最も難しい「人とのかかわり」 多頭飼育崩壊した飼い主が態度を豹変 苦渋の決断の末、保護したワンコは戻された
保護犬の中には、多頭飼育崩壊の現場から保護されるワンコが一定数います。こういった現場の飼い主は「いや大丈夫。うちはちゃんとやってる」と言い張ることが多いものですが、1匹ずつワンコを世話し、きちんと管理できていれば多頭飼育崩壊は起きません。九州で起きた多頭飼育崩壊の現場の飼い主も、当初は「大丈夫」と説明し、地元の警察署や保健所から頭数を減らすよう指導を受けても、頑なに拒否をしていました。
■多頭飼育崩壊の飼い主によくある「うちは大丈夫」
頑なに拒否する理由は「ちゃんとできている」という根拠のない自信からくるものもあったでしょうが、保健所に犬を引き取ってもらう際にかかる「手数料」に強い不満があったようです。
この経緯を知った地元・九州を拠点に保護活動を続けるボランティアチーム、わんにゃんレスキューはぴねす(以下、はぴねす)は、当初よりこの現場の飼い主と慎重に交渉を重ねました。保健所にワンコを渡すことは、殺処分の可能性が高まることでもあり、同チームスタッフとしても反対の立場だったからです。
「保健所に渡さない代わりに、私たちに預けてお世話させてくれないか」「私たちが各ワンコに適切な処置をして、里親さんへと譲渡するほうがワンコたちにとって幸せでしょう」と繰り返し説明をしました。
渋々ではあったものの、多頭飼育崩壊現場の飼い主は、はぴねすの提案に承諾し何匹かを引き渡しました。その後、幸せな第二の犬生を迎えられたワンコの写真を見せると、「うちの子を幸せにしてくれて本当にありがとうございます」と礼を言い、かつて一緒に過ごしたワンコを愛おしそうに眺めるのでした。
■やがて信頼を寄せてくれるようになった飼い主
こういった保護活動を重ねるうちに、飼い主ははぴねすを信頼してくれるようになり、1匹また1匹と引き渡してくれるようになったのです。
そのうちの1匹が2023年引き渡してもらったダルマというワンコ。避妊手術を終え、はぴねすのスタッフの家で家族と寝食をともにし、その都度スタッフは飼い主にその様子を全て報告していました。
やがて、優しそうな里親希望者さん夫婦が現れました。良いチャンスです。スタッフは飼い主に「ダルマの未来を、この優しそうな夫婦に託してはどうでしょう。夫婦に会われてみませんか?」と提案しました。これまでの経緯から「寂しいが、ダルマのためだから、里子に出すのは一番の選択だ」と言ってくれることを期待してのことです。
しかし、飼い主からの返答はそれとは真逆のものでした。
■「ダルマは渡さない」「ダルマを返せ」
とにかく「ダルマは渡さない」「ダルマを返せ」の一点張り。さらには、はぴねすに賛同するボランティア仲間、いつも協力してくれる動物病院など、関係先の人たちもが生活を壊される危険性さえ出てきたと言います。
スタッフはその決断が本当に正しいことかどうか悩みに悩み、新しい里親希望者さんではなく、元いた飼い主の元へダルマを返すことにしました。ここで飼い主と正論で対峙すれば、チーム自体はもちろん周囲が危険にさらされること、そして、すでに保護しているワンコたちが路頭に迷うことになるのだけは絶対に避けたかったからでした。
そもそも保護活動は仕事ではなく、ボランティアとして「自分にできること」を地道に続けるしかないのも現実です。信頼を持って接してくれる関係者の生活を脅かすようなことがあっては絶対に良くないとも考えました。
警察にも相談し、再度介入してもらうよう依頼したものの、効果は得られず、やむを得ず「正式な持ち主」である飼い主の元へ返すことにしたというわけです。
■悩みに悩んだ末に返すことにした理由
はぴねすのスタッフはダルマを返した経緯について、素直で誠実な回答をしてくれました。
「ダルマを元いた飼い主に返したことに様々な意見があると思います。『どうしてそんな飼い主に返したのか』と反感を受けることもありました。しかし、こういった際に理解してほしかったことは『一番ダルマを返したくなかったのは、ダルマを預かりお世話をしていた私自身』ということです。もちろん、見捨てたわけではなく、経緯なども含めてやむを得ず返さざるを得ませんでした。保健所に介入してもらうことも一時は考えましたが、そうなると『殺処分』の可能性が高まります。元の飼い主の多頭飼育崩壊現場は、確かに劣悪でも『殺処分』されるわけではありません。このため、様々な事情から苦渋の判断の末に返すことにしました」
そして、ワンコはもちろん行き場を失った動物の命を救う活動において、一番難しいのは「人との関わり」とも語ってくれました。
「犬猫の保護ボランティアに共通するのは『命を助けたい』という思いです。ただし、その活動には必ず『人間』がかかわりあうこととなります。そういった場面で双方の意見が食い違いがあると、トラブルが生じます。動物への愛情や『助けたい』という思いが同じでも、この点が本当に難しいです。
ダルマを返す際、あの多頭飼育崩壊の飼い主の元にいた何匹ものワンコたちの姿が頭に浮かんで、気がおかしくなりそうでした。しかし、現時点ではやむを得ずダルマを飼い主に返し、またゼロからスタートすることにしました。早急に幸せな犬生に導いてあげることができなかったことを本当に悔やんでいますが、しかし、諦めたりダルマを見捨てたわけではありません。なんとか次なるチャンスを見出して、行き場を失ったワンコの命と生活を救い出せるようにしていきたいと思っています」
わんにゃんレスキューはぴねす
http://happines-rescue.com/
(まいどなニュース特約・松田 義人)