【プロが解説】家を売るなら競売より任意売却がオススメ? より良い選択で、未来への一歩を
「家を買う」という話はよく聞きますが、「家を売る」となるとよく知らない人も多いのではないでしょうか。家を売る前に知っておきたいあれこれを、不動産売却一筋15年で「売り主のミカタ」のIESUKU代表・田端梓さんに聞きました。
■任意売却はメリットがある?
---任意売却とは何ですか?
「簡単に言えば、売却後もローンが残ってしまう不動産を、金融機関の合意を得て売却することを言います」
「銀行は一括返済ができずローンを滞納し続けるなら裁判所に申し立てを行うと言ってきます。そのタイミングで、任意売却をさせてくださいと意思表示をしてください」
---このタイミングで?
「はい。ここが競売と任意売却との分かれ道です。私は任意売却のメリットの方が大きいと考えています。住む人に、これ以上の精神的負担を負わせずに済むと考えるからです」
「銀行にとってもメリットです。なぜなら任意売却の方が、より多くのお金を回収できる可能性が高いから。競売の場合、一般的に市場価格の60~70%と、安く買われるんです。例えば3000万円のローンが残っている家が、市場価格なら2000万円で売却できるところ、1200万円でしか売れない計算です」
---なるほど。銀行にとっても任意売却の方がいいわけですか
「任意売却の意思があると聞いた銀行は、売却を依頼する不動産業者を聞いてきます。そこから先は、銀行とその不動産業者との交渉です」
「双方が査定して、確かに2000万円で売却可能と合意できたら、あとは通常の不動産売却と同じ。情報をレインズに掲載して、広く買い手を探します。ただしめでたく売却できたとしても、そのお金は全て銀行が持っていくわけですが」
---あれ?不動産会社は、まさかタダ働きですか?
「銀行によって異なりますが、基本的に銀行から仲介手数料や、かかった経費諸々を差し引いてくれます。お客様の引っ越し費用を賄ってくれるところもありますね」
「銀行にとっては、たとえ諸費用がかかっても、競売にかけられるより回収できる額が大きいです。これ以上精神的負担を負わせないと言ったのは、市場価格で売れる分、少しでも返済額を減らせること。また中古物件と販売方法が同じなので、周囲に事情を知られにくい。精神的負担はかなり軽くなるはずです」
---売却できた後も、返済は続くんですよね。
「そうですね。3000万円あったローンが2000万円返済でき、諸経費で100万円かかったとして、残り1900万円の返済義務は残ります。しかし銀行も無茶なことは言ってきません。売却後の生活状況を見て、可能な範囲での返済をしていくことになります」
---なるほど。よく分かりました。
■任意売却と競売との違い
「ここで任意売却のメリットをおさらいしておきましょう」
1.競売より高く売却できる
競売は市場価格の60~70%で売られるのが一般的です。安く売られると、当然返済額が多く残るので、市場価格で販売できる任意売却の方にメリットがあります。
2.プライバシーが守られる
競売では裁判所で自宅の情報が公開されたり、入札前にインターネットで室内の画像も公開されます。するとそれらを見た業者が近所に来たり、周辺住民に話を聞き回ったりする場合もあります。一方で任意売却は、通常の中古住宅の販売と同じやり方なので、プライバシーがさらされるなどといった心配はありません。
3.引っ越し費用が残る場合がある
競売では、売却代金は全て銀行が回収します。任意売却では、銀行によっては引っ越しにかかる費用も残してくれる場合があります。
4.売却後に残ったお金の返済がゆるやか
競売の場合は売却額が低い分、その後の返済額も大きいので、月々の返済額を決める交渉が厳しくなりがちです。任意売却の場合は、その人の生活状況を考えた無理のない返済が可能です。
5.引っ越し時期を調整できる
競売は、場合によっては住民の強制退去もあり得ます。任意売却は通常の住宅売却と同じなので、話し合いで時期の調整が可能です。
6.不動産会社の担当者と連絡を取り合える
不動産会社なら金融機関や裁判所のこと、競売のことやそこへ至る流れも知っていますので、次にどういう書類が届くか、次にどうすべきか、その人に合ったアドバイスが可能です。
■ 「私みたいな人って、いっぱいいるんですか?」
「家の売却に特化して15年の私が、任意売却の方がメリットがあると言ったのは、不動産会社担当者と連絡を取り合えるという安心の部分が、とても大きいからです」
「『ローンが払えない』悩みは、1人で抱え込む人が大半。だから何をどうすれば良いか分からず、自分が将来どうなっていくかも分からないといった、恐怖に似た不安にさいなまれます」
「勇気を振り絞って私のところに来られるお客様から、私はよく状況を伺って一通りご説明し、今後このようにやっていきましょうと時間をかけてお話しします。するとその後、必ずと言っていいほど聞かれることがあるんですよ」
---何ですか?
「『ちなみに私みたいな人って、いっぱいいるんですか?』です。ちょっと安心して、ようやく少し周りを見る余裕ができたからかなと思います」
「実は私の父は、私が高校の頃に事業に失敗して自宅を売却。その後不動産会社で不動産売却を担当して独立しましたが、再び事業に行き詰まり、お金の悩みを抱えて自ら命を絶ちました」
「お金は、ときに命を奪う凶器になり、気持ちの余裕や冷静な判断力を奪います。家のことで苦しむ人に、少しでも安心と余裕を取り戻してほしくて、私は父と同じ仕事をしています」
「次回は、事故物件についてお話ししましょう」
(まいどなニュース特約・國松 珠実)