シーマン、久しぶり!えっ、ラーメンマンだって? 江戸時代の古文書に描かれた謎の淡水魚・ガナイタが話題
古文書に記された謎の魚「ガナイタ」がX(旧Twitter)上で大きな注目を集めている。
きっかけになったのはイラストレーターのteraこと寺西政洋さん(@DoyonoJun)が「えっ…」と驚きもあらわに紹介した2枚の写真。
記述によるとガナイタとは琵琶湖に生息する5~6寸(約15cm~18cm)のとげのある淡水魚ということだが、そのビジュアルはラーメンマン的な長いひげと言い、前方に長く突き出た顎と言い、なんともインパクト溢れている。現在の魚類辞典などにはまったく記載のないガナイタ。これは絶滅してしまった古の魚なのかそれとも…今回の投稿に対し、Xユーザー達からは
「シーマン?」
「ガナイタ……幻の琵琶湖魚 ほんまにいたら格好良すぎる。」
「地味な未確認動物現状一位、ガナイタ」
「あの顔が頭から離れなくなったので調べてみました。『淡海魚譜』の記述からすると珍しい魚ではなさそうなんですが、やはり伝承に片足を突っ込んでいる感じがします。近世の琵琶湖の魚類に関する資料は他にもいくつかあるので、俗信と併せて確認することで何かわかればいいなと…!」
など数々の驚きの声が寄せられている。
■投稿者に聞いた
teraさんに話を聞いた。
ーーこの書物について詳細をお聞かせください。
寺西:天保9年(1838年)刊の魚類図譜『皇和魚譜』です。著者の栗本丹洲は江戸時代後期の幕府の奥医師であり、本草学者として数多くの魚類や虫類の図譜も残した人物ですが、出版流通したものは皇和魚譜が唯一とされています。また、この書物の魚の図は丹洲自身ではなく、栗本伯資という人物の手によるものです。
ーーガナイタの記述について。
寺西:私は現在、同人誌としてまとめる予定でリュウグウノツカイの文化史的研究を行っており、栗本丹洲の著作を調べているなかでガナイタを見つけました。いやにしゃくれた顎とやけにつぶらな瞳、やたら長い鼻毛という不思議な顔が極めて個性的かつ絶妙な味があり、見つけた瞬間の戸惑いを表したのが例の投稿でした。『皇和魚譜』には「琵琶湖にあり。長さ五六寸、鋭い棘があり、人を刺すことギギより甚だしい」と記されており、ギギとは別物であると明示されています。前ページのギギ類の絵と見比べると、ガナイタが明らかにへんてこな顔で描かれていることがわかります。
ーーその後、ガナイタについて判明したことはありますか?
寺西:あおいさん(@heartvine_aoi)から情報をいただき、琵琶湖の水産生物誌である『淡海魚譜』にもガナイタの記述があることがわかりました。これを見ると、ガナイタは漢名詳らかならず…すなわち本草学的発想の根幹となる中国での名称が特定されていない生物であることがわかります。外見描写から、ナマズやドジョウとも別物であることがわかります。
ーー投稿が反響を呼びました。
寺西:絵を単純に楽しんでくださる方、ガナイタの正体に興味をもって考察してくださる方など、さまざまな感想がありうれしかったです。先般話題になった古代魚サカバンバスピスのようにガナイタもマスコット的に愛されてほしいと思います。月海月さんの「地味な未確認動物現状一位」というコメントも的確で面白かったです。
◇ ◇
その後の調査によると江戸時代後期の画家・奥倉辰行による魚類画集『水族四帖』春にもガナイタとおぼしき魚が描かれているようだ。
歴史に埋もれた謎の魚・ガナイタ。その正体が明らかになる日は来るのだろうか。
なお今回の話題を提供してくれた寺西さんは現在、笠間書院から発売中の『日本怪異妖怪事典』シリーズ東北編で本文、中国編で本文とカバーイラストを担当している。いずれも各地域に伝わる不思議な存在や出来事を一挙紹介した力作なので、ご興味ある方はぜひチェックしてただきたい。
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)