「ハト1羽、ひき殺して逮捕」は妥当か…弁護士が解説 ネットでは「やり過ぎ」「生類憐れみの令復活か」と物議

タクシー運転手が新宿の路上でカワラバト1羽をタクシーでひき殺し、鳥獣保護法違反の疑いで逮捕されたというニュースが話題となりました。報道によると、運転手は青信号に変わった途端タクシーを急発進させ、路上にいたハトの群れに突っ込んでそのうち1羽をひき殺した、とのことです。事件についてネットでは「やり過ぎではないのか」「生類憐れみの令の復活か」といった反応も見られます。逮捕の妥当性について、ペットに関する法律問題を取り扱っているあさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。

▽1 鳥獣保護法違反

 動物を殺傷する行為を処罰する法律には、刑法、動物愛護管理法、そして今回問題となった鳥獣保護法(正式名称は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」)があります。

 刑法261条の動物傷害罪は、対象が「他人の物」である必要があります。つまり、他人の飼養している動物を殺傷した場合に適用されます。罰則は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金もしくは科料です。今回轢き殺されたカワラバトは路上にいたいわゆる「ドバト」でしょうから、これには該当しません。

 動物愛護管理法は44条1項で、「愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金に処する」と定め、刑法の動物傷害罪よりも重い罰則を定めています。ただし、ここでは「愛護動物」に対象が限定されています。愛護動物とは、

① 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる

② 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬は虫類に属するもの

になります。

 「ドバト」は「いえばと(家禽化した鳩)」ではなく、また「人が占有している…鳥類」でもないので、動物愛護管理法の対象ともなりません。

 「ドバト」を保護する法律は、鳥獣保護法になります。

鳥獣保護法は、「鳥類又は哺乳類に属する野生動物」を保護することで、生物の多様性の確保、生態系の保護、生活環境の保全等を通じて、自然環境の恵沢を享受できる国民生活の確保及び地域社会の健全な発展に資すること目的とする法律です。その8条本文は、鳥獣及び鳥類の卵を捕獲・殺傷・採取・損傷することを、学術研究目的での捕獲や厳しい条件のもとでのみ許される狩猟などの一定の例外を除いて禁じています。罰則は同法83条1項に規定されており、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされています。

 今回のタクシー運転手の行為は、鳥獣保護法で定められた例外に該当しない殺傷行為であり、故意に鳩を轢き殺したものとして、今回の鳥獣保護法違反容疑での逮捕に至ったと考えられます。

▽2 逮捕は妥当だったか?

しかし、ある人が何かしらの犯罪に及んだとしても、逮捕すべきかどうかは別に考える必要があります。

逮捕は刑罰ではありません。今回の逮捕は現行犯逮捕ではなく通常逮捕、つまり裁判官が発付した令状に基づいて行われたものですが、これは「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき」に、逮捕の必要があるときに限って行われる強制処分です。そして逮捕の必要とは、逃走や証拠隠滅のおそれが具体的に考えられることと解釈されています。

 今回のケースでは、鳥獣保護法違反は比較的軽微な犯罪です。タクシー運転手という正職を持った運転手が職を振り捨ててまで逃走するとは考え難いといえます。もし家族がいたとすればなおさらでしょう。

 また、証拠隠滅の具体的な可能性があったのかも疑問です。

 詳細な事情がわからないと判断しづらいところですが、本件は事件の目撃者から110番通報があって捜査機関に発覚したとのことです。タクシー運転手が、この名前も住所もわからない目撃者を探し出して脅迫したりする具体的な可能性は果たしてあったのでしょうか。

 1人の目撃証言だけで逮捕に踏み切ることは通常考えにくいので、他にもいくつか証拠があるはずです。目撃者は他にも複数いたかもしれません。新宿という場所からして、監視カメラも多数設置されているでしょう。そこで犯行現場が捉えられていたかもしれません。もし監視カメラに映っていたのであれば、記録を消去することは不可能です。

 そう考えていくと、タクシー運転手が証拠を隠滅する具体的な可能性があったかは疑わしいと思います。

 故意に鳩を轢き殺す行為は、鳥獣保護法に違反する犯罪であり、違法行為を行ったタクシー運転手の行為は非難を免れません。しかし、犯罪の軽微性や、逃走や証拠隠滅の可能性が具体的に考え難いことから、この件で逮捕までしたことはやり過ぎだと考えます。

 そのような判断がされたためかわかりませんが、タクシー運転手は数日後に釈放されたそうです。しかし、逮捕されることで一般人が被る社会的・精神的ダメージは非常に大きいものがあります。捜査機関は「逮捕の必要性があるかどうか」を具体的に検討するべきですし、裁判所も実態を踏まえた令状の発付を行うべきです。

◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。

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