おびえた瞳のロングコートチワワ 「もう一度信じてほしい」と保護団体スタッフ 2カ月を過ぎるころ行動に変化が現れた
2023年7月、埼玉県の動物愛護センターのケージの片隅に、小さな体でおびえるように人間を見ていたワンコがいました。クリーム色の長毛と大きな黒い目が特徴のロングコートチワワのメスで、推定年齢は約6歳。
動物愛護センターに収容された経緯は不明ですが、一定期間を過ぎても飼い主の名乗りがなかったことから、意図的に捨てられた可能性が考えられます。動物愛護センターでは収容したワンコを永遠に世話できず、一定期間の引き取り手が現れなければ、殺処分の可能性が高まります。「殺処分だけはなんとしても」と、日ごろから行き場を失った多くのワンコの命を救ってきた犬保護団体restartdog LIEN(以下、リアン)では、このロングコートチワワのワンコに「柚子」という名前をつけ、引き出しました。
■先住犬に威嚇され預かりボラさんの家を引っ越し
柚子は保護当初から人間への恐怖心を抱いている様子でした。人の姿が見えた途端にケージの奥に引きこもり「いませんよ」とばかりに出てこなくなってしまうのです。その一方、人間や他のワンコに対する攻撃性などはいっさいなく、実際は穏やかで優しい性格の持ち主でもあるように映りました。
ここまで人間への恐怖心を抱くのには過去の経験によるものかもしれません。リアンでは柚子がもう一度人間を信じてくれることを願いながら、しばらくリアンに所属する預かりスタッフさんの家でお世話をすることにしました。
しかし、ここで思わぬ問題が発生しました。
預かりスタッフさんの家には先住犬がいますが、このワンコが新たにやってきた柚子のことを嫌がり、柚子に向かってずっと吠え続けるのです。ただでさえビクビクしている柚子なので、「これは良くない」と判断。柚子はすぐさま別の預かりスタッフさんの家へと移動することになりました。
■過去の経験からか、過剰に人間を怖がる
新しい預かりスタッフさんの家にも先住犬がいるのですが、ここでは他のワンコから攻撃を受けることがなく、柚子はようやく落ち着いた環境に身を置くことができました。
しかし、預かりスタッフさんの姿を見るとケージの中に隠れてしまうのは相変わらずで、ご飯を食べるときでさえ、人に見られていると口にしてくれません。
預かりスタッフさんが「大丈夫だよ。もう怖くないからね。ここでは意地悪する人も犬もいないから大丈夫だよ」と声をかけながら柚子の体をなでると、緊張したようにジッと固まって動かなくなってしまいます。ここまでの柚子の様子を見た預かりスタッフさんは話します。
「人間が嫌いというより、とにかく『怖い』といった感じですね。できるだけ恐怖を与えないように気を付けながら、少しずつ柚子のペースで心を開いていくように心がけます」
この通り、預かりスタッフさんはまず柚子に馴れてもらうため、毎日同じルーティーンで過ごすように心がけました。
朝起きたら預かりスタッフさんが柚子に声をかけ、毎朝、先住犬たちが散歩から戻ってきたところで柚子のご飯の時間。夕方もまた先住犬たちの散歩の後に柚子のご飯の時間。こういったサイクルを繰り返すことで、環境に馴れてくれるように努めました。
■2カ月ほどたち行動に変化が
預かりスタッフさんが根気強くお世話をし続け、この家に来て2カ月ほどが経過したところで、柚子の行動に少しずつ変化が現れました。
以前と変わらずケージの中にいる時間が多い一方、気分が乗っているときは自らケージから出てくるようになったのです。そしてときには預かりスタッフさんの前でうれしそうに尻尾を振ることもあり、食器にドッグフードを入れる「カラカラ」という音が聞こえると足元まで来るほど成長してくれました。また、抱っこしても嫌がらないばかりか、ほっとした表情を浮かべるようにもなりました。
この成長ぶりを受けてリアンでは柚子の里親募集を開始しました。リアンのスタッフによれば、柚子はまだ完全に人馴れしたわけではない一方、じっくり時間をかければ必ず心を開いてくれる穏やかなワンコとのこと。そのため、柚子をできるだけひとりぼっちにせず、ずっと一緒に優しく接してくれるような穏やかな家庭に迎え入れてもらうのが理想です。
「ずっとの家族」「ずっとの家」を目指して、今日も柚子は日進月歩で成長中。近い将来、本当に「人間への信頼」をもう一度取り戻してくれ、幸せな第二の犬生を歩んでくれることを祈るばかりです。
(まいどなニュース特約・松田 義人)