で売られる宝くじとは規模が違いますよね。
江戸時代の貨幣の価値を今の時代に換算するのは難しいのですが、よく言われるのは一両はだいたい4万円から15万円くらいとされています。となると富くじは一口1万円から4万円ほどで、一等は4千万円から1億5千万円くらいということでしょうね。車や家電、まして億ションなどなかった時代ですから、贅沢というと主に飲食や色町遊びなどでしょう。これだけのお金があればきっと、一生美味しいものを食べて面白おかしく暮らせたんじゃないでしょうか。
一等千両、二等五百両、三等二百五十両として、一口一分だと7,000口売れてとんとんです。胴元がどれだけ利益を出すのかわかりませんが、一口1万円から4万円もするくじがそれだけの数売れた、しかもいまより人口の少ない大阪市内の高津神社界隈で、という風に考えると、これはかなり当時の人は熱狂してたんでしょうね。
■富くじが禁止されて103年目、宝くじが誕生
ここまでご紹介したのは、あくまで「上方落語の世界の富くじ」です。実際の富くじはこんな単純なシステムではなく、もっと複雑だったようです。また、富くじは基本的には賭博の一種とも考えられ、エスカレートするといろいろ問題があるということで、江戸時代には基本的に禁止されていたようです。ただ、お寺や神社が修繕費などを調達する手段として特別に許可されていたものがあったのだそうです。
天保の改革で1842年、富くじは全て禁止になってしまいます。そして戦後、1945年に政府が「宝くじ」を発行して、それが現在の宝くじに繋がっていったのですね、
■富くじ発祥の地でいまも続く「箕面富」
富くじの最初は大阪の箕面山瀧安寺で、その起源は1624年(一説には1575年)といわれています。新年、1月7日までに参拝した人を対象にくじが行われたので、俳句の歳時記にも「箕面の富」が新年の季語として載っています。ただこれはお金が当たるのではなくて、福運の「御守り」を授与したのだそうです。
箕面富と呼ばれたこのくじは明治期以降途絶えていましたが、2009年に復活、以降毎年10月10日に行われています。
2023年10月10日、福運を授かろうと筆者も瀧安寺に参拝しました。阪急箕面駅前の駐輪場にスクーターを止めて、滝道を歩くこと1kmあまり。箕面富の幟が並ぶ瀧安寺に辿り着きました。山門前で1000円納めて、ミニ大福守と瀧安寺の拝観券、それと富札をいただきます。
3桁の番号が書かれた富札と、同じ番号が書かれた木の札が台の上に並べられていて、好きな番号を選べるようになっています。選ぶとその富札を渡されて、木の札は回収されてその後に抽選箱へ入れられるのですね。
時刻は10時前。抽選は11時からなので、それまで特別公開されている客殿を拝観したりして過ごします。龍や虎のふすま絵が見事でした。
さて11時。法螺貝の音に続いて住職と世話役が観音堂の前に上がります。続いて世話役が木札を捧げ持って上がり、「富」と書かれた大きな木箱に入れます。その箱を左右から持ち上げて揺すり、混ぜます。お経を唱えたあと、住職が紅白の長い棒を箱に差し入れます。棒の先には錐(きり)が付いていて、箱の中の木札を突き刺してくじを引くのです。
当たるのはもちろん金品ではありません。「当たりても 減る銭金の 富でなし 身のおい先を 守る神札ぞ」という歌が、箕面富のチラシにも書いてあります。そう、当たるのは御守です。ただし普通の御守ではありません。「大福御守」という、ものすごく大きな御守です。あれだけ大きいのですからきっとものすごい御利益が実装されているに違いありません。普通の御守が機動隊のジュラルミンの盾くらいとしたら、これはチャレンジャー戦車の装甲板くらい守ってくれそうです。また富くじ発祥のお寺の特別な御守なんですから、ハロウインジャンボでもロト7でもなんでも一発で引いてしまえる剛運を授かれそうな気がします。
そして結果は…。見事に外れました。やはり欲を前面に出していてはいかんみたいですね。
無私無欲の気持ちで(無理かな)、来年また来ようと思いました。
(まいどなニュース特約・小嶋 あきら)