「私人逮捕」ユーチューバーが名誉毀損容疑で逮捕 元歌手の弁護士が解説 「ただちに警察に」原則破れば万引Gメンも!?
警視庁生活安全特別捜査隊は、名誉毀損(きそん)の疑いで「煉獄(れんごく)コロアキ」の名前で活動するユーチューバー(40)を13日に逮捕した。容疑者は「私人逮捕」や「世直し系」を自称し、ライブチケットを高額転売しようとしたとして一般人を取り押さえる動画などを複数投稿していた。過激な動画投稿を繰り返して再生回数を稼ぎ、広告収入を得る目的だったとみられる。「私人逮捕」の問題点についてかつて歌手デビューを果たした平松まゆき弁護士にQ&A方式で解説してもらった。
Q 私人逮捕系YouTuberが逮捕されました。「私人逮捕」とはどういうものでしょうか。
A一口に逮捕と言っても(1)通常逮捕、(2)現行犯逮捕、(3)準現行犯逮捕、(4)緊急逮捕と種類が分かれています。
逮捕は国家が行う強制処分ですから、令状を発付したうえで身柄を拘束するのが大原則です。これを令状主義といいます(憲法33条)。ですから本来は裁判官による令状審査を経たうえで行われる通常逮捕か、逮捕状を請求する時間的な余裕がない状況において、一旦逮捕した後、直ちに逮捕状を請求し、発付後に逮捕状を示す緊急逮捕がなされるべきです。しかし、国家権力の発動を待つ時間がない場合で、まさにその人の面前で犯行が行われている場合には、誤認逮捕のおそれも少ないとして、例外的に現行犯逮捕が許される仕組みになっています。そして現行犯逮捕(準現行犯逮捕)に限っては刑事訴訟法第213条に「現行犯人は、何人(なんぴと)でも逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」と明記されています。この条文があることによって、いわゆる「私人逮捕」が許されるというわけです。
A 「面前での犯行」とはいえ、だれもが慎重に行動しなければなりませんね。
Q そうですね。繰り返しますが、逮捕という強力な身体拘束に対しては、令状主義の大原則があります。警察関係者の話によりますと、ほぼほぼ現行犯逮捕の要件がそろっていても、人権侵害をなくすため、可能な限り任意同行を求め、追って逮捕状を請求する緊急逮捕を選択すると聞きました。ですから私人による現行犯逮捕も慎重でなければならないということです。
Q ほかに私人逮捕の問題点はありますか?
A はい。よく万引Gメンが犯人を逮捕する番組がありますね。Gメンによる逮捕も私人逮捕なわけですが、Gメンがスーパーで万引きした人を事務室に連れて行って、店長が事情を聞いたり、場合によってはとっくりと説教をしたりすることもあるようです。仮にその現行犯逮捕が要件をそろえていたとしても、問題はその後の行為です。刑事訴訟法214条では「検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。」と明記されています。
つまり、私人が誰かを現行犯逮捕したら即刻、交番に連れていくか、110番通報して駆け付ける警察官に引き渡さなければならないんですね。しっかり話を聞いてみて、その人が抱えた事情によっては「人情」から処分をしないということもあるのかもしれませんが、あくまでもその判断は捜査機関が行うのです。まして私人逮捕と称して捕まえた人の動画を撮影しながらとどめおく等の行為は決して許されません。
◆平松 まゆき 弁護士。大分県別府市出身。12歳のころ「東ハトオールレーズンプリンセスコンテスト」でグランプリを獲得し芸能界入り。17歳の時に「たかが恋よされど恋ね」で歌手デビュー。「世界ふしぎ発見!」のエンディング曲に。20歳で立教大学に入学。芸能活動をやめる。卒業後は一般企業に就職。2010年に名古屋大学法科大学院入学。15年司法試験合格。17年大分市で平松法律事務所開設。ハンセン病元患者家族国家賠償訴訟の原告弁護団の1人。