宮城県の田んぼに出現…巨大なプールのような建造物 実は環境にやさしい、最先端の「野菜工場」 太陽光とLED光を併用、水も循環
宮城県遠田郡美里町の広大な田んぼの中に、一風変わった建屋がある。上空から見ると、まるで巨大なプールのようにも見えるが、もちろんプールではない。実はこの施設は「野菜工場」で、主としてレタスが栽培されている。
■温度や光などの環境を人工的にコントロール
周囲は田んぼが広がる田園地帯。その中に忽然と巨大な建造物がある。昼間の明るいときの外観は、工場のような佇まいの平屋建ての建屋である。じつは見たとおりの工場なのだが、中でつくられているのは工業製品ではなく野菜である。
ここは株式会社舞台ファームが運営する「美里グリーンベース」という野菜工場なのだ。
同社の未来戦略部に話を聞いた。
「太陽光とLED光を併用して、屋内で野菜を栽培しています」
建屋5.1ヘクタール、敷地面積7.6ヘクタールの工場では、主にレタスが栽培されていて、基本的に昼間は天井から太陽光を取り込み、日が暮れるとLEDの光に切り替えている。そのLEDの光が、遠目にはピンク色に見えるという。
レタスの生育に最適な光のバランスがあるそうで、赤い光と青い光でサイズを大きくし、密度、質度、質量をしっかりさせる研究結果に基づいているという。
「この2色の光が混ざって、ピンク色に見えるのでしょう」
赤と青の光が混ざると、本来なら紫になるのだが、見た人の印象で「ピンク」といわれることがあるそうだ。
ちなみにLEDの光は夜通しつけっぱなしではなく、周囲の人家への配慮もあって、あまり遅くない時間には消灯するとのこと。
このように屋内で栽培することの最大のメリットは、温度や光などの環境を人工的にコントロールできるため、屋外の露地栽培より早く生育させることが可能なことだという。
「露地栽培だと一般的に二期作で年に2回の収穫ですが、この工場では通年で収穫できますので、露地栽培の約80倍の生産性となります」
実際の生産量は、1日に3万~5万株。販売先は大手コンビニチェーンや東北・関東を中心とするスーパーマーケットや外食チェーンなどがあり、年間を通して安定供給できるそうだ。
「美里グリーンベース」では、地球環境へなるべく負担をかけない配慮も為されているという。
「野菜工場では一般的にスポンジに種を植えるのですが、私共では土を使っています。また、肥料を含んだ水を『液肥』といいますが、工場内で循環させています。排出物を出さず、再循環させて何度も使えるようになっています」
■江戸時代から農業に携わってきた老舗企業
「美里グリーンベース」を運営する舞台ファームが農業を始めたのは、江戸時代中期の1720年のこと。「針生家」という農家として始まり、現社長の針生信夫氏で15代目。現在は農業に携わる傍ら、野菜の加工や業務用卸などを手掛けている。
2021年に「美里グリーンベース」をスタート。近隣の農家と連携して、集荷施設としての機能も有しているという。
「販路をいくつももっていますので、近くの農家さんがつくった野菜やお米をもって来ていただけると、私共が買い取って捌くことができるわけです。 野菜工場としてのメリットだけでなく、地域の農家さんとの連携もひとつのプロジェクトとして一緒に取り組んでいます」
今後の展望を聞いてみた。
LED電球や温度管理には、どうしても電気エネルギーを使わざるを得ないため、年間の電気代が莫大な金額になる。その負担を減らすため、ソーラーパネルなど利用して、自分たちで使う電気を自前でつくろうというプロジェクトが動いているとのこと。
将来はつくった電気を美里町の役場や個人宅などへ供給することも視野に入れているようだ。
「農業は、食べ物を売る事業から、今度はエネルギーを転換するビジネスというのが、今後のビジョンとしてあります。地球に降り注いだ太陽のエネルギーが、まず野菜を育てます。その野菜を食べた人間のエネルギーになる。そうした『循環するエネルギー』を私共がつくっています」
後継者不足が社会問題になって、農業は斜陽産業というイメージが強い。しかし同社ではチャンスのある産業だと考えているようだ。野菜工場には、新しい農業の先端を走るテクノロジーが詰まっていたのだ。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)