「日本人でもここまで…」 韓国国立中央博物館の「武士」に関する説明文が秀逸すぎると話題に「日本人以上に分かってそう」
韓国国立中央博物館(ソウル特別市龍山区)の展示物の日本語説明文がSNS上で大きな注目を集めている。
「これはソウルの国立中央博物館で見かけた、日本以上に日本のことを分かっていそうな展示
というか説明文が名文すぎて感動した」と件の説明文を紹介したのは石城なつえさん(@SEKIJO_Natsue)。
「平安時代、貴族の雇われ人に過ぎなかった武士は、武力を必要とする情勢を追い風に中央朝廷における影響力を拡大する一方、次第に勢力を広げ幕府体制を樹立することで、支配階級となった。
しかし、武士たちは武力だけを前面に出した支配者ではなかった。日本の文化と芸術を後援し、各時代を代表する文化思潮の形成においても中核的な役割を果たした。以前の支配階級であった貴族たちと異なる独特の美意識で伝統芸能や茶道、絵画、工芸、陶磁器などの分野で、独自の芸術を創り出した。このような芸術は武士が 『戦士』としての自我を保っていながらも、『統治者』という新たなアイデンティティを確立する上に大きな役割を果たしたのである。
世界文化館の日本室は、文化と芸術の発展に貢献した武士の新しい断面に焦点を当てた展示を行う。
刀を持った戦士であると同時に、 教養を備えた文化人であり統治者だった武士を理解することは、近くて遠い隣国である日本を正しく理解する第一歩になるだろう。」
いくら研究者とは言っても、異文化に生まれ育った人がここまで正確かつ客観的に日本の武士文化を理解しているとは…。今回の投稿に対し、SNSユーザー達からは
「武士という存在を一歩引いた目線で客観的にかつ正確に書いてて素敵ですね」
「学校の歴史の授業もこのイントロがあったら勉強にたいする理解度の解像度が深まりそう。」
「展示に携わった方々の学識の高さがうかがえる文章ですわ。行ってみたくなりました。」
など数々の驚きの声、感動の声が寄せられている。
■投稿者に聞いた
石城さんに話を聞いた。
ーー今回、韓国国立中央博物館を訪れた経緯を。
石城:学生時代に歴史を専攻していて、韓国の歴史に興味がありました。ちょうど航空券が安かったので、3泊4日で韓国を訪れました。釜山には行ったことがあったのですが、ソウルは今回初めての訪問で、博物館や史跡を中心に観光してきました。国立中央博物館もその一環で訪れました。
ーーこの説明文はどのような展示に関するものですか?
石城:国立中央博物館の世界文化館・日本室のイントロダクションの文章です。日本の武士の文化についての説明をしています。日本では「武士=戦士」としての見方が一般的ですが、統治者として文化のパトロンの一面もあったということを説明文では解説しています。実際の展示では、武士の文化である刀剣や甲冑、茶器、絵画などが展示されていました。
ーー説明文をご覧になって。
石城:名文だと思いました。武士の戦士・統治者としての二面性という複雑な内容について、他国の博物館が、この文章量で端的に説明しているのは凄いと思います。日本人でもこの解像度で武士の立場を理解できている人は少ないと思いました。そして、最後の段落で「近くて遠い隣国である日本を正しく理解する第一歩となるだろう」とあります。博物館が単なる展示・収蔵施設としての役割だけでなく、隣国との懸け橋となる役割も期待した、素晴らしい文章です。見識があり視野の広い優秀な学芸員さんがおられるのだと思います。
ーー最後の段落の言葉が伝えようとすることは。
石城:日本と韓国は、政治的にはしばしば対立がありますが、市民レベルでは交流の深い国同士です。博物館が文化の相互理解を深め、関係を改善するきっかけになれば良いと思います。
ーー投稿が反響を呼びました。
石城:「韓国は反日のはずなのになぜ日本に詳しいんだ」という反響がありました。韓国の中にも親日、反日様々な考え方の人がいます。そういった当たり前の事実に気付くきっかけになれば嬉しいです。私が旅行した感想としては、韓国人の方は親切な人が多く、日本に反感を持っている方には出会いませんでした。むしろ言葉が分からない中、駅や食堂で助けてくださる方も多かったです。隣国に反感を持つ人が減ればいいなと思います。
また「日本の博物館よりもレベルが高い」という反響もありました。これには私も同感です。日本の博物館はクラウドファンディングで自ら資金を集めなければならない状況になってしまっています。博物館法の上では、博物館の入場料は無料であるのが原則ですが、日本の博物館の多くは入場料を徴収しています。韓国の公立の博物館は、今回の国立中央博物館も含め、常設展の入場料は無料です。まずそこからして、国として文化にかける情熱に差を感じてしまいました。日本の文化政策において、韓国に見習うべき部分はあると思います。
◇ ◇
石城さんの言う通り、近年の日本の行政は文系教育や文化施策を軽視する傾向にある。これらは知識だけでなく、豊かな精神性、排他性に拠らない正常な愛国心を育くむためにも必要不可欠だ。「美しい国」などと叫ぶならけっして捨て置いてはならない領域だと思うのだがどうだろうか。
なお今回紹介された韓国国立中央博物館は入場無料で水曜、土曜は21時まで営業。自国の石器時代から朝鮮王朝時代の収蔵品を展示だけでなく、世界文化館ではギリシャ、メソポタミア、インド、東南アジア、中国、日本の収蔵品も多数展示している。1日では周りきれないボリュームたっぷりの博物館なので、ご興味ある方はぜひ足を運んでいただきたい。展示品にちなんだグッズが多数販売されているミュージアムショップは石城さんも特にオススメということだ。
韓国国立中央博物館概要
所在地:ソウル特別市龍山区西氷庫路137
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)