夜闇から聞こえるか細い鳴き声 2日がかりで保護された子猫 腕の中で安堵の表情を浮かべた
福岡県内を拠点に行き場を失った犬や猫を保護し、新しい里親さんの元へと繋ぐ活動を行うボランティアチーム・わんにゃんレスキューはぴねす(以下、はぴねす)。同団体では小さな命を助けるために今日も活動を続けています。
2023年晩夏のある日の夜。はぴねすのスタッフが犬のシーズーたちと近隣を散歩していると、どこからか小さな鳴き声が聞こえてきました。最初は「気のせいかな」と思う程度で、いつも通りの散歩を続けていましたが、その鳴き声が段々はっきりしてきました。
■聞こえてきた子猫の鳴き声
「この声は、子猫だ」。スタッフは確信しました。普段の散歩コースを外れ、向かっていくと、ある民家の庭から聞こえることがわかりました。ペンライトを使い声の主を探しましたが、あいにく民家の敷地には入ることができず、庭のほうから探すしかありません。幸い、民家の隣が空き地だったため、この空き地からペンライトでその鳴き声の元を照らしてみると、何かが動いていました。子猫です。スタッフの元にはシーズー犬などもいるため、子猫はその気配に気づき、そろそろと歩いて庭の奥のほうへと逃げていってしまいました。
スタッフはこの子猫を保護することとし、いったん犬たちを家に連れ帰った後、再びその民家へと向かいました。スタッフは息子さんも一緒に連れていきました。先ほどはペンライトでしたが、スマートフォンのほうが明るいため、今度はスマートフォンで庭を照らしてみました。
しかし、この様子は、はたから見ると不審に思われても当然です。民家には電気がついており、その主がいることが想像できました。「チャイムを鳴らし、事情を説明して庭に入らせてもらうべきか」と悩むスタッフでしたが、時刻はすでに23時30分。見知らぬ人が、この深い時間帯にいきなりチャイムを鳴らすことは躊躇されました。
この間も、当の子猫はずっと鳴き声を出しています。深夜に響き渡る子猫の鳴き声に、民家の人が気づいて出てきてくれることに期待しましたが、やがて0時を回るころに、民家の電気が消えてしまいました。さらに、その民家近くの家で飼われている犬が、スタッフの気配を察知し、激しく吠え始めました。
犬の鳴き声に驚いたのか、子猫の鳴き声はもう聞こえなくなっていました。スタッフは「どうか、ここから子猫が遠くに行きませんように」「そして、明日にはまた姿を見せてくれるように」と願いました。
■イタチや猪も出没するエリア。一刻も早い保護を目指す
翌朝、スタッフは再び昨晩の民家付近に行きました。偶然にも民家の住人の方が庭におり、「話しかけるチャンス!」と、子猫の話をしてみました。住人の方は「一晩中ずっと鳴いていたねぇ。でも、さっき道路を渡って前の空き地のほうに逃げて行ったよ」と言います。
スタッフは昨晩を思い出し、「私が帰った後もずっと助けを求めて鳴いていたんだ」と胸が苦しくなりましたが、それよりも今すべきは子猫の保護です。住人が教えてくれた「道路」は、自動車の往来がよくあるところで、その先の「空き地」は、人間の胸の位置ほどまでに草が覆い茂る草むらです。さらにこのエリアにはイタチ、タヌキ、猪、マムシなども出ることもあり、小さな子猫が一匹で過ごしていれば、格好な餌食にされてしまいます。
その草むらを捜索しましたが、そこには気配がなく、再び切り上げざるを得ませんでした。戻った後もスタッフは心を痛めました。そして、「食べるものも飲む水もないだろう」「日中は気温も上がり、突然の豪雨もあった。どうかせめて、どこか安全な場所に子猫がいてくれますように」と強く願いました。
■スタッフが抱えていた数カ月前の後悔
こう強く願ったのには、その数カ月前にスタッフが悲しい経験をしたからでもありました。数カ月前、近隣で親子猫を発見し、保護しようとしたところ、親子ともに姿を消してしまいました。数日後、保護しようとした親子猫の子猫が、道路で車に轢かれてしまいました。
「もうあんな思いはしたくない」。スタッフは助けてやれなかった後悔から、民家で鳴いていた子猫はなんとしてでも助けてあげたいと思い、本業を早々に終え、再び現場へと向かいました。今度は娘さんも一緒です。
まずは元いた民家へ…いません。そして、民家の住人が教えてくれた空き地へ…ここにもいません。スタッフの脳裏に、数カ月前の記憶がまた浮かんで気落ちしてきましたが、しかし諦めずに近くを歩く人に声がけするなどし、子猫の行方を探し続けました。すると、近隣の人から有力な情報を得ることができました。「昼間はここで鳴いていたよ」と、空き地の中にある木の付近を指してくれます。
日が暮れる中での鬱蒼と草木が生える中での捜索はかなり難しいものですが、スタッフは苦肉の策として、「ここで鳴いていた」というあたりを車のライトで照らし、そのまま探し続けました。しかし、子猫の姿も声もありません。スタッフは肩を落とし、「今日もダメだった」と家に帰ることにしました。
……そのときでした。
■民家のオジサンとの連携で保護
スタッフの耳に、微かに子猫の声が聞こえました。耳を澄ますと、それほど遠くない場所から子猫の鳴き声が聞こえました。その声の方向に向かうと、昨晩とは違う民家の庭。その庭には車があり、工具がたくさん置かれており、子猫にとっては隠れる場所がたくさんあるようでした。
スタッフは意を決して、その民家を訪ねました。オジサンが出てきてくれ、これまでの事情を話すと、実はこのオジサン自身も、鳴き声が気になり、つい先ほどまで子猫の姿を探していたと言います。オジサンは庭にライトを持ってきて照らしてくれ、一緒に子猫を探してくれることとなりました。しかし、前述の通り、荷物がたくさんある場所。そう簡単に子猫の姿を見つけることはできませんでした。
オジサンとスタッフが連携することで、捜索開始から1時間ほど経過したところで、スタッフの娘さんが無事子猫を保護することができました。あれだけ捜索に苦戦した子猫です。スタッフは娘さんに「飛び降りて逃げるかもしれない。しっかり抱えていて!」と言いましたが、その杞憂に反し、子猫は「やっと助けてもらえた」とばかりに安堵した表情を浮かべ、娘さんの腕の中で、擦り寄るように身を任せていました。
■ほかの猫と遊びながら里親さんとの出会いを待つ
娘さんは「また大雨が降る予想だから、今日のうちに保護できて本当に良かった」と喜び、そして「カイくん」と名付けました。保護後、カイくんの体には大量のノミが寄生していたため、まずはシャンプーやノミ取りの処置を行いました。そして、水とレトルトフードを与えてみると、小さな体で少しずつ口にしてくれました。
翌日、すぐに動物病院に連れていくと、推定年齢約1カ月半ほどの子猫で、お腹が緩いくらいで健康体でした。「本当に良かった」と喜ぶスタッフでしたが、しかし、普段は犬の保護のほうが圧倒的に多いはぴねすです。このカイくんに猫社会を勉強させるためのきょうだいもごく限られているため、さらに良い環境でカイくんをかわいがってくれることを望み、里親希望者さんを募集しました。
トライアルに出ることもあったカイくんですが、残念なことに縁には結ばれず、今日もはぴねすのスタッフの家で、ほかの猫ちゃんと一緒に楽しく元気に過ごしています。あの日、暗闇の中を彷徨っていたことに比べれば、ずっと幸せですが、スタッフはさらに良い環境に迎え入れてもらうべく、今日も里親希望者さんの名乗りを待ち続けています。
(まいどなニュース特約・松田 義人)