「失格寸前」のライバルにパーツを…その結果敗れても 京都のレーシングカー大会で見せた京大生のフェア精神
全国の学生チームが自作した小型レーシングカーの性能を競う「第21回学生フォーミュラ日本大会2023」が、今夏に静岡県で開催された。前年優勝した京都工芸繊維大の2連覇か、同2位の京都大が悲願の10年ぶり優勝を果たすか。ライバルと認め合う京都の2チームが注目されたが、舞台裏ではフェアプレー精神に基づく両チームのやりとりがあった。
学生フォーミュラは「自動車技術会」の主催。各チームは1年間かけて車体を開発し、本番に臨む。4コースの走行タイムと、車体設計の妥当性やプレゼンテーション力も審査される。今大会は海外を含めた77チームが参加し、京滋からは立命館大や同志社大なども出場した。
結果は京都工繊大チーム「グランデルフィーノ」が通算5回目の優勝で、16~17年に続く2度目の連覇を果たした。S字カーブの相次ぐコースでチーム伝統の旋回性能の高さを発揮し、総合得点で2位以下を大きく突き放した。
ただ、リーダーを務めた3年の佐々木淳さん(20)は「実は車両トラブルで走る前に失格になる寸前だった」と打ち明ける。
走行前の車検を控え、エンジン内からオイルが漏れ出した。「割れたパーツの代わりはないか」。制限時間が迫り、メンバーらは必死で会場近くのバイクショップ約20店に電話で問い合わせ、他大学のピットにも手分けして聞いた。
ライバルチームである京大「KART」にも「適合するパーツがあるか探してもらえないか」とおそるおそる尋ねたところ、偶然、京大は使う予定のなかった昨年用の予備を持参していることが分かった。京大の4年平野功太さん(22)は「お礼を楽しみにしています」と冗談と笑顔を添え、手渡した。
整備を含めた総合力を競う大会では、不具合に対応できないのはチームのミス、という考え方もできる。しかし、平野さんは「年間でどれだけいいクルマに仕上げたかを競うのだから、(アクシデントで勝敗が決まるのでなく)走って競いたかった」と、あえて敵に塩を送る決断をした。
両チームは、大津市のサーキットが共通のスポンサーである縁で交流の機会はあるが、既に来年の大会に向け、早くもライバルとして互いに意識している。
3連覇を目指す京都工繊大はパーツ提供に感謝しながら、京大を「少数精鋭で個々のメンバーの能力がすごく高い」(佐々木さん)と警戒する。一方、京大は車体形状を一新した影響で今年は13位と不本意な成績だったが、平野さんらは「新しい車体にポテンシャルを見いだせた。来年は絶対に工繊大さんを倒す」と優勝へ士気を高めている。
(まいどなニュース/京都新聞)