独身、死別、離婚…誰もがなりえる「おひとりさま」 備えておきたいお金のこと「必要な金額は決して少額ではありません」【FPが解説】
最近では生涯独身である人も増え、独身を謳歌している人のことを「おひとりさま」と呼ぶこともあります。独身の人は、配偶者や子どもがいる人に比べて自由になるお金や時間が多く、何かあっても大丈夫と考える人も少なくありません。しかし、おひとりさまだからこそ、将来のために考えておきたいことがあります。おひとりさまがお金の面で備えておきたいことについて、FPの立場から解説します。
■おひとりさまの定義
一般的に、おひとりさまとは単身世帯・独り身・シングルのことを指します。おひとりさまになる理由はさまざまで、
・生涯独身の人
・死別
・離婚
などが主な理由です。
なお、おひとりさまの現状を考える際に、参考にしたい指標の1つに「生涯未婚率」があります。
生涯未婚率とは「50歳時」の未婚率をいい、具体的には「45~49歳」「50~54歳」の未婚率の平均値が該当します。
日本の未婚率は年々上昇傾向にあり、内閣府の2020年国勢調査(確定報)では、男性が28.3%、女性が17.8%で、今後はさらに上昇すると予想されています。
また、いつどのような理由でご自身が「おひとりさま」になるかもしれないことを考えると、おひとりさまが備えておくべきお金の詳細を知っておくことは、多くの人たちにとって非常に大切だといえます。
■おひとりさまが抱えるリスクや問題
例えば、子どもがたくさんいる家族は、万が一、父親や母親が亡くなるとその後の影響が大きく、死亡リスクにはきちんと備える必要があります。
このように、誰もがさまざまなリスクを抱えており、おひとりさまも例外ではありません。
ここではおひとりさまが抱えるリスクについて考えてみましょう。
▽死亡リスク
死亡リスクを、独身者の観点から考えてみましょう。
独身者は、万が一の際にお金を残すべき家族がいない、もしくは(親や兄弟姉妹、親戚など)少人数であることが多いため、大きな死亡保障を確保する必要性は低いです。
しかし、家族がいないと、葬儀代や死後の遺品整理は配偶者以外の親戚や業者に依頼することになるため、最低限のお金は死亡保障として持っておくと良いでしょう。
▽入院・手術のリスク
死亡リスクと同様に、病気やケガで入院・手術をするリスクはおひとりさまも抱えています。
そのため、入院・手術に備えて医療保険に加入しておくのも一案です。
▽介護リスク
介護リスクは、決して無視できない大きな問題です。
家族がいる・配偶者がいる人であれば、万が一介護が必要になったとしても、家族が介護の担い手となることもできます。
しかし、独身の場合は公的サービス・外部サービスを利用するしかなく、介護施設への入居を余儀なくされるかもしれません。
介護の担い手が家族にいるかという観点から考えると、独身者は介護リスクへの備えをしっかりと考えておかなくてはなりません。
▽老後リスク
独身の場合、死亡リスクよりも長生きリスクのほうがより大きいと言われ、老後資金を準備することの重要度は非常に高いです。
仮に配偶者や家族がいれば、家族に頼ることもできるでしょう。しかし、独身であれば頼るべき相手がいない(いても少数)、疎遠ということも考えられます。自分自身が長生きしたときに必要になるお金の準備はできるだけ早く始めておきたいものです。
老後資金の準備にはさまざまな方法があり、iDeCoや変額保険、個人年金保険などがあります。
▽就業不能リスク
働けなくなるリスクは誰もが抱えており、特に独身者は家族からのサポートが得られない可能性を考慮しておく必要があります。
病気(うつなど精神的なものを含む)やケガで長期間働けなくなると、治療費の負担が発生するほか、生活費は変わらず必要です。
なお、買い物や掃除の代行サービスなどを依頼すると、必要となるお金がさらに膨らむことに留意しましょう。
■おひとりさまが備えておきたいお金
先述の通り、独身であっても入院・手術のリスクはつきものですし、場合によっては第三者に代行を依頼する(有料)こともあると考えると、準備すべきお金は決して少額ではありません。
▽死亡リスクへの備え
例えば、葬儀・死後の遺品整理費用として数十万円~200万円程度あれば安心でしょう。
日本消費者協会の調べによると、全国の葬儀代の平均額は約200万円と言われていますが、葬儀代は参列者や地域によって差が非常に大きく、居住地の葬儀費用の平均額や希望する葬儀形式を元に予め確認しておくとより良いでしょう。
▽入院・手術リスクへの備え
医療保険で備えることもできますが、給付金の申請から支払いまで数日かかることもあり、最低限の現金は手元に残しておくことを意識してみましょう。また、日ごろから各種健康診断・検診を受け、積極的な健康維持も心がけると良いでしょう。
▽介護リスク・老後リスクの備え
独身の方にとって一番重要ともいえるお金です。
「〇〇万円あれば絶対に安心です!」などと明確な答えがあれば良いのですが、この点についても個人差が大きいのが実情です。
なぜなら、介護・老後リスクに必要なお金は、公的年金として受け取ることができる金額や収入、貯蓄額、健康状態・既往症など、さまざまな要素を考慮して目安額を算出する必要があります。
そのため、まずは
・自宅での介護を希望するのか、介護施設に入居するのか
・介護状態になったときの移動手段や買い物の手段はどうするのか
・入居したい介護施設はどこか(希望する施設にすぐに入所できない可能性も考慮しましょう)
上記のような具体的なポイントについて、予め確認することから始めましょう。
▽就業不能への備え
働けなくなるリスクを考えると、入院・手術費用に加えて、生活費が普段よりも嵩む可能性があります。
買い物・掃除の代行サービスを利用する、配達サービスを利用するとなると1回につき数百円~数千円程度の負担が生じます。
収入が減少することも考慮し、生活費の6カ月分は生活防衛資金として必ず確保しておきましょう。
▽専門家に代行を依頼する場合のサービス利用料金
家族や配偶者がいない、もしくは何かあっても家族に頼めないという人は、専門家に代行を依頼するケースもあるでしょう。
独身の方の利用が想定されるサービス・制度としては、
・身元引受人
・見守りサービス
・買い物や掃除の代行サービス
・死後事務委任契約(本人が第三者に、亡くなった後の諸手続・葬儀・埋葬・納骨に関わる事務等の代理権を付与し、死後事務を委任する契約)
などが考えられます。
例えば、入院時は一般的に「身元引受人」を問われます。
これは、意思疎通が困難な患者に代わる意思決定や死亡患者の引き取り等を目的として病院側が把握しておきたいとする情報であり、独身の人の中には民間の身元引受サービスを利用することもあるでしょう。
このように、(生前・死後に)利用が想定される代行サービス・制度を確認し、利用にはいくらかかるのか予め知り、必要資金を確保しておくと安心です。
■おひとりさまこそ賢い資産運用が大切
先述の通り、独身であるおひとりさまは、配偶者・家族がいる人に比べると自由なお金が多く、時には独身貴族と呼ばれることもあるかもしれません。
しかし、自由なお金が多いからといってやみくもに支出すると、結局必要なお金は貯まらない…という事態になるでしょう。
おひとりさまは、(家族・配偶者がいる人以上に)自助努力が求められます。
そこで考えたいのが賢い資産運用です。
昨今のインフレ下では、貯蓄としてお金を銀行に置いておくだけでは、預金利率よりも物価の上昇率のほうが当然大きいため、お金の実質的な価値は低下します。お金に働いてもらう仕組みづくりをできるだけ早期に始めることが大切です。
NISAやiDeCo、変額保険を含む各種保険といった制度・商品を上手く取り入れながら、目標とするお金を準備したいものです。
独身の方の場合、「子どもが成人したら」「子どもが独立したら」「配偶者が定年を迎えたら」などと、人生の節目(大きなライフイベント)が少なく、お金のことを考える機会はおのずと少なくなるでしょう。
だからこそ、この機会に資産運用について真剣に考えて頂きたいと思います。
◇ ◇
もちろん将来のことは予測できないため、
「もしかしたら結婚するかも」「パートナーとの同居を始めるかも」
という方もいらっしゃるでしょう。しかし資産運用について大切なことは「できるだけ早く始めること」です。
いまからでも少額で始めておき、ライフスタイルが変わった時点でもう一度、資産運用の方法を見直すと良いでしょう。
◆舘野聡子(たての・さとこ)FPオフィス「あしたば」のファイナンシャルプランナー。保険会社での個人向け営業に従事しながら、「保険が最適解ではないこともある」と痛感し、より幅広い視点でお客様に寄り添うことができるFPを志す。FP業務の傍ら記事執筆にも取り組み、資産形成のきっかけや気づきにしてもらうべく奮闘中。
(まいどなニュース/FPオフィス「あしたば」)