捨てられた?推定10歳の保護犬 穏やかで優しい性格 それでも人を信じ続ける
2023年3月、動物愛護センターに、白黒の毛並みが特徴の推定年齢10歳ほどのおとなしいメスのシニア犬が収容されました。職員によれば「元飼い犬のようだが、一定期間を過ぎても飼い主から連絡がない」とのこと。
意図的に遺棄された可能性も否めない一方、収容期限は大幅に過ぎており、殺処分になる恐れがありました。このワンコの命を救おうと立ち上がったのが、動物愛護団体・一般社団法人SORA小さな命を救う会(以下、SORA)。さっそく動物愛護センターへレスキューに向かいました。
■行く先に「大好きな元飼い主がいる」と思っている?
動物愛護センターからの引き出しの際、多くのワンコは初めて見る保護団体スタッフに対し「どこに連れていくんだ」「お前は誰だ」「私の体に触るな」と警戒することがあります。
しかし、このワンコは過度な抵抗を見せず、実におっとりとした穏やかで物静かな性格であることが見受けられました。SORAのスタッフはこのワンコに「サンちゃん」という名前をつけました。
あくまでも想像ですが、10年もの長い時間を元飼い主のもとで暮らしていたであろうサンちゃんは、今どんな思いでいるのでしょうか。もしかしたら「元飼い主との再会」を心の中に持ち続け、引き出しの行く先に、元飼い主が待っていると思っているかもしれません。
胸が痛むスタッフでしたが、まずはサンちゃんを動物病院へと連れていき、健康状態の検査をしてもらうことにしました。
■サンちゃんには複数の持病と脚の変形があった
獣医師によると、サンちゃんにはまず耳道閉塞、気管虚脱、乳腺腫瘍、軽度の歯石が見られると言います。さらに避妊手術もされていなかったほか、右後ろ足には古い骨折跡がありました。これは未治療のためでしょう、変形してしまっているとのことでした。
幸い、日常生活では問題なく歩行できており、散歩も問題なくできますが、こんな状態で放置されていたことからもやはり元飼い主から意図的に捨てられた可能性が高いようにも感じました。
通常、SORAでは保護したワンコが避妊や去勢がされていない場合、これらの手術を実施することが多いですが、高齢のサンちゃんには避妊手術はせず、体に負担がない治療のみを実施することにしました。
■散歩時には穏やかな性格から一変
「ゆくゆくは温かい家庭で第2の犬生を穏やかに過ごしてほしい」というスタッフの願いもあり、サンちゃんはSORAが預かっている他の保護犬と一緒にスタッフの自宅で暮らすことになりました。
この家でもサンちゃんはやっぱり穏やかでお利口さん。なでられるのが大好きで、優しくなでられるとうれしそうな表情を見せてくれます。ここでも人間が大好きで、スタッフの姿を見つけるやいなや自らすり寄っていき、その傍にチョコンと座り、ノンビリ過ごすこともあります。
しかし、この穏やかなサンちゃんのペースを乱された際には、瞬時に反応してしまうこともあります。たとえば、何の前触れもなしに急に体に触れると、「ビクッ!」と過剰反応します。目は見えてはいるものの、老化現象のせいか若いワンコに比べ視界が狭くなっているのかもしれません。こういったことから、サンちゃんを迎え入れてくれる里親さんは比較的穏やかで、慌ただしくない家庭のほうが良いとスタッフは考えました。
また、サンちゃんは散歩が大好き。スタッフが「散歩に出かけるよ!」と声をかけると、「散歩」というワードと雰囲気をすぐに察知。うれしそうに尻尾を振って「早く連れていって!」と甘えてくることもあります。「サンちゃんの穏やかで素直なところが、たまらなくかわいいです」とスタッフは言います。
散歩中は草や電柱などの匂いを積極的にチェック。その様子は「確かに私はおばあちゃんだけど、まだまだ現役なのよ!」と言わんばかり。普段は穏やかでも、ときには堂々とした風格も感じさせてくれるサンちゃんなのでした。
■「もう一度、本当に信じられる家庭」を目指す
サンちゃんは今日も新しい里親さんとの出会いを待ち続けながら、スタッフの家で穏やかに暮らしています。サンちゃんの年齢を考えれば、現実的には長く一緒にいられないかもしれません。
大好きだったであろう元飼い主と離れ、ひとりぼっちで辛く不安な日々を過ごしてきたサンちゃんです。晩年は、やはりサンちゃんが「この人と一緒にいたいんだ」と思えるような里親さんの家庭で、穏やかな日々を過ごしてほしいと強く願います。
今度こそ幸せを手に入れられる日がくることを祈るばかりです。
一般社団法人SORA小さな命を救う会
https://sora-chiisana.org/
(まいどなニュース特約・松田 義人)