ペットホテルで愛猫が脱走!…その時、飼い主は何を請求できる? 預かり側の法的責任…弁護士が解説
旅行や仕事などでやむを得ない場合などに猫を預かってくれるサービスを利用していて、ペットが逃げてしまった、という相談を受けることがあります。もし預かり先から猫が逃げてしまった場合、法的にはどのようなことが言えるでしょうか。ペットに関する法律問題を取り扱っているあさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。
■無料か有料か…預かり方で変わる責任の大きさ
▽1 逃した場合の責任
ペットホテル等で猫を預かってもらうことは、物の保管を依頼する「寄託契約」(民法657条以下)に分類されます。
預かっていた猫を逃がしてしまう、というのは、この寄託契約違反ということになりますが、寄託契約で預かる側(受寄者)が負担する責任の内容は、寄託契約が有料か、無料かによって変わってきます。
例えば友人、親戚、ご近所さん、ペット仲間などが、好意から無償で預かってくれた場合は、自己のペットと同一の注意をもって保管すれば足りることとなっています(民法659条)。具体的には、預かった猫を預かり主の飼い猫と同じ部屋で管理するなどして、自分の飼い猫と同様に扱っていた場合は、万一預かった猫が逃げてしまったとしても、預けた側が法的な責任を問うことはできません。
一方、ペットホテルなど有料の寄託サービスの場合は、猫を飼い主に返還するまでの間、善良なる管理者としての義務を負担しなければなりません(民法400条)。
具体的にどのような管理をしなければならないかはケースバイケースですが、突然の預かりで不安になっている猫がそこから逃げ出そうとすることは当然に予測できることですから、逃亡防止についての万全の体制が求められるでしょう。二重に柵を設ける、常時監視する、部屋の出入りやケージからの出し入れには細心の注意を払う、犬の場合は散歩も複数人で行うとか、リードを決して離さない、といったような対策をする必要があります。
ただ、どれだけ厳格な防止策を施していたとしても、預かった猫が逃げてしまった場合は、結果的に対策不足であったとされ、原則として責任を取らなければならなくなるでしょう。
▽2 何が請求できるか
猫を逃されてしまった飼い主は、預かり主に対し、まず捜索を請求することができます。これは、「物を預かる」という寄託契約に付随する当然の義務です。
捜索請求の内容としては、ビラの作成やその費用の負担、ビラ配布の協力要求、ペット探偵への依頼費用などが考えられます。なお捜索するにあたっては、ペットホテルに協力を求める以外に、保健所や動物愛護センター等への連絡をすること、警察に遺失物届を提出することも忘れないようにしましょう。
残念ながら八方手を尽くしても猫が見つからなかった場合は、受託者に損害賠償を請求することができます。損害賠償の対象となるのは、逃げてしまったペットの価値相当額や慰謝料、捜索にかかった費用、捜索のために仕事を休んだ休業補償、弁護士費用など多岐にわたります。
福岡地方裁判所平成21年1月22日判決事件は、ペットホテルに預けた犬(2歳のチワワ)が逃げてしまった事件ですが、ホテルが飼い主の指示に違反していたこと、逃げたことをすぐに飼主に報告しなかったことや、逃げた状況についての説明が二転三転したり、実際には捜索していなかったのに「従業員が捜索している」と飼い主に嘘の説明をしていたことなどといったペットホテル側の不誠実な対応が考慮され、被告に対して、慰謝料・弁護士費用を含めて60万円の賠償金の支払いが命じられました。
◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。