境内で保護したお寺の猫 野良猫にいじめられ脱走→近所の人たちの協力で無事に戻る 家族の絆深まり、もっと甘えんぼうに
JR大阪環状線・野田駅から徒歩約10分。浄土真宗本願寺派「居原山・圓満寺(えんまんじ)」は、1534年創建の古刹。由緒あるお寺で暮らすのが、ポメラニアンの「阿弥(あみ)」(メス、6歳)と茶白猫の「テン」(オス、4歳)だ。仲良く暮らしていた2匹だったが、昨年(2022年)夏、予期せぬ出来事が起こり、家族の絆はより一層深まった。何があったのか?棘惠淨(いばら えじょう)住職(71)の義娘でテンや阿弥の世話をしている若坊守の恵香(けいか)さんに話を聞いた。
恵香さん 2019年7月のある日、境内の片隅で、生後2ヶ月ほどの子猫が衰弱しているのを坊守さん(住職の妻の真代さん)が見つけました。それがテンです。どこから迷い込んできたのか、母猫もおらず1匹だけぽつんといたそうです。弱っていたので知り合いの獣医さんのところに連れていってノミやダニの薬などを処方してもらい、ご飯をあげると次第に元気になり、これも何かの縁と寺で飼うことにしました。
猫を飼うのは初めてだったのと、その2年前からポメラニアンの阿弥(あみ)を飼っていたので、阿弥がテンを受け入れてくれるかどうか不安でした。最初は居場所を離していたのですが、阿弥はまるで弟ができたかのようにテンに関心を示し、朝起きるとテンのそばに寄っていってテンの耳を舐めてあげるようになりました。1年後、2匹は本堂での毎朝のおつとめ(読経)のとき、住職のお経を私たちと一緒にそばで聞いたり、そこでじゃれあったりするのが日課になりました。
うちのお寺はふだん、門や扉を閉めていて、用事のある方はインターホンを鳴らして入ってきてもらうことにしています。境内は高い塀で囲まれていて、それを乗り越えない限り、猫も容易に出入りできないはずなんですが、昨年(2022年)6月上旬、真っ黒の野良猫が境内に侵入してきたんです。おそらく屋根をつたってきたんでしょう。夜、猫同士の「ギャー」という大きな声が聞こえたので慌てて見に行くと、毛がたくさん落ちていて…。どうやらテンはその黒猫にいじめられていたようなんです。翌朝、テンがいないことに気づきました。追いかけられたのか、塀を乗り越え、外へ出ていってしまったようなんです。
それまでテンが寺の敷地外へ出ることは一度もなく、予期せぬ出来事だったため焦りました。家族総出でテンが行きそうな範囲の場所を毎日、くまなく探しましたが、テンは見つかりませんでした。夜中、猫の喧嘩の声が聞こえたときは外に出て探しまわったり、近所の方々の軒先や庭にエサを置かせてもらったりして、もしテンを見かけたら連絡をくれるようお願いし、帰りを待ちました。
日が経つにつれ、もう諦めるしかないのか。たとえ戻ってこなくてもどこかで元気でいてくれたら…。でも、やっぱり帰ってきてほしい…。心の中ではそんな思いが交錯していました。阿弥もほぼ毎日、テンの寝床をのぞいては「どこに行ったの?」という感じで、テンの帰りを待っていました。
近所の方から「テンらしき茶白の猫がいる」との連絡が入ったのは、いなくなって1ヶ月余りが経ったころでした。急いで見に行くと、寺の近くの民家の庭にテンがいるではありませんか。テンは遠くに行ったわけではなく、寺の周辺をさまよっていたようです。境内は施錠していて入れないので、どう戻ればいいかわからなかったのかもしれません。無事に生きていてくれたことに胸をなでおろすも、かなり警戒心が強くなっていて、名前を呼んでも素早く逃げてしまい、捕まえることはできませんでした。
テンが寺に戻ってこられたのは、近所の猫好きの男性のおかげです。その方はテンのためにと、家にエサをずっと置いてくれていたんですが、8月末、男性宅にテンが不意に現れ、よっぽどお腹がすいていたのか、男性が差し出したチュールに近づいたそうです。その瞬間、すかさず捕まえてくれて。彼がテンをお寺に連れてきてくれたときは、もう嬉しくて。「テンが帰ってきた!」と大声で叫んで家族に知らせたほど。いなくなる前より痩せていたものの、けがはなく元気なまま。戻ってくるなり本堂の床下に逃げ込みましたが、しばらくすると出てきて、まるで何事もなかったかのように、私たちの元にすり寄ってきてくれました。
いくら脱走対策を講じていても、何かの拍子で逃亡してしまうことがあるということを身をもって知り、より一層気を付けるようになりました。今は少しの間でもテンの姿が見えないとすぐに探してしまいます。テンにしてもつらい3ヶ月だったはず。こうして無事に戻ってこられたのは、地域の方々がエサを置いたり見かけたら連絡をくれたりと、テンのことをいつも気にかけてくれていたから。本当に感謝しています。
以前はそれほど人見知りではなかったのですが、帰ってきてからは、臆病な子になってしまいました。毎週来られているヨガの先生など、定期的に何度も来られる方は覚えていて抱っこもさせてくれますが、見慣れない人がくると、境内の物陰など見えないところに隠れてしまいます。
ただ、私たち家族に対しては、以前より甘えんぼうになり、この出来事を通じて家族の絆も深まりました。阿弥は喜んでテンの耳舐めを再開。毎朝、本堂でのおつとめのときは2匹でじゃれあっています。当たり前だったそんな日常の光景のありがたさを、今はかみしめる毎日です。
【寺院名】浄土真宗本願寺派「居原山・圓満寺(えんまんじ)」
【住所】大阪府大阪市福島区玉川4-4-25
【インスタグラム】@enmanji_ibara
(まいどなニュース特約・西松 宏)