「道草」のおかげで辿り着いたスコーン 東日本大震災で被災した女性が手作り、福島のカフェを思い浮かべ
岡山市北区出石町の旭川沿いを歩いていると、こぢんまりとした古民家が目に留まる。小窓から出迎えてくれたのは森郁恵さん(42)=同市中区。旭川対岸にある日本三名園の一つ・後楽園の木々の緑と吹き抜ける風が心地いいこの場所で、春から手作りスコーンの店を営んでいる。
ふわふわでやわらかい食感のスコーンと茶葉にこだわったミルクティーのみを扱う。スコーンはアレルギーに配慮して卵は不使用。ジャム、濃厚な「クロテッドクリーム」、ミルクティーとのセット(1500円)はすぐに売り切れ、予約しないと手に入りにくい人気ぶりとなっている。
森さんは福島県出身。東日本大震災後の2011年7月に夫の実家がある縁で岡山に移住した。パートで働いていたパン店で客と触れ合ううち「自分ならではの店をやりたい」と思うように。頭に浮かんだのが、福島の実家近くにあるカフェのスコーン。優しい味わいでほろっと崩れる食感が好きだった。
パン店でアドバイスをもらったり、試作を重ねたりして独自の製法にたどり着き、20年から催しなどで販売。昨年秋に出石町の川沿いであったイベントで出店した際、景色に一目ぼれした。すぐ出店仲間の不動産関係者に相談し、空き家を借りて今年3月にオープンさせた。
「スコーンが好きとか、自分も何かに挑戦したいとか、お客さんと話せる時間も楽しい」と言う森さん。子どもの学校行事などに合わせつつ週1~3日のペースで営業。「まちなかにスコーン屋さんがあるっていいですね」と声をかけられることも増えたという。
店名は「森のみちくさ」。名字の森に、好きな言葉の「道草」を合わせた。「道草って無駄に思えるけど、そのおかげでたどり着けるところってあると思う。パートやイベント出店を経たからこそ出合えたこの店に、ふらっと立ち寄って温かい気持ちになってほしい」と話している。
(まいどなニュース/山陽新聞)