新NISAスタートまで1カ月足らず 知っておきたい制度改正の背景【FPが解説】
2024年からNISA制度が新しくなることは多くの人がご存知かと思います。投資できる金額が大幅に増えるほか、非課税投資期間が無制限になるなど、現行の制度から大きく変わる点がいくつかあります。制度が改正されるに至った背景などを把握することで、より深く新しいNISA制度を理解できるようになるでしょう。FPの立場から解説します。
■NISA制度を改正する狙い
2022年12月に令和5年度の税制改正大綱が発表され、2024年からNISA制度が新しくなることになりました。それに先立ち、金融庁はNISA制度の改正要望として以下のような項目をまとめていました。
◇ ◇
貯蓄から投資へのシフトを大胆・抜本的に進める観点から、NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充その他所要の措置を講ずる
(金融庁総合政策局総合政策課:令和5年度税制改正要望事項より抜粋)
◇ ◇
つまり、金融庁はNISA制度を改正を通して「貯蓄から投資へ」の流れを加速させたいという狙いがあることがわかります。
■「貯蓄から投資へ」の流れを加速させたい理由
では、なぜいま「貯蓄から投資へ」の流れを加速させたいのでしょうか。
さまざまな理由が考えられますが、大きくは日本の家計金融資産における現預金の割合が高い点とインフレの2つの点があげられるでしょう。
▽理由①日本の家計金融資産における現預金の割合が高いから
日本人は貯蓄(貯金)好きなどと言われ、資産の大部分を現金・預金という形で持っている人も多いのではないでしょうか。
日本銀行によると、2022年9月末における家計の金融資産は2,005兆円で、そのうち実に55%近い1,100兆円が現金・預金になっているそうです。そういった点が、「貯蓄から投資へ」の流れを加速させたい理由の1つです。
昔と違ってこの低金利時代では現金・預金として置いておくだけではお金は増えません。そのため、国としては現金・預金という形ではなく成長資産である株や投資信託にも資産を振り分けることで家計の金融資産を増やしていこうという思惑があります。
実際に、日本に比べて現金・預金の割合が低い(=株や投資信託といった金融商品を持つ人の割合が日本よりも高い)諸外国では、ここ20年で家計金融資産が大きく伸びており、アメリカでは3.4倍、イギリスでは2.3倍になっています。
一方の日本は1.4倍と、アメリカの半分以下となっています。(金融庁総合政策局総合政策課:令和5年度税制改正要望事項より)
つまり、今回のNISA制度の改正には、(諸外国のように)家計資産を貯蓄から投資へと積極的に振り分け、資産所得倍増につなげる狙いがあります。
なお、このことを金融庁は以下のように表現しています。
◇ ◇
家計の保有する金融資産を拡大していくためには預金として保有されている資産が投資にも向かい、持続的な企業価値向上の恩恵が家計に及ぶ好循環を作る必要がある。
このため、個人金融資産を全世代的に貯蓄から投資にシフトさせるべく、NISAの抜本的な拡充その他所要の措置が必要である。
(金融庁総合政策局総合政策課:令和5年度税制改正要望事項より抜粋)
◇ ◇
NISA制度の改正によって、日本の高すぎる現金・預金比率を引き下げるとともに、投資へのシフトが今後ますます進むと予想されます。
▽理由②インフレが進行しているから
理由①とも重複する部分がありますが、世界的なインフレが起こっており、身の回りのものの値段がじわじわと上がってきています。
今後も続々と値上げが予定されているほか、中身の量を減らして対応する実質値上げも増えています。
(「あれっ、このお菓子ってこれだけしか入っていなかったっけ?」という気持ちを抱いたことがある人もきっといらっしゃるはず!)
物価は継続して上がっているのにお金を現金・預金といった形で置いておくと、お金の価値が相対的に目減りしてしまいます。
昔は銀行に置いておくだけでお金が増えた時代がありましたが、もうそのような時代ではないというのは多くの人が理解しているでしょう。
しかし、これだけのスピードで物価が上がっている現状を考えると、(現金・預金として資産を保有していると)お金の価値が目減りするスピードも同じように早くなっている点には危機感を持つ必要があります。
そのため、今後は資産を守り、育てていくためにも、「貯蓄から投資へ」の流れを加速させなければならず、非課税投資制度であるNISA制度をさらにより良い制度にしていく必要があるというわけです。
なお、「貯蓄から投資へ」の流れを加速させるその他の理由として、
・投資で資産を増やすことで、教育費や老後資金を計画的に準備できる(=困る人が減る)
・投資で資産を増やすことで、消費を喚起する効果が期待できて、ゆくゆくは景気の底上げにつながる
といったことも考えられます。
■ただ…「NISAをやっているから大丈夫」というわけではない
▽これまでのNISA制度
2024年に待ち受ける新NISA制度への改正ですが、実はNISA制度は創設から毎年改正などの要望が金融庁から出されています。例えば、大きな改正の要望の例として、以下のようなものがありました。
◇ ◇
平成21年度改正「NISAの創設」
平成22年度改正「NISAの法制化」
平成25年度改正「NISAの恒久化等」
平成26年度改正「NISAの利便性の向上」
平成27年度改正「ジュニアNISAの創設等」
平成29年度改正「つみたてNISAの創設等」
平成31年度改正「NISA制度の恒久化等」
令和2年度改正「NISAの恒久化等」
(金融庁総合政策局総合政策課:令和5年度税制改正要望事項より)
◇ ◇
上記から分かる通り、実は過去にもNISAの恒久化等が要望されたことが何度かあり、今回のNISA恒久化の決定は非常に大きな意味のある出来事となりました。
「ジュニアNISA」や「つみたてNISA」が創設されるなど、NISA制度は確実に広がっていることがわかります。
▽これからのNISA制度
ではこれからのNISA制度はどうなっていくのでしょうか。残念ながら、確実なことは誰にもわかりません。
しかし、NISA制度のこれからを考えるときに大切なのは、NISA制度の概要を正しく理解した上で、制度を利用することによるメリットを最大限享受することではないでしょうか。
このときに注意したいのが、NISA制度はあくまでも資産運用の手段であり、目的ではないという点です。
ときどき、「NISAやってるから大丈夫!」という人がいますが、このような考え方は禁物です。
もちろん、NISA制度を利用した資産運用は非常に大切です。
しかし、NISA制度はあくまでも資産運用の手段の1つであり、本来は「教育費を貯めたい」「老後資金を貯めたい」「資産の現金比率を下げてインフレに負けない資産作りがしたい」など、何か理由があるはず。
なぜNISA制度を利用するのか、NISA制度を利用してどのようなことを達成したいのかという軸を自分自身の中で持っておくと良いでしょう。
また、NISA制度を利用したとしても、運用実績がマイナスになることもあります。
「NISAをやっているから大丈夫」なのではなく、時には投資先の見直しや投資金額の引き上げ・引き下げを検討して自分自身で資産を運用していく必要があることも覚えておきましょう。
資産運用の手段の1つであるNISA制度をどのように活用するのかは自分次第、ということですね。
◆舘野聡子(たての・さとこ)FPオフィス「あしたば」のファイナンシャルプランナー。保険会社での個人向け営業に従事しながら、「保険が最適解ではないこともある」と痛感し、より幅広い視点でお客様に寄り添うことができるFPを志す。FP業務の傍ら記事執筆にも取り組み、資産形成のきっかけや気づきにしてもらうべく奮闘中。
(まいどなニュース/FPオフィス「あしたば」)