飼い主が倒れて11匹の猫が外に放たれた…多頭飼育崩壊の先にあった更なる「崩壊」 個人の保護活動ではもう限界
動物の保護に関する問題は、個人の努力では解決することが難しい場合も多い。まさに、今そうした現状に直面しているのが、松本市在住のあみさんだ。
あみさんは25年ほど前から個人で近隣の猫の繁殖制限に取り組み、多頭飼育崩壊を引き起こした飼い主を見守って、適正飼育が行われるようにサポートしてきた。しかし、今年の10月、その飼い主が突然倒れ、多くの猫が外に出されてしまったという。
いきなり外の世界に放たれてしまった猫たちを助けるため、あみさんは行政に相談もし、尽力しているが、心身共に限界を迎えている。
■ことの発端は近隣住宅の多頭飼育崩壊に携わったこと
2022年9月、あみさんは小脳形成不全で四肢麻痺の猫・うずらちゃん宅の多頭飼育崩壊に関わった。飼い主のBさん宅は室内に5分いるだけで下着まで悪臭が染み付くほど、家全体が猫のトイレと化していたそう。
「19頭に不妊手術を行った後、数日かけて糞尿の山を片付け、飼い主のケアをしながら猫の様子をしばらく見守りました」
19頭のうち、うずらちゃんを含めた4頭が譲渡され、1頭は地域猫に。3頭は身内が連れ帰ったため、Bさん宅で暮らす猫は11頭となった。
Bさんはひとり暮らしではあったものの、毎朝、身内と安否確認の電話をしていたそう。そうした繋がりがあることに、あみさんは安堵した。
「だから、飼い主が猫のトイレ管理ができるようになったタイミングで連絡を怠ってしまいました」
■飼い主が倒れたことで多くの猫が“外猫”になってしまった
それから約1年後の2023年10月。あみさんのもとに、近隣住民から「屋根の上に衰弱した猫がいる」との相談が入った。急いで猫を保護し、動物病院へ行くと、飢餓による肝リピドーシス(※様々な原因によって猫が食欲廃絶、絶食状態となると体内の脂質が肝臓へ沈着し、発症する病気)であると診断された。
その猫は2週間入院し、あみさん宅へ。名前は、ポポに決定。治療にかかった約19万円は、あみさんが負担した。
翌日、あみさんは近所で、ヨロヨロ歩く猫を保護。動物病院へ連れていくと、敗血症と貧血であることが判明する。この猫はぺぺと名付け、通院治療をすることに。これまでにかかった治療費は約7万円で、現在も療養中だという。
なぜ、こんなにも近所にボロボロの猫が現れるのか…。それには、Bさん宅の異変が大きく関係していた。実はBさん、2023年6月末に倒れ、8月中旬までは身内が週に数回、Bさん宅を訪れ、室内で猫たちのお世話をしていたそう。
「でも、暑さと疲労を理由に全ての猫を外に出したそうです。その後は外での配食はしていたそうですが、近隣からの糞尿のクレームにより10月にストップしたのだと知りました」
■金銭的にも肉体的・精神的にも限界…行政の積極的な介入を
事実を知ったあみさんは近隣住民に事情を説明し、クレームを解決しながら、猫の命を繋ごうと考えた。そこで、見守りをしながら外での配食を開始。近隣住民と連携し、Bさん宅で飼われていた11頭が外猫になり、配食を貰いに来ていることを確認した。
もう、自分たちだけでは抱えきれない問題になっている。そう感じたあみさんはBさんの身内や行政、町会長、民生委員、近隣住民との話し合いの場を設けた。
「そこで決まったのは、まず猫たちを室内に戻すこと。その後についても、あらゆる提案をしましたが、それから2週間経った10月31日時点でも仲介役の行政からは音沙汰がなく、猫たちの飼育も放棄されたままです」
そのため、あみさんは配食や見守りを続けながら、状態が悪い猫を新たに3頭保護。Bさん宅で暮らしていた計5頭を自宅で治療しているが、金銭的にも肉体的・精神的にも限界を感じている。
「今回の件の治療費や交通費、フード代を合わせると30万円を超えており、キャパオーバーで私自身の生活が崩壊寸前です。身内には医療費だけは請求するつもりですが、回収できるかは分かりません」
そう語るあみさんは、今回の事案への行政の積極的な介入を望んでいる。また、一時保護している猫たちのフードや猫砂、ペットシートなどの支援をSNSで呼びかけてもいるようだ。
「正直、今までもこうした案件はたくさんありましたが、いつも当事者に寄り添い、信頼関係を築きながら解決してきたので、今回も責めることなく解決の道を探したいと思っています」
突然、外の世界に放たれ、警戒心を強めなくてはならない生活を送ることとなった猫たち。全匹が穏やかな暮らしを取り戻せ、再び家猫となれる日が早く訪れてほしい。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)