「弁護士が選んだ2023年の注目裁判」ランキング トランスジェンダーの人の権利をめぐる裁判が上位に
弁護士ドットコム株式会社(東京都港区)は、このほど弁護士ドットコムの登録弁護士294人を対象とした「2023年に注目した裁判」に関する調査結果を発表しました。同調査によると、「弁護士が選んだ2023年の注目裁判」ランキングの1位は「性同一性障害・性別変更の手術要件に関する違憲決定」だったそうです。
調査は、2023年12月にインターネットで実施されました。そのほかの結果は以下の通りです。
▽弁護士が選んだ2023年の注目裁判ランキング
【1位:性同一性障害・性別変更の手術要件に関する違憲決定(66.7%)】
弁護士ドットコムの登録弁護士294人に、1人3票を投票してもらった結果、「弁護士が選んだ2023年の注目裁判」ランキングの1位は、戦後12件目の「法令違憲」となった「性同一性障害・性別変更の手術要件に関する違憲決定(2023年10月25日/最高裁大法廷)」でした。
「性同一性障害特例法」では、トランスジェンダーの人が戸籍上の性別を変えるためには、生殖不能要件を満たさなくてはならず、手術が必要とされています。この規定について、最高裁は裁判官15人全員で構成する大法廷で、違憲と判断しました。
投票した弁護士からは、「国民的議論に先行する前衛的最判で珍しい」「一審、二審ともに合憲としたものを最高裁全員で覆した。時代の少し先を歩み、人権の尊重という司法の責任を果たしたものと評価している。他の要件にも踏み込んだ各意見も評価したい」といったコメントが寄せられています。
【2位:トランスジェンダーの経産省職員に対するトイレ使用制限を違法とした判決(63.6%)】
続く2位には、「トランスジェンダーの経産省職員に対するトイレ使用制限を違法とした判決(2023年7月11日/最高裁第三小法廷)」がランクイン。原告は女性として勤務していましたが、戸籍上は男性であることを理由に、勤務するフロアから2階以上離れたフロアのトイレを使用するよう言われるなどの制限を受けていました。
最高裁は、この取り扱いについて、「具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、原告の不利益を不当に軽視するもので、著しく妥当性を欠いたもの」などとして、違法と判断しました。
投票した弁護士からは「時代の流れ」との評価が多く見られたほか、労働問題なので、性別変更以上に弁護士業務との関係性が深い裁判例として注目する弁護士も多いようです。
【3位:袴田事件の第二次再審請求事件での再審開始を認める決定(47.3%)】
3位は、「袴田事件の第二次再審請求事件での再審開始を認める決定(2023年3月13日東京高裁)」が挙げられました。
静岡県で一家4人が殺害された1966年の「袴田事件」で死刑が確定した袴田巌さんは、冤罪だとして裁判のやり直し(再審)を求めてきました。2008年に申し立てた第二次再審請求では、静岡地裁が2014年3月に再審開始決定を出しましたが、検察が不服を申し立て(即時抗告)、2018年6月に東京高裁で再審開始決定が取り消されました。これに対し、弁護側が不服を申し立て(特別抗告)、2020年12月に最高裁が高裁決定を取り消して差戻しを命じました。
2023年3月に東京高裁が出した決定は、2014年の静岡地裁決定を支持し、検察の即時抗告を棄却するというもので、これに対する検察からの不服申し立てがなかったため、10月27日から袴田さんの再審公判が始まっています。投票した弁護士からは「長年の苦労が実った」と評価する声が多く寄せられました。
以下、4位「生活保護費引き下げについて、国に初めて賠償を命じた判決」(29.3%)、5位「『給与ファクタリング』を貸金業法・出資法の『貸付け』と判断した判決」(26.9%)、6位「ベトナム人技能実習生の死体遺棄事件での逆転無罪判決」(23.1%)、7位「映画『宮本から君へ』への助成金不交付を取り消した判決」(19.0%)、8位「金沢市庁舎前広場の使用不許可を合憲とした判決」(8.5%)、同率9位「原告128人全員の水俣病罹患を認定し、国に賠償を命じた判決」「特許権の属地主義に関する『ドワンゴ対FC2』事件判決」(いずれも7.8%)などがランクインする結果となりました。