M-1王者「令和ロマン」2人の名字のルーツは?…全国に広がる「松井」と長崎集中型の「高比良」
2023年のM-1で優勝した令和ロマン。メンバーは高比良くるまと松井ケムリの2人。2人とも慶応大学という高学歴コンビである(高比良は中退)。
松井ケムリの本名は松井浩一。「松井」という名字の由来は「松」と「井」。松は文字通り松の木のことである。松はどこにでもあるポピュラーな木で、名字に使われる木の種類としては最も多い。
一方、「井」は井戸だけではなく、用水路など生活に必要な水を得る場所をすべて「井」といった。松は水辺にも生えていたことから、井戸や用水路の近くにも松があり、そうした場所が「松井」といわれ、その付近に住んだ人が名乗ったのが「松井」である。
従って、こうした場所は全国各地にあり、「松井」のルーツも各地にある。現在でも「松井」は沖縄以外にまんべんなく分布し、名字ランキングでも87位とメジャーな名字となっている。比較的関西から北陸にかけて多い。
一方、高比良くるまの本名は高比良直樹といい、「高比良」は本名である。
「たかひら」と読む名字は「高平」と「高比良」が多く、ともに名字ランキングでは3000位前後。「松井」と比べるとかなり少ないが、それでも「普通の名字」の範疇である。
「高平」の方がやや多い程度で大差はないが、この2つの名字の分布は全く違う。
「高平」は各地に点々とあり、宮城県、群馬県、石川県、長崎県などに多い。地名を見ても各地に「高平」という地名があることから、「高平」はこうした各地の地名をルーツとしている。
一方、「高比良」は全国の6割程が長崎県にあるという一点集中型の名字である。さらに長崎県の中でも、その85%程が長崎市に集中しており、同市の旧三和町では最多名字だった。
こうした一点集中型の名字は、その地にルーツがある。従って、高比良くるまは東京の出身だが、そのルーツをたどると長崎市にいきつく可能性が高い。
長崎県では「たいら」という名字を「多比良」と書くことがあるほか、「比良」という名字もある。また「小平」という名字は長崎県では「こひら」である。
つまり、平地や盆地を指す「たいら」を長崎では「ひら」といい、それに「平」や「比良」という漢字をあてたのだろう。「高比良」とは「高い所にある平らなところ」を指すと考えられる。
◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら、実証的な研究を続ける。NHK「日本人のおなまえっ!」にコメンテーターとして出演中。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。