「まだ出てきちゃダメだぁぁあ!」季節外れの暖かさでキアゲハが羽化!? 驚きの報告にSNSが騒然 専門家の見解は
ようやく冬らしい天気になってきました。ただ、深海マザーさん(@deepseaMOTHER)は、てっきり家の中で越冬すると思っていた生き物が成長して驚いたそうです。
その生き物を見た深海マザーさんは大慌て。
「うわー!時期外れの暖かさのせいで越冬モードに入っていたキアゲハが蛹から出てきてしまった!うわー油断した!戻れー!まだ出てきちゃダメだぁぁあ!!!」
と、Xにキアゲハの画像を投稿しました。
ひと足さきに春を迎えてしまったキアゲハに、
「さ、サナギに戻れるかなぁ…なんとか暖房でいけますかね??」
「温度で孵化する時期が変わるってことは、実質的なサナギでの成長の時間は関係なくて実はもっと早く孵化できるってことなのかな?」
「いや、戻れと言われましても……」
など、たくさんの反響があり、「いいね」は3.8万件にもなりました。
深海マザーさんにお話を聞きました。
ーーキアゲハの飼育をされているのですか。
「庭の畑でパセリを育てていたら、野生のキアゲハが卵を産みつけ、孵(ふ)という幼虫になりました。秋口になって少し寒くなったのにまだ成虫にならず、これから成虫になっても寒いし餌となる花もないので生きていけないと判断し、幼虫ごとパセリを鉢植えにした上で屋内へ持ち込み飼育を始めました」
ーーうまく割り箸にくっつきましたね。
「幼虫は時期が来るとパセリから離れ、蛹(さなぎ)になる場所を探して歩き回ります。それぞれの幼虫が好き勝手な場所で蛹になるため、飼育上の管理がしにくいです。そこで、蛹の大きさに合わせて紙でポケットのような形を作り、それを割り箸に糊で貼り付けます。蛹を回収してポケットにスポッと入れてあるだけですが、みんなまとめて管理できるのでそうしました」
ーー廊下など涼しいところで春まで待つつもりだったのですか。
「はい、北側の太陽光の入らない廊下です。他の蛹は、春までは低温と暗がりが必要なため一旦冷蔵庫に入れましたが、庫内は湿度を保つのが難しいため、すぐに取り出して元の場所に戻しました」
ーー誕生したキアゲハ、今はどうしていますか。
「餌付けが成功したので、大きなボックス型のネットで囲われたケース内で元気に羽ばたいています。暖冬の影響ではない可能性もあります。蝶になり姿をガラリと変えましたが、不思議なことに幼虫期の可愛さの名残も感じ、変わらず愛でております」
この一羽のキアゲハは暖冬の影響でひと足早く蝶になったのでしょうか。JT生命誌研究所昆虫食性進化研究室 尾崎克久さんに話を聞きました。
ーー暖冬の影響で羽化したのでしょうか。
「幼虫期に短日条件(日照時間が短い)で飼育したアゲハチョウの仲間は、休眠するさなぎになって越冬します。休眠を消去するには、一定期間4℃以下の低温を経験することが必要で、低温を経験させないまま暖かいところに置き続けると、通常は羽化しないか大幅に羽化時期が遅れます。そのため、休眠蛹の羽化が【暖冬の影響で】早まる可能性は極めて低いと考えられます」
ーーこの蝶は特殊だったということでしょうか。
「休眠さなぎは基本的に発育が停止していますが、稀に低温を経験しなくても羽化してしまう個体もあります。また、短日条件で飼育したと思っていたものが、人工照明の影響で幼虫が長日条件だと感じて、休眠していなかった可能性もあると思います。休眠を覚ますためにどれ位の期間を要するかは、『休眠深度』と言います。休眠深度は種や生息地域によって異なり、北海道や北東北の様な寒い地域では浅くなる傾向が見られます」
ーー休眠さなぎの適切な飼育法を教えてください。
「大事なのは【冷所に置く】ことです。日光が当たらない屋外が最適ですが、乾燥させないように気をつけて、冷蔵庫に入れておくのもオススメです。4℃以下の冷所に置く期間は、北国では30日以上、関東では60日以上、関西以南では90日以上が目安です。目安よりも長くなっても問題ありませんが、低温の経験が不十分だと、暖かいところに移した後の羽化が遅れる可能性があります」
尾崎さんは休眠の仕組みだけではなく、その意味についても教えてくれました。
「夏から秋にかけて発育がバラついて個体差ができてしまっても、休眠という仕組みがある事で、翌年の春に成虫が出る時期が揃い、交尾相手が見つかる可能性が高まるわけです。見方によっては、昆虫たちは発育に適さない冬の寒さを巧く利用して、生存のサイクルをシンクロさせているとも言えます」
残ったさなぎがどうなるのか、楽しみですね。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)