「おそ松くん」「天才バカボン」ギャグ漫画の天才の生涯 笑いと涙と友情の物語「まんが 赤塚不二夫伝」

ワイモバイルのCMのモチーフ「天才バカボン」の生みの親である漫画家・赤塚不二夫。

2015年には赤塚不二夫生誕80周年記念として、名作漫画「おそ松くん」を原作としたテレビアニメ「おそ松さん」が放送され、2023年にはそのグッズから生まれたキャラクターが登場するテレビアニメ「まついぬ」が放送されるなど、今もカルチャーに強い影響を与え続けています。

満州から命からがら帰国し、手塚治虫の作品に衝撃を受け漫画家を志望。上京後に、優れた才能が切磋琢磨したアパート・トキワ荘に住みました。生前遺した「漫画で振り返った、自伝的作品」が近年整理され、この度レア作品と合わせてコンプリート。一冊の本として刊行されました。「まんが 赤塚不二夫伝 ギャグほどすてきな商売はない!!」(赤塚不二夫・著、光文社知恵の森文庫)です。

企画したのは赤塚不二夫のプロダクション、フジオプロに勤務する松木健也さん。現在37歳と、赤塚漫画の黄金期を考えるとかなり若い世代ですが、赤塚作品に関する知識では右に出る人はなく、赤塚漫画における学芸員的な存在です。

松木さんに赤塚不二夫の足跡や本書の企画などを聞きました。

■様々なジャンルを経て「ギャグ漫画」に

赤塚不二夫は「ギャグ漫画専門」と位置付けられます。大ヒット作『天才バカボン』以降は「ギャグ漫画の王様」と呼ばれ、漫画以外ではかのタモリをデビューに導いたことも、こうした像を補強しているのかもしれません。

松木さんによると、実はデビュー前後は壮大なストーリー漫画や少女向け漫画などさまざま作品を描いており、ギャグ漫画に至るまでは相応の期間があったそうです。

「赤塚が漫画家を志したきっかけは、手塚治虫先生の『ロストワールド』でした。この影響もあり、最初はそのものまね的に『ストーリー漫画』を描いていました。また、デビュー後は『仕事』として『少女漫画』も描いており、初期から一貫して『ギャグ漫画』を描いていたわけではありません。

ギャグを目指したきっかけは、赤塚が上京したての頃に読んだ小説『陽気なドン・カミロ』(映画にもなった風刺作品)の影響が大きいと思います。

生前の赤塚は、こんな文章を遺しています。

『もともとボクは手塚治虫に心酔していたが、この本によって何か自分の目指すジャンルが見えたような気がして……』(本書より)

この言葉通り、当初の『ストーリー漫画』から『ユーモア漫画』『ギャグ漫画』へと作風が変わっていきました」(松木さん)

本書では、こういったギャグ以外の知られざる作品が「記念碑的作品」として収録されており、中学時代(1950年頃)に描いたデビュー前の処女作も収録。さらに、最晩年(2000年)に地方紙からの依頼で描かれたレア作品もあり、「半世紀分の赤塚不二夫」が凝縮されています。

■赤塚マニアも垂涎のレア図版も多数収録

やはり一番の見どころは、「トキワ荘物語」という作品。冒頭でも触れたトキワ荘でのエピソードは、ここから羽ばたいた漫画家が多く描き語り継がれていますが、他の漫画家よりも遅咲きだった赤塚不二夫の目線もまた興味深いものがあります。

「『トキワ荘物語』は、これまで、さまざまなアンソロジー本にも再録された作品なので、既読の方も多いと思いますが、今回は冒頭4ページ分を現存する原画の状態で、初めてフルカラー収録しました。原画の風合い、手描き感など、既存の本とは別の楽しみ方もできるように工夫しています」(松木さん)

判型の小さい文庫でありながらも、こういった細部への配慮があるのも本書の良いところ。松木さんは「図版個々の小さなこだわりも楽しんでいただければ」とも語ります。

■『おそ松さん』『まついぬ』で知った人にも読んでほしい

コアなファンに向けたように映る本書ですが、松木さんは「新しい世代で、興味を持ってくれた方にも読んでほしい」と強調します。

「従来の赤塚ファン(ライト層からコア層まで)はもちろん、テレビアニメ『おそ松さん』や『まついぬ』などで、少しでも『赤塚不二夫』に興味を持った方にも読んでほしいです。『自伝』というとちょっとハードルが高そうにも感じますが、今回の収録作はすべて『まんが』なので、気軽に、楽しく読んでいただけると思います」(松木さん)

盟友・石ノ森章太郎とのエピソードが描かれた作品も収録されています。2人の友情に胸が熱くなりますが、現在、豊島区立トキワ荘マンガミュージアムでは、特別企画展「ふたりの絆 石ノ森章太郎と赤塚不二夫」も開催されています(2024年3月24日まで)。

本書の内容と合わせて、この企画展の展示を見てみると、赤塚不二夫の変遷はもちろん、日本の漫画の黎明期より深く知ることができるはずです。合わせてチェックしてください。

「まんが 赤塚不二夫伝 ギャグほどすてきな商売はない!!」 (光文社知恵の森文庫)→https://amzn.to/3vD24q3

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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