水を飲むのが「ダイエットにいい」って本当?…科学が明らかにした真実と「効果的な飲み方」 元ボディビルダー教授が解説
一般にダイエットには、1日あたり2リットル程度の水を飲んだ方がよいといわれています。一方、飲み過ぎは逆に太るとか、水中毒になるともいわれています。このように真逆の情報があると、いったいどうすればよいのか悩みますね。
科学的な研究結果によると、結論は「ダイエット時に水を飲むのがよいというのは本当らしいが、効果的な飲み方がありそう」となっています。「1日に飲む分量」「タイミング」について、減量効果がある飲み方を探ってみましょう。
■1日に飲む水の量を増やすと減量できるの?
アメリカの小児病院研究所の研究グループは、173名の過体重の成人女性に4種のポピュラーなダイエット法のいずれかを実施してもらい、水を飲む量と減量効果の関係を調べました。この研究の本来の目的はダイエット法による効果の違いを調べることだったので、副次的な結果になります。
結果としては、1日1リットル以上の水を飲む人は飲まない人に比べ、12カ月後の体重の減少幅が2.3kg大きいことが分かりました(※1)。
この減量効果の要因の一つとして、加糖飲料のようなカロリーのある飲料の水への置き換えが関連していると考えられます。加糖飲料は固体の食品に比べると満腹感が低いため、それを飲むことによりエネルギー摂取量が増え、肥満につながることが報告されています(※2)。そのため、このような飲料の水への置き換えは減量効果を高めることが期待できます。
一方、室温の水500ミリリットルを飲むことにより、エネルギー消費が高まり、約24kcalの熱産生を起こしたという報告があります。この熱産生は、水の温度を体温まで上げることと、水の低い浸透圧が刺激になって交感神経活動を高め、エネルギー消費量が増加することによると考えられています(※3)。仮に1日1リットルの水を毎日飲むと、半年で約1kgの体脂肪が減る計算になり、非常に興味深い結果ですが、このような長い期間にわたりエネルギー消費量を高め続けられるのかが不明なため、要因の一つとは断定できないと考えています。
これらをまとめると、加糖飲料のようなカロリーのある飲料を飲んでいる人であれば、まずはそれを水に置き換えることは、エネルギー摂取量が減り減量効果が高まるといえます。また、単に1日1リットル以上の水を飲むことも、エネルギー消費量を増やし、減量効果を高める可能性もあります。しかし、水の摂取量を増やすこと自体は減量効果につながらないとする研究結果もあるため(※4)、私としては、次に紹介する「飲み方」の影響が大きいと考えています。
■食事前に水を飲むと減量できるの?
イギリスのバーミンガム大学を中心とした研究グループは、84名の肥満の成人男女を食事の30分前に500ミリリットルの水を飲む群と飲まない群に分け、約3カ月後の体重の変化を調べました。両群ともに健康な生活を送るための食事などのアドバイスが行われ、水を飲まない群では、水を飲む代わりに食事の前にお腹がいっぱいであることをイメージしてもらいました。その結果、食事の前に水を飲む群では2.5kg、飲まない群では1.3kg体重が減少し、食事の前に水を飲む方が高い減量効果を示しました(※5)。
別の研究において、食事の前に水を飲むと食事開始時の満腹感が高く、食事によるエネルギー摂取量が低くなることが報告されています(※6)。そのため、エネルギー摂取量の減少が減量効果につながっているようです。つまり、食事の30分前に500ミリリットルの水を飲むと、食事によるエネルギー摂取が低くなり、減量効果が高まるといえそうです。
■水の摂取にリスクはあるの?
水の飲み過ぎは逆に太るといわれることがありますが、水にはエネルギーがないため、体脂肪が増えることはありません。増えるとすれば、それは単なる水分であり、健常者ではこれにより一時的に体重が増えても、時間がたてば水が排泄され元に戻ります。
また、水の飲み過ぎは水中毒になるといわれることもあります。水中毒とは、水分摂取が腎臓の最大利尿速度のおよそ16mL/分を超え、細胞が水で膨らんだ状態をいいます。その主症状は脳浮腫による意識障害、けいれん発作です。水中毒の症例のほとんどが精神病患者であり、健常者での報告はほとんどありません(※7)。
先の16 mL/分は1時間で約1リットルになりますが、これ以下であれば問題ないと考えられます。
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ダイエット時の水の効果や有害性について、様々な情報が飛び交っています。このような状況になった原因の一つは、体験談に基づく情報が多いためだと思いますが、前述の内容をまとめると次の二点のことがいえそうです。
一つ目は、普段カロリーのある飲料を摂取している人であれば、それを水に置き換えること、二つ目は、食事の30分前に500ミリリットルの水を飲むことです。これらの方法であれば、水中毒などの悪影響はないと思いますので、食事や運動によるダイエットに加え、取り入れてみてはいかがでしょうか?
◆御堂直樹(みどう・なおき) 東京医療保健大学・医療保健学部医療栄養学科教授。1965年生まれ。東北大学博士 (農学)。複数の食品メーカーにて商品開発や品質保証に従事した後、2021年から現職。専門は食品学、食品加工学、食品機能学。アメリカンフットボール、ボディビルディングに取り組み、ボディビルディングでは2002年に日本社会人大会で優勝した。全米ストレングス&コンディショニング協会(NSCA)が認定する、安全で効果的なトレーニングプログラムを計画・実行する知識と技能を有する専門職資格・CSCS(Certified Strength and Conditioning Specialist)を持つ。
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【参考文献】
※1 Stookey JD et al. Obesity, 16, 2481-2488, 2008.
※2 御堂, 日本調理科学会誌, 44, 79-84, 2011.
※3 May M and Jordan, J Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol, 300, R40-R46, 2011
※4 Wong JMW et al., JAMA Pediatr, 171, e170012, 2017.
※5 Parretti HM et al., Obesity, 23, 1785-1791, 2015.
※6 Dennis EA et al., Obesity, 18, 300-307, 2010.
※7 又吉, 日集中医誌, 12, 188-190, 2005.