36歳男性「妻と子どもの3人家族。貯金ゼロですが、生活できているので、特に問題だと思っていません」…FPが訴える“将来に備える必要性”
金融広報中央委員会が毎年行っている「家計の金融行動に関する世論調査」によると、「夫婦と子どもがいる世帯」で20.5%が金融資産を保有していない、つまり「貯金ゼロ」の状態だと回答しています(2022年調査より)。
FPとして家計相談を受ける中で、「貯金ゼロ」というケースに出会うことが一定数ありますが、貯金がなくても特に支障なく日々の生活が回っている状況であれば、お金を貯めていく必要性を感じないかもしれません。中には、「貯めようと思っているけれど貯められない」という人もいますが、そもそもお金を貯める目的が明確でないことが原因とも言えます。
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◆相談者プロフィール
36歳男性 会社員(Webエンジニア)
・妻:34歳 専業主婦
・子ども:3歳
・年収:400万円
・預貯金:無し(1年半前に家族で3カ月旅行に出てすべて使った)
・月々の支出:25万円
◆相談内容
1年半前に、10年勤めた会社を辞めて、3カ月ほど家族みんなで日本一周旅行をしました。その後再就職しましたが、月々の収入をほぼ使って生活している状態で、貯金がありません。
最近、NISAなど投資運用の話題をよく聞くようになったので、お金を増やすために、なにか始めた方がいいのかと気になりはじめました。
お金を貯められるか、あまり自信はないのですが、将来お金の心配がないように、できることやしておくべきことはあるでしょうか。貯金が必要なのであれば、何のためにいくらぐらい必要なのか教えてほしいです。
なお、現在の「貯金ゼロの生活」も不自由を感じたことはありません。やりたいことをやりたい時にやって、「お金が無いなら無いなりの暮らしをすれば良い」と夫婦共に思っています。これまでもそうしてきたので、特にお金を貯める必要性も感じていません。
妻は専業主婦ですが、子どもが小さいうちはなるべく一緒に過ごしたいとのことで、無理に働かなくていいとも思っています。
■相談者さんは運良く「幸せな人生」を歩んでこれた
相談者さんは、1年半前に旅行で貯金を使い果たしてからは、毎月の収入の中で生活を営み、手元に残るお金はほぼ無い状況とのこと。
「宵越しの銭は持たない」という江戸っ子の象徴とも言われる言葉がありますが、収入はすべて使い、また次の月の収入でその月の生活をするというのは計画性が無いとはいえ、実はとても幸せなこととも言えるかもしれません。
なぜなら「これまでの収入が減る、途絶える」「急にまとまったお金が必要になる」というイレギュラーな出来事が起きることなく、いつもの日常を続けられているからです。
▽収入が減る、途絶える状況とは?
例えば相談者さんが不慮の事故に遭ってしまったり大きな病気で「これまでの収入が減る、途絶える」状況になると、これまでの日常は大きく変わると同時に、お金の流れも変化するでしょう。
家賃や光熱費などの固定費は、収入に関わらず支出として一定額が発生します。収入減の場合、貯金が無ければ「固定費以外のどの支出を削るか?」を即座に考えなくてはいけません。仮に収入が完全に途絶えたら、今の生活を維持継続することは厳しくなります。
▽まとまったお金が必要になる状況とは?
「急にまとまったお金が必要になる」状況も考えてみましょう。
例えば冷蔵庫や洗濯機が壊れてしまったら、買い替えの費用がかかります。家族の誰かが病気やケガをした場合は、普段はかからない医療費負担が発生しますし、仮に妻が病気やケガをして家事に支障をきたせば外食が増えたり、子どもが小さいうちは他人の手を借りるためにお金を使う場面も想像できます。また、冠婚葬祭などのイベントがあれば、臨時出費もあるでしょう。
「お金が無いなら無いなりの暮らしをする」というのが、ずっとこの先も実現可能なのか、またストレスなく続けられるのかについて、今一度ご夫婦で話し合っていただく必要がありそうです。
■人生の「3大支出」を知っておきましょう
生活していく上では日々の生活資金も重要ですが、長い人生の中においては「3大支出」と呼ばれる大きな支出があり、時間をかけて準備したいお金です。それは「教育資金」「住宅資金」「老後資金」の3つです。
▽教育資金
相談者さんには現在3歳のお子さんがいらっしゃいますが、子どもが産まれてから社会人になるまでに必要な教育資金は、最低でも1,000万円と言われています。
幼い頃から水泳やピアノ、サッカー、英会話教室などの習い事から始まり、年齢が上がると学習塾通いや部活動なども加わり、大学受験の時期を迎えます。仮に大学に進学しなくても留学や専門学校へ進むなど一定の教育費はかかると考えられます。
相談者さんは、現時点では子どもにはあまりお金がかかっていなくてピンとこないかもしれませんが、教育費が一番大きくかかる時期というのは決まっています。それは高校卒業前後の18歳の頃で、その時期は受験に向けての塾通いや受験費用および大学の学費、場合によっては一人暮らしのための引っ越しや生活資金も必要になるからです。
その時期を目指して、教育資金は400万円を目標に準備したいところです。4年ほど前の筆者の体験談ですが、我が家の娘には高校3年の1年間の塾費用だけで100万円、大学受験期の約4カ月の間だけで130万円(受験費用、大学入学金等)かかり、まさに娘が18歳の時に計230万円の支出が発生しました。その後も4年間の学費の支払いが続いています。
子どもの教育費は、必ずかかるものであり必要な時期もある程度決まっています。2人目・3人目のお子さんも考えられている場合は、その人数分が必要になることも覚えておきたいです。
▽住宅資金
いつかはマイホームを購入したいと思う人もいれば、生涯、賃貸で過ごす考えの人もいるでしょう。いずれにしても人生の中では大きな支出となるのが住宅費用です。
仮に、マイホームを購入する場合、マンションか戸建てかによって、また地域や広さによっても価格は異なりますが、「フラット35利用者調査/2021年度」(住宅金融支援機構)によれば、購入価格の全国平均はマンションが最も高く4528万円、最も安いのが中古戸建2614万円でした。地域で比較すると首都圏が高い傾向で、2023年1月~6月の新築分譲マンションの平均価格(不動産経済研究所)は8873万円、東京23区に至っては1億円を超えている状況です。
相談者さんは「とりあえずその時に住める場所があればいい」と、一生賃貸で過ごすことを考えられているかもしれませんが、その場合でも一定の家賃支出が生涯続くことになるため、現役期と比べて収入が減少するであろう老後も、同等に負担し続けなければならないことを覚えておきましょう。
▽老後資金
老後資金については、一概に必要な金額はいくらですと決まっているわけではありません。公的年金や退職金などの収入から足りない部分について準備したい資金になるので、人によって金額は異なります。場合によっては、年金収入で日々の生活費は賄えるため老後資金は少なくても問題ないというケースもあるかもしれません。
ですが、日本人の平均寿命(2022年)は女性が87.09歳、男性が81.05歳となっており、今後も老後生活は長くなる傾向にあるため、その分、使うお金も増えることが予想されます。相談者さんにとって老後はまだ遠い先の話と感じるかもしれませんが、老後を迎える間際に「お金が足りない!」と慌てて、そこから貯め始めても間に合いません。今からできる備えとして、少額でも貯める意識は持っておきたいところです。
■お金を貯めるためには「仕組みづくり」から
相談者さんは「将来を考えてお金を貯められるか、あまり自信がない」とのことでしたが、仕組みを上手に活用すれば難しいことではありません。
仮に、貯めようという意識が持てないなら、仕組みを取り入れることをお勧めします。収入から自動的に貯蓄用のお金が差し引かれ、強制的に貯まる仕組みを取り入れればよいのです。
例えば、給与天引きで職場の財形貯蓄制度を利用するのも一つの選択肢ですし、銀行の積立定期預金で毎月一定金額を貯めていく仕組みを走らせるのもよいでしょう。
また、教育資金づくりについては、少なくとも国から支給される児童手当は子ども名義の口座に貯めるようにして、簡単には引き出せないようにキャッシュカードは持たない、もしくはハサミを入れてしまう…というくらい縛る仕組みにして貯めていくことも考えてみられてはいかがでしょうか。
仕組みを取り入れ、お金を貯めることが習慣になれば、気がつけば貯蓄ができていたということになるはずです。
■家族の望みを叶えるために「必要なお金」もある
そもそもお金は、何らかのモノやコトのために使う目的で、稼ぎ貯め増やしていくものです。今後の長い人生の中で、家族の望みを叶えるために必要なお金は色々な場面で出てくると思われます。今をめいいっぱい楽しむことも大切ですが、将来に渡っても楽しめる時間が増やせるように、何らかの目的を持ってお金を貯めることをスタートしてみてください。
また、現在の家計を見直すことで、貯蓄に充てられるお金を増やすことができるかもしれません。妻が短時間勤務や在宅ワークなどに取り組み、月に数万円でも収入を得られれば家計は潤うでしょう。
上手にお金を貯められるようになり、さらにお金まわりの環境を整えるにあたって考えたいことや悩まれることがあれば、その時は私たちFPに気軽にお声かけいただければと思います。
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◆福永涼子(ふくなが・りょうこ)FPオフィス「あしたば」のファイナンシャルプランナー(CFP)。2001年にFP資格取得しFP仲間と共に子どもの金融教育を推進。その後、銀行での運用相談業務を経て現職に至る。自身の経験もふまえた「働く女性や母親の視点」でのお金に関するアドバイス&サポートには定評がある。年間約250件の個別相談を実施。