クマにかじられた「顔面」は路上に落ちていた…形成外科医が語る「熊外傷」の恐ろしさと被害の多さ「今年だけ全く状況が違う」

熊による今年度の人的被害が、統計開始以降最多を更新している。

ヒグマ、ツキノワグマを問わず、熊は人間の顔面や頭部を執拗に攻撃する習性があるという。そのため、「命に別状はない」と報道される場合も、実際は頭部や顔面が激しく損傷するなど、凄惨な状況であることが多い。

先日、秋田大学医学部付属病院が提供した「熊外傷」のCT画像をNHKが公開した。農作業中に遭遇し「熊に顔をひっかかれた」被害者が、顔面中央部分を激しく損傷していることが、CT画像からもはっきりとわかった。

■「熊外傷」は形成外科が関わる最悪の類の顔面外傷

これを受け、「熊外傷」の公開論文(※ショッキングな症例画像があるため閲覧注意)のURLと共に、「形成外科が関わる顔面外傷でも最悪の類」と、X(旧:Twitter)にポストしていたのは、海外を拠点にする再建・形成外科医、世界のどこかで再建外科(@Recon_surgeon)さん。論文に掲載された想像を絶する症例に対し、多くの医師からも反響が寄せられた。

一連の投稿に対して、「今年13件目を手術しました。いちばんひどかったのは、中顔面をかじり取られて、顔面動脈吻合で再接着。顔面移植ってこんな感じなのかと思いました」とコメントしていたのは、医学部附属病院の形成外科医、ぽっぺん師匠(@2DVDinmVxMeTJjp)さん。

ぽっぺん師匠先生によると、通常は年に1件あるかどうかという「熊外傷」の手術を、今年はすでに13件も担当。明らかに「今年だけ全く状況が違う」のだという。

■救急隊が拾って来てくれた「熊にかじり取られた顔面」

ぽっぺん師匠先生がXに投稿していた、「熊にかじり取られた中顔面(下まぶたから上唇までの顔部分)」は、約4時間を費やし、「顔面動静脈を顕微鏡下に吻合することで血流を再開させてつなげる手術」を実施。

熊にかじり取られた被害者の中顔面は、「眉間から両下眼瞼、頬、鼻、上口唇がひとまとまりに路上に落ちていたのを、救急隊が拾って持って来てくれました」と、ぽっぺん師匠先生。この言葉からも、「熊外傷」の凄まじさが容易に想像出来ることだろう。

「熊は顔面を狙って攻撃してくることが多く、顔面に重篤な破壊を加えられると後遺症を残すことになり、その後の人生に大きな影響を与えるものとなります。普段接することがないほどの強い力で襲われるため、特に顔面に残る後遺症は、傷跡だけでなく、顔が動かなくなり、眼が開かない、閉じない、口が動かないなどの症状が残り、対策の手術を繰り返すことになります」(ぽっぺん師匠さん)

■失明を防ぐため、とにかく「眼球」を守って

「患者さんに話を聞くと、ほとんどが突然襲いかかってきた、あるいは後ろから襲われた、藪の中から飛びかかってきたといった受傷形態です。熊に出会ったら熊から眼を離すな、後退りしてゆっくり離れろ、などと言われていますが、このような対策は現実的ではないと感じます」と、ぽっぺん師匠先生。

それでも、「熊の鋭利で長い爪で眼球を引っかかれると失明を免れないため、眼を守ることが被害を小さくする対策として有効であると考えます」と、先生は語る。

■「熊かわいそう」は被害地域住民には通用しない

転落事故や交通外傷など、重傷例を担当する整形外科医でさえ絶句するという「熊外傷」。秋田県では住宅街にもツキノワグマが多数出没しており、通学や通勤、買い物など、日常の外出でさえ危険な状況だという。

にも関わらず、被害地域外から「熊の駆除」への苦情が寄せられていることに対して、「熊外傷」の手術・治療にあたる形成外科医として、ぽっぺん師匠先生はこんな風に話す。

「過去にも異常気象により植生が変動した年はあったはずなのに、今年だけ特殊な状況にある理由については、まだはっきりとは解明されていません。山の斜面を切り拓いた太陽光発電パネルの設置など、人と熊の生息域の境目が変わったことを原因のひとつとしてあげる方もいますが、判然とはしません。イノシシとのエサ争いに負けたのではないかと考える意見もあります。杉を植林した山を、本来の植生である広葉樹林に変えるのは理想的な構想です。しかし、自然回復のための公共事業には多額の予算と時間がかかるうえ、どのような効果があるかは予測不能です。

野生の猛獣が山奥から人の住む領域に出てきて、人的被害が出ているのが今年の状況です。熊を絶滅させることが正しいとは思いませんが、単純に駆除される熊がかわいそうというのは、被害地域の住民には理解されない意見だと思います」(ぽっぺん師匠さん)

■「熊」被害は人生を大きく狂わせる

熊に襲われた際の「熊外傷」は、例え命が助かったとしても、複数回の手術や感染症治療、術後の後遺症、顔面損傷による社会的なダメージなど、その後の人生を大きく狂わせるものだということを忘れてはならない。

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ かな)

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