能登半島地震、高齢者らの災害関連死をどう防ぐか 進められる「2次避難」…孤立集落は集落単位で ためらう被災者に配慮を【豊田真由子が解説】

このたびの能登半島地震で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災されたすべての方々に心よりお見舞いを申し上げます。

道路や水道などのライフラインが復旧せず、寒さも厳しくなっていく中で、被災地の方々の健康状態の悪化が懸念されます。災害から救われた命が、その後、置かれた環境の問題で、失われることがあってはなりません。

東日本大震災の際、わたくしは厚労省の高齢者施策担当として被災地にうかがい、また、その後、復興担当の大臣政務官として、被災地において、外からは見えにくい複雑な課題が多くあることを実感しました。

「災害関連死」の防止については、報道も多くなされているところですが、最新のデータや、能登の現地で対応に当たった省庁やメディアの方からうかがった話なども踏まえて、考えたいと思います(なお、被災地から離れたところにいて、こうして申し上げることは、恐縮なことと思っています)。

■災害関連死を防ぐ

能登半島地震で亡くなられた方は、1月12日午後2時時点で215人、そのうち災害関連死とされる方が14人となっています。重軽傷者が少なくとも577人、安否不明者28人、県内の公的避難所に避難している方は、383か所で2万2373人となっています。

(なお、熊本地震では、避難された方約18万人、災害関連死218人、東日本大震災では、避難された方約47万人、災害関連死者3794人とされています)

災害関連死の多くは高齢者の方です(熊本地震では、70代以上の方が76.1%)。

能登半島は高齢化率が高く、65歳以上人口の割合は、全国平均で28.6%、石川県で30.1%であるのに対し、輪島市47.2%、珠洲市51.4%、能登町49.9%、穴水町49.8%、七尾市39.4%となっており、一層きめ細やかな配慮が必要な状況であるといえます(※2023年1月1日時点/住民基本台帳年齢階級別人口より筆者算出)。

高齢者は、元々持病があり服薬が必要、免疫力が弱く感染症のリスクが高い、といったことがあり、今回「災害関連死」疑いとして報告された中には、「普段服薬している薬が入手できず、脳卒中や急性心筋梗塞で亡くなられた方」、「流動食を入手できず、誤えん性肺炎を起こして亡くなられた方」等もいらっしゃいます。

持病の悪化や、低体温症、感染症などの健康状態の悪化を防ぐには、『服薬、水分や栄養のあるものを摂取する、トイレを我慢しない、運動をする、口腔ケアを行う、身体を温める、換気をする、生活リズムや衛生状態を改善する』こと等々が必要とされるわけですが、被災地の方からすれば、「そうしたいけれども、水も食料も物資も設備も足りず、そんなには対応できないよ…」というのが実情であろうと思います。

また、自宅や車中泊など、避難所以外の場所にいらっしゃる方にも、同じように留意が必要です(自治体や自衛隊の方々等が、地域を回って、訪問・聞き取り調査を行っているとうかがっています)。

厚労省によると、1月11日、石川県内の避難所や病院で活動する災害派遣医療チーム(DMAT)等から報告があったものとして、インフルエンザや新型コロナなどの呼吸器系の感染症患者約88人、ノロウイルスなどの消化器系の感染症患者約41人の計約129人が確認されました(※すべてが把握されているものではありません)。

避難所は過密状態であり、水がなければ手洗い・うがいなどの予防もできず、寒さの中、床にマット等を敷いて眠られている状況では、体力や免疫力も低下の一途です。

こうした状況の中で、被災された方も、現地や全国から集まった医療福祉関係者の方々も、大変尽力されている(※)わけですが、やはり、被災地・避難所の環境自体を劇的に改善することが難しい状況下では、治療や予防にも限界があり、「2次避難所」といわれる他地域の宿泊施設、公営住宅、借り上げ住宅等に、早期に移っていただくことが望ましいと考えられ、そうした方針が進められているところです。

(※)被災地では、医療機関も大きな被害を受けている中で、被災者である医療福祉スタッフの方々が献身的な対応を続けており、また発災直後から、全国から集まったDMAT(災害派遣医療チーム)249隊、DPAT(災害派遣精神医療チーム) 28隊、JMAT(日本医師会災害医療チーム)19隊、災害支援ナースなど254名、モバイルファーマシー等が活動しており(数は1月12日時点)、感染研、NCGM(国立国際医療研究センター)、DICT(日本環境感染学会 災害時感染制御⽀援チーム)等の専門家も参画しています。

地域住民の方はもちろん、自治体や医療福祉関係者等の「ご自身も被災された方」が不眠不休で奮闘されており、こうした「支援者への支援」の必要性が指摘されますが、被災地域のライフラインやアクセスが限られる中で、外の地域から多くの人員を派遣することが難しいことが課題となっており、近隣地域に拠点を設けることなどが提案されています、

なお、法律論を申し上げれば、政府や自治体からの災害時の避難や移転の指示については、憲法上保障された、居住・移転の自由、職業選択の自由(22条)、財産権(29条)等との関係が、問題となり得ます。これらの人権について、「公共の福祉に反しない限りにおいて認められる」ことの解釈については、様々な学説があります。ただ、能登半島地震に関する現下の状況は、権利保障のためには、そもそも権利を有する者の生命安全を危険から守ることが前提となるという意味において、必要な制限を課すものとして許容されるのではないかと思います。

いずれにしても、できるだけ、状況や見通しをきちんとご説明し、ご納得いただいた上で移動していただくことが望ましいといえます。

■2次避難の現状と見通し

2次避難先として、政府は、公営住宅を全国で約6,500 戸、宿泊施設などを、北陸4県と隣接する長野、岐阜、滋賀各県で最大で約13,000人分、三大都市圏で約12,000人分を確保しているとしています(1月11日時点)。また、建設型応急住宅(仮設住宅)については、1月12日から輪島市・珠洲市で115戸、15日から穴水町・能登町で60戸着工しています。また、移送手段として、貸し切りバス約5000人分、タクシー約700人分を確保できる見込みとしています。

石川県は、「道路や水道の復旧の目途が立たず、集落孤立の長期化が判明した地区では、集落単位で丸ごと2次避難所に移っていただく方針」を採ることとしました(1月12日発表)。馳浩知事は、12日、孤立集落について「今月中に解消のめどを立てたい」との考えを示し、被災者に向けては、2次避難はあくまで一時的な措置であり、被災地での仮設住宅等の整備を急ぎ、「必ず皆さんが能登に戻れるようにする」「そのためにも今は命を守ってほしい」と呼びかけました(北國新聞インタビュー)。

すでに輪島市南志見地区の270人、同市西保地区と珠洲市大屋地区の各120人が自衛隊ヘリなどで救助され、県内の2次避難所に移されました。1月12日時点で、孤立集落は、輪島市や珠洲市などの17地区の約1910人となっています。孤立集落から優先的に2次避難を進め、高齢者、障害者、妊産婦など要配慮者の2次避難も陸路で行われています。

地震の揺れや地盤の隆起等で大きな損害を受けた道路や上下水道管等を、短期間で復旧することは不可能であり、自衛隊の方々が、物資を担いで山道を運んで、多くの孤立地域に通い続けることも、この先ずっと、というのは、やはり現実的とはいえません。極めて不便な環境の中で、長くお過ごしいただく困難を思えば、当該集落の方全員を、十分な支援を行える場所に移動していただくことが、望ましいというになるのだと思います。

孤立集落については「丸ごと避難」という方針が示されましたが、厳しい状況にあるのは、他地域も同様です。

ただ、2次避難先へ移ることについては、自宅や財産が残されたままになること、長年慣れ親しんだ場所を離れることになること等から、抵抗感を感じる方も多くいらっしゃると思います。石川県のまとめによると、2次避難所などで過ごす方は478人にとどまり(1月12日現在)、希望者の伸びは鈍いとのことです。

被災された方の思いを理解し、寄り添うことが強く求められ、「まずは支援が十分に行き届く環境に身を置いていただき、それから、この先の道筋をご一緒に考えて行くこと」を受け入れていただくことが大切になります。

そして、居住地を離れた土地に移ると、当然ながら生活に様々な不自由があり、また、そこでは人も街も変わらぬ日常が行われていることを見て、取り残されたように感じ、不安や孤独感を深めてしまうことがある、とも言われます。

残された自宅などの防犯体制や地域の状況等を、避難先にも届く仕組みにすることや、避難先での生活や心身の状況に応じた、不安を解消できるような手厚く継続的なサポートが必要となるものと思います。過去の災害でも指摘されましたが、「居住する場所」が用意されただけでは不十分で、仕事や学校、生活などでの継続的なフォローも必要になります。こうしたことは、避難先の自治体だけでなく、医療福祉関係者や民間の団体、地域住民の方々などの協力が極めて重要であり、深刻な自然災害がいつどこで発生するか分からない日本では、オールジャパンで助け合う仕組みとマインドが大切になってきます。

能登半島は、集落の中での結びつきや愛着が非常に強いという話もうかがいます。2次避難された先でのコミュニティの存続の意義を考えれば、できるだけ、集落ごとにまとまって、同じ場所に移れるようにする、といった配慮も求められると思います。

■「リロケーションダメージ」を防ぐ

特に高齢の方は、居住環境や周囲の人間関係が変わることにより、それまで元気だった方でも、心身の機能に様々なダメージを受け、体力や意欲、認知機能が衰える、日常動作ができなくなる、転倒しやすくなる、肺炎や感染症にかかりやすくなる、メンタルに影響を受けるといった、「リロケーションダメージ」が起こりやすくなり、これが災害関連死につながることもあります。

これは、介護分野では以前から指摘されている問題で、例えば、子どもが地方に住む高齢の親御さんを呼び寄せたら、心身機能が著しく低下してしまったといったことは少なくなく、これと同様のことが、過去の災害時の避難先においても確認されています。

東日本大震災の仮設住宅にうかがった際にも、元気だった高齢者が、環境が変わり、知り合いも少なく、家に籠りがちになって、認知症や寝たきりになってしまった、といったお話を各所でうかがいました。

リロケーションダメージを防ぐには、こうしたリスクがあるということを念頭に、できるだけ、ご家族や周りの方が、積極的に声をかけて交流する、一緒に身体を動かす、生活動作を継続的に行っていただくようにする、そして、体調の変化など気になることがあった場合には、速やかに医療関係者等に相談していただく、といった地道なアプローチが大切になってきます。

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高齢者に限らず、災害時には、たとえどんなにしんどくても、「みんな大変な状況なのだから」と遠慮し我慢してしまい、その間に心身の状態がかなり悪化してしまう、といったこともあると思います。皆さん、今は相当気を張っていらっしゃると思いますが、ご家族が亡くなられたり、自宅やお店が壊れたりといった中で、悲しみや不安を抱えながらの厳しい避難生活は、それはもう、ものすごい負荷が心身にかかり続けている状況ですので、どうかご無理をなさらないでいただきたい、と思います。メンタルのケアを含め、被災された方の心身と生活を支え、再建に向けた息の長い支援を、総力を挙げて行うことが求められます。

発災直後から、ご自身も被災者である大勢の方々が、そして、全国から集まった多くの方々が、昼夜を分かたず、被災者の救済・支援と被災地の復旧に尽力されていることに、改めて敬意を表し、亡くなられた方のご冥福をお祈りし、被災されたすべての方のご平安と生活の再建を心より願います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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