狂気のマザコン銀行員を怪演 佐野史郎にとっての1992年の冬彦ブームとは 「みんな何を騒いでいるの?」 撮影現場に刑事が聞き込みに来たホラーにも出演

日本が誇る怪優・佐野史郎(68)が、ピンク四天王の一人・佐藤寿保監督と初タッグ。数々の逸話を残した夭折の芸術家・村山槐多の魂にインスパイアされた『火だるま槐多よ』(12月23日公開)で、スクラップ工場を経営する謎の男を演じる。

数々の異色作を放った鬼才による久々の新作。「なんだかわからないけれど凄い」という鑑賞後感は、若き頃の佐野が出演したオリジナルビデオ『LSD~ラッキー・スカイ・ダイアモンド』(1990年)と重なるものがある。

■撮影現場で刑事から事情聴取

登場人物や物語の設定がすべて狂っている『LSD~ラッキー・スカイ・ダイアモンド』は、当初はスプラッター描写が売りの『ギニーピッグ』シリーズの一つとして制作される予定だった。しかし東京と埼玉で幼女・女児4人を殺害した宮崎勤元死刑囚がシリーズの一つ『ギニーピッグ4 ピーターの悪魔の女医さん』を所持していたことが明らかになると、ホラー映画へのバッシングが吹き荒れた。あおりを受けて急遽タイトルを変更しての発表となったわけだが、実は撮影中も前代未聞の出来事が起きていたのだ。

佐野は「時期的に容疑者が逮捕される前か逮捕後なのか記憶は定かではありませんが、撮影現場に刑事が来て『このような作品を作る人や見る人とは一体どんな人物なのか?』と僕も含めたスタッフ・キャスト全員に根掘り葉掘り聴取していきました。撮影現場に刑事が来て話を聞かれるなんて、後にも先にもない経験。インした時は『ギニーピッグ』の新作という認識でしたが、発売されたときはタイトルが『LSD~ラッキー・スカイ・ダイアモンド』に変更されていました。完成させて世に出す際にもいろいろと大変だったみたいです」と当時を振り返る。

■いわくつき作品としてカルト化

『LSD~ラッキー・スカイ・ダイアモンド』はそのぶっ飛んだ内容もさることながら、視聴環境がVHSのみのため、今では幻の作品として語り継がれてカルト化している。30年以上経った現在も、その“いわくつき”は強まるばかりだ。

「最近もある出版社から、ホラー映画系のムック本を作るので取材をしたいとの問い合わせがありました。しかし今のご時世コンプラ的に問題があるようで、その話はなくなりました。様々な事情を抱えた作品ですからね。もう一度公にするのはなかなか難しいのでしょう」

そもそもなぜ佐野は、いわくつきとなるような作品への出演を決めたのか。段ボールを洋服代わりにした佐野が、絶叫するヒロインの腹から飛び出した内臓をまさぐるシーンは、まさに衝撃映像だ。

「奇妙奇天烈な内容だからと思って出たわけではなく、当時はオリジナルビデオ作品というレンタルビデオ専用の映画というジャンルがあって、東映のVシネマと共に需要がありました。だから自分としては、オファーをいただいた仕事の一つというとらえ方。今でいうところの配信ドラマや配信映画に出るような感覚で、仕事のジャンルとしてはマニアックな事ではありませんでした。ストーリー自体はカルトだけれどね」と笑う。

■冬彦さんに特別な意識なし

それからしばらくして佐野は、茶の間を戦慄させた連続テレビドラマ『ずっとあなたが好きだった』(1992年、TBS)でブレイク。演じたマザコン男の「冬彦さん」が流行語になるなどブームを巻き起こした。だが当時の佐野は至って冷静だったらしい。

「冬彦さんをやって世間は大いに騒いだわけですが、僕としてはそれまで『LSD~ラッキー・スカイ・ダイアモンド』みたいな作品をやってきているわけですから、何をみんなそんなに騒いでいるの?と。元々僕の出所は唐十郎さん主宰の状況劇場ですからね。特別なことをしているような意識はまったくありませんでした」と意外な心境を教えてくれた。

(まいどなニュース特約・石井 隼人)

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