側溝脇に飛べなくなった迷いバト、首には切り傷…学生や商店主が必死の救出リレー→200㎞以上離れた飼い主のもとへ つないだ温かな縁
京都府南丹市のJR八木駅前で10月、飛べなくなった「伝書バト」が見つかった。
遠方からやってきたのか衰弱しきった様子で、居合わせた住民たちが戸惑いながらも力を合わせて保護した。
のどかな町で突如巻き起こった救出劇の結末やいかに-。
伝書バトが見つかったのは10月3日午後2時ごろ。デザインの専門学校に通う人見響さん(18)が自転車で帰宅途中、JR八木駅前の商店街の側溝脇で身動きせずにじっとしている1羽のハトを発見した。
近づいて観察すると、ハトは首のあたりに切り傷を負い、出血しているのが分かった。
動物好きの人見さんは「いますぐに助けてやりたい」と気がせいたものの、何をどうすればよいのか分からず、あたふたするしかなかった。
そこへ偶然、地元自治会事務局長の八木正博さん(70)が通りがかった。
八木さんは心配そうにハトを見守る人見さんに声をかけ、事情を聞くとすぐそばの事業所「八田サルベージ」に駆け込んだ。
事務所内で仕事をしていた八田敦子さん(78)と義理の娘の久満子さん(50)は、八木さんの求めに応じ、大急ぎでタオルを敷き詰めた段ボールと水を用意した。
住民らが見守る中、ハトは勢いよく水を飲みだし、段ボールに入ると目をつむって居眠りし始めた。
よく見るとハトには小さな足環(あしわ)がしてあり、電話番号らしき数字が細かく記されていた。人見さんは地面にはいつくばるようにして番号を確認。思い切って電話すると、飼い主の男性につながった。
ハトを飼育していたのは、なんと商店街から200キロ以上も離れた静岡県浜松市の内山昭男さん(74)だった。
内山さんはハトを放って飼育地に帰って来るまでのスピードを競う「鳩レース」の愛好家。最近、長野県安曇野市で放ったハトが帰って来ないので心配していたという。
ハトは今春生まれたばかりの「新米」で、帰巣途中にタカやハヤブサといった猛禽類に襲われてパニックを起こし、ルートを大きく外れたようだった。
人見さんたちから保護の連絡を受けた内山さんは、「日本鳩レース協会」で迷いバトを担当する古里治彦さん(54)=京都府八幡市=に引き取りを依頼。古里さんは急いで南丹市に向かい、午後8時ごろ、八木さん宅でハトを受け取った。
ハトは古里さん宅で静養した後、内山さんのもとに返された。
ハトを最後まで見守った八木さんは「とにかくほっとした。こんなことは滅多にないので右往左往もしたけど、みんなで助け合うことができてよかった」と笑顔を見せる。
八木さんはその後、救出劇の様子を詳しく書いた文章を京都新聞の読者投稿欄「窓」に投稿。10月14日付の紙面に「傷ついたハト 懸命に救助」のタイトルで掲載されると、新聞の切り抜きを内山さんに送った。
投稿を通じて住民たちの奮闘を知った内山さんは「心優しい人たちに見つけてもらえて幸運だった」と喜ぶ。
1羽のハトが運んだ温かな縁。救出に関わった住民たちには後日、内山さんから感謝のしるしに「鳩サブレ-」、ではなく、浜松銘菓の「うなぎパイ」が届けられた。
(まいどなニュース/京都新聞)