ネットスラング「嘘松」の起源は「おそ松さん」じゃなかった!? 古文書に記された俗信が“リアル嘘松”だと話題に
「嘘松」の起源がSNS上で大きな注目を集めている。
「山陰地方などでは嘘つきの体や頭には松が生えるという俗信があって、我々の業界で嘘松と言ったらこのことなんですよね」とある古文書を紹介したのはイラストレーターのteraこと寺西政洋さん(@DoyonoJun)。
「生きて居る時にウソを言ふ人は死後頭に松が生える。」と書かれたこの古文書。現在、嘘松と言えば、SNS上に投稿された真偽不明の話や、嘘や誇張で盛られた話、およびその投稿者を指すスラングとして用いられることが多い。これはきっかけになった投稿者がアニメ「おそ松さん」のファンだったことに由来すると言われているが、まさかそれ以前に歴史的な起源があったのだろうか。
今回の投稿に対し、SNSユーザー達からは
「ということは、松の下を掘り起こすと…」
「ウソッキーが妙に松な気してたのはコレか」
「なんか知らないところから所以が生まれてきたな…。そんな言い伝えあったんだ。」
など数々の驚きの声が寄せられている。
■投稿者に聞いた
寺西さんに話を聞いた。
ーーこの書物について。
寺西:出典は鳥取郷土会が編集・発行していた会誌「因伯民談」の通巻第21号(昭和13年刊)に掲載された「社会心理調査報告(六)」です。これは昭和7年以後に各地で実施された迷信・信仰に関する調査の成果報告で、地域ごとに採集された生活に関連する俗信・迷信の類が列挙されています。
ー-その中に嘘松が…
寺西:第六回で取り上げられたのは鳥取県西伯郡車尾村(現・米子市車尾)です。「嘘をつくと松の木が生える」は「嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれる」同様、主に子供に対して嘘をつくことを戒める目的でつかわれていた言い回しで、現在ではあまり言わないかと思いますが、各地の民俗を調査した際の資料に記録されている例をみることができます。
ーー鳥取県八頭郡八東村では「嘘を云ふと頭に三本松が生へる。」、岡山県和気郡では「嘘をつくと尻に松が生える」という俗信があると紹介されていました。今、使われる「嘘松」は実は中国地方の俗信に由来しているのでしょうか?
寺西:もちろんインターネット上で使われる「嘘松」の由来と「嘘をつくと松の木が生える」という俗信とは関係がないものですが、「嘘つき」と「松」という奇妙な共通項には思わず笑ってしまいました。なお、嘘つきの松の俗信は四国でも確認されています。一連の投稿で挙げたもの以外でも探せばさらに多くの地域・市町村での採集例が見つかると思うので、今後も民俗報告書などを調べるときには注目しておきたいと思いました。
ーー投稿が反響を呼びました。
寺西:ネットユーザーの方々が知っている「嘘松」とは別物ながら、嘘にまつわる松の話がずっと昔から存在していたことを面白がっていただけたのではないかと思います。このようなことからでも地域の民俗や伝承に関心を抱いてもらえるとうれしいです。また、実際に身内の方からこのようなことを言われた経験があるというコメントもあり、伝承が息づいていたのを実感しました。
◇ ◇
残念ながら嘘松と中国地方の俗信は関係ないということだが、なんとも興味深い偶然の一致だった。
なお今回の話題を提供してくれた寺西さんは現在、笠間書院から発売中の『日本怪異妖怪事典』シリーズ東北編で本文、中国編で本文とカバーイラストを担当している。いずれも各地域に伝わる不思議な存在や出来事を一挙紹介した力作なので、ご興味ある方はぜひチェックしていただきたい。
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)