「ぞうさん、お鼻が長いのね♪」歌わないで ゾウの飼育員が看板に込めた思い「いろんな性格の動物いるよ」
「童謡ゾウさんは歌わないでください」-。
「ぞうさん、ぞうさん、お鼻が長いのね~」で始まるおなじみの童謡。動物園のゾウを見て口ずさむ親子連れの姿は微笑ましいものですが、「いしかわ動物園」(石川県能美市)では「歌わないで」とお願いしています。大きな声や音がとても苦手なゾウだと説明する看板もあり、静かに見てほしいと呼びかけているのです。看板にはこう書かれています。
「大きな声で呼ばないでほしい
小さい声でもちゃんと聞こえてる
でも聞こえても振り向かないこともある
出てこないこともあるけど
そっとしておいて」
同園のアジアゾウは1979年生まれのメス「サニー」。前身である「金沢サニーランド」時代から飼育されています。お願い看板に込めた思いを飼育担当の小倉(こくら)康武さんに聞きました。
-大きな音や声が苦手だと
「騒がしいのがとにかく苦手で、人がたくさん並ぶのも好きじゃないんです。『人が並ぶと騒がしくなる、嫌なことが起きる』と思うみたいで。お尻を向けてしまったり、運動場のずっと奥に行ってしまいます」
-だから「しずかにしてね」と
「看板のおかげで分かっていただけるようになりましたが、遠足が多い日や土日は…。子どもさんにも伝わるよう、ひらがなを多くしています。大人が言って聞かせるよりも、読んで気づいてもらいたいと。『禁止』ではなく、サニーの気持ちに共感してもらいたいと思い、言葉を選んでいます」
ー会話もダメ?
「ゾウを見て歓声を上げたくなるのは特に小さな子どもさんなら当然です。でも、本当に申し訳ないのですが、サニーの前では我慢してもらって、離れてからお話していただきたいです」
-室内観覧場所も閉鎖に
「お願いしても騒がしくなることがあって、サニーが嫌がって外に逃げてしまうことがありました。『中に入ると嫌なことがある』と思い込んだみたいで。室内でエサを食べられないのは困るので、ゾウ側の室内観覧場所は閉鎖しました」
なぜここまで大きな声、大きな音が苦手になったのでしょう。同園が1999年に現在の場所で開園し、サニーも移動して環境が変わったことがきっかけのようで、「音が反響しやすいのかもしれません。また、年齢とともに嫌なこと、我慢できないことが多くなっています」と小倉さんは言います。
そんなサニーですが、最近、採血に成功したことが公式サイトで紹介されました。「必要なことは『がんばれ』『もうちょっと』となだめながらしています。不機嫌な日もありますし、雨は嫌いだから外に出たがりません。サニーにはいろいろとこだわりがあるので、わたしたちは扉を開けて待つだけ。決して無理はさせません」
サニーは北陸地方で見られる唯一のゾウ。「長生きしてもらって、子どもたちには本物の生きたゾウを見てほしい」と小倉さん。サニーからのお願いの最後につづった「どうか知ってほしい。いろんな性格の動物がいるってことを」は、自身の子どもにもいつも伝えていることと同じだと言います。
「つまり『相手の気持ちを考えようね』ということで、それは人も動物も同じですよね。サニーもがんばっていきますので、ご協力を」と話していました。
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※記事内の画像は2023年10月撮影
(まいどなニュース特約・茶良野 くま子)