大阪港を彩る赤いシンボル…実は世界最大級のトラス橋 阪神高速・港大橋 先進の橋梁技術を結集、地震対策も万全
大阪市住之江区の咲州と対岸の港区を結ぶ「港大橋」は、主径間長がトラス橋として日本一長い510メートルあり、しかも全体が赤一色という、いわゆる「映える」外観でひときわ目立っている。
建設にあたっては当時最新の技術が駆使され、我が国の橋梁史に残る長大橋との評価が高いという。建設の経緯と「なぜ全体が赤いのか」の理由も併せて、阪神高速道路株式会社の保全交通部に聞いた。
■大阪港の玄関口の景観を守るため全体を赤一色に
大阪市住之江区の咲州と対岸の港区を結ぶ「港大橋」は、全長980メートル。橋脚の中心間の距離を示す主径間長が510メートルで、これがトラス橋としては日本一、世界でも第3位の長さだという。トラス橋とは、桁の部材が三角形状に組まれた構造をもつ橋のこと。
ちなみに、他の各部の名称とサイズは図の通り、側径間長・235m、定着径間長・400m、吊径間長・180mとなっている。
橋は上下2段の車道があり、上段に阪神高速16号大阪港線、下段に阪神高速5号湾岸線が走っており、上下合わせて1日に約10万台の車が通行するという。車専用の橋で、人は通行できない。
外観上の特徴は、その長さはもちろん、全体が赤一色に塗装されていること。
航空法では、海面からの高さが60メートルを超える鉄塔や煙突などの構造物に航空機が衝突しないよう、赤白に塗装することになっている。港大橋の高さは81.5メートルなので、法の規定では赤白に塗装しなければならない。
しかし、港大橋がかかる場所は大阪港の玄関口だ。そこに煙突や鉄塔と同じ赤と白のまだら模様の巨大な橋では、景観が台なしになってしまう。そのため阪神高速が航空局と協議を重ねた結果、赤1色で塗装されることになり、特徴ある外観が生まれたのである。
■当時最新の橋梁技術がふんだんに盛り込まれた歴史的な橋
港大橋の建設にあたって使用された鋼材は、約40,000トンにもなる。港大橋のような大きな橋をかけるためには、大量の鋼材が必要になって、橋は巨大化してしまう。そうならないよう断面のコンパクト化を図るため、強度と溶接性を兼ね備えた超高張力鋼材という新しい材料の開発も並行して行われたという。
「橋の架け方においても、中央支間4,500トンの『一括吊り上げ架設』を行い、今日では一般的な大ブロック架設工法のさきがけとなりました」
総工費は約250億円。材料、設計、製作、架設の各分野にわたって当時最新の技術が駆使され、1974年に完成した。
地震が多い日本では、50年前の耐震性能が気になるところ。当然に当時最新の技術が使われているほか、2002年から2008年にかけて、阪神大震災級の大規模地震にも対応した耐震補強が行われた。
「少し専門的なお話になりますが、地震発生時に橋桁という道路部がスライドして、橋の骨格となるトラス部材に損傷が生じないようにする『すべり免震支承』を採用しました」
支承とは橋桁を支える部材のこと。橋桁を支承に固定せず滑る構造にすることによって、壊れてはいけないものに地震のエネルギーが伝わらないようにする免震技術である。
「主要部材を補助する部材には、両端から強い圧縮力を受けてひしゃげる座屈から防ぎつつ、地震エネルギーを吸収する『座屈拘束ブレース』を採用しました」
免震技術の「すべり免震支承」に対し、これは主構に損傷が生じないようにする「制震技術」である。
「このような技術的成果に対して、建設当時から各種の表彰を受けました。主な受賞歴は、建設後の1974年に土木学会田中賞及び天皇賜杯銀杯。さらに耐震補強後の2007年に2度目の土木学会田中賞を受賞しております」
「土木学会田中賞」とは、関東大震災で壊滅的な被害を受けた東京を復興するにあたり、隅田川にかかる永代橋や清洲橋などの名橋を生んだ、帝都復興院初代橋梁課長・田中豊博士にちなんで社団法人土木学会が設けた賞のこと。橋梁に携わる世界では、たいへん名誉ある賞とされている。
最後に余談ながら、咲州側の橋脚付近に海に面してある「港大橋臨港緑地」は、港大橋を撮影するには絶好のポイントだが、工事のため2024年6月頃まで立ち入ることができない。
◇ ◇
▽阪神高速「技術のチカラ」 図鑑 NO.001港大橋
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)