漁港に捨てられていた猫がタクシー会社の看板猫に!持ち前の人なつこさを活かし、乗務員の安全運転を見守る「交通安全推進員猫」として活躍中
福岡市西区にある「周船寺(すせんじ)タクシー」。社内には内勤の社員さんや乗務員さんたちを日々和ませているキジ白の看板猫「でんちゃん」(オス、推定5歳)がいる。でんちゃんは子ども2匹とともに福岡県内のとある漁港に捨てられていたところを、常務取締役で猫好きの小田博文さん(73)が今年(2023年)8月に保護した。同社で看板猫デビューすると、持ち前の人なつこさを活かして乗務員さんたちの安全運転に一役かうように。先月(11月)には「交通安全推進委員猫」に任命された。どんな経緯があったのか。小田さんに話を聞いた。
小田さん 私は10年以上前から地域の人たちと協力しながら個人的に地域猫活動(主に毎晩の餌やり)をしています。でんちゃんは今年5月、県内のとある漁港で、子ども2匹と一緒に捨てられていた子です。子どもたちはハチワレのすーちゃん(メス、推定2歳)と、もう1匹はまだ名前をつけていませんでした。元気に走り回る子たちでした。
2カ月半が経ったころ、地域の方から「今朝、子猫が1匹、近くの道路ではねられて死んでいた」との報告を受けました。それは、まだ名前をつけていなかった方の子でした。その晩、餌やりに行くと、2匹はいつも一番に私に駆け寄ってくるのに、すーちゃんの姿もありませんでした。亡くなった兄弟を探しにいっていたのかもしれません。
すーちゃんも活発な子だし、父猫のでんちゃんは人への警戒感があまりないので、このままこの親子を放っておいたら、また危ない目に遭うかもしれないと思い、地域の方々とも相談して、すーちゃんとでんちゃんを保護し、私が引き取ることにしたんです。地域猫活動をしている別の方がそれまでに2匹の不妊手術を済ませてくれました。
私は昔から猫が大好きで、自宅にはいま4匹の保護猫がいます。会社にも看板猫がいたらいいなと以前から思っていて、当初はすーちゃんを、と思って会社に連れていったのですが、漁港で駆け回っていたときとはうってかわり、物陰に隠れてずっと出てこない、ごはんも食べないので、すーちゃんは私の自宅で飼うことにしました。
一方、でんちゃんは人間が大好き。初めて私の車に乗せたとき、すーちゃんは怖がって鳴き続けていたのに、でんちゃんは自分からすすんでケージに入り、車内では一言も鳴くことなく「どこにでも連れていってにゃ」という感じで、でんと構えて堂々としていました。だから名前は「でんちゃん」(笑)。会社にやってくると、今度は甘えた声を出して乗務員さんや内勤の社員さんにスリスリ。すぐに打ち解けてくれました。
それからというもの、社内の雰囲気は一変しました。最初は、猫が苦手な社員さんはいないかな、乗務員さんたちが受け入れてくれるかな、という不安もありましたが、猫好きな乗務員さん、社員さんばかりでした。でんちゃんは近づいてきた人みんなに挨拶するので、乗務員さんたちも口々に「猫がこんなに可愛いとは思わなかった」と(笑)。
「安心安全」はタクシー会社の使命です。乗務員はいつも緊張感を持って日々ハンドルを握っていますが、乗務員さんも人間ですし、時にはイライラするときもあるでしょう。ただ、そういう気分で運転していたら、お客様へのサービスの質が下がったり、事故に繋がったりしないともかぎりません。
でも、出社してきたとき、でんちゃんが「にゃー」と出迎えてくれると、ネガティブな感情もリセットされて、心が和むんですよね。乗務員さんからは「でんちゃんのおかげで、いい気分で1日の運転を始められるようになった」といった声をよく聞くようになり、安全運転に一役買ってくれるようになったんです。
そこででんちゃんを「交通安全推進委員猫」として正式に任命することに。毎年12月の年末年始無事故運動の前に乗務員向け交通安全講習会があるのですが、11月10日、地元警察の交通課長も出席する中、でんちゃんに辞令を交付しました。市販の制服に帽子姿で社員さんに抱っこされ、私が辞令を読み上げたあと、頼みますよと話しかけると、「にゃー」と応えてくれました。
高齢化やコロナ禍などで、タクシー業界では乗務員不足が続いています。弊社ではアルバイトに来てもらっている九州大学の学生さんたちの若い意見、発想を取り入れ、若い方も働きやすい職場をめざして改革に取り組んでいます。来年は会社として、保護猫の幸せのために何かできないかとも考えています。これまで以上に地域のみなさんに愛されるタクシー会社を目指し、でんちゃんとともにがんばっていきたいです。
【会社名】「有限会社 周船寺タクシー」
【住所】福岡市西区田尻2-15-3
【ホームページ】https://susenji-taxi.com
(まいどなニュース特約・西松 宏)