「8秒間が生死を分ける!」地震が起きた時にとっさにすべき行動とは?訓練すれば幼児もできる!専門家に聞いた【前編】

2024年1月1日に起きた最大震度7の能登半島地震。木造住宅が密集する地域では大きな揺れによる家屋の倒壊が相次ぎ、生き埋めになって亡くなる人たちが多数いました。地震国と呼ばれる日本。被害の大きさを目の当たりにした私たちが、地震が起きた際にとっさにすべき行動とは何か。また今回の能登半島地震とはどんなものだったのか。

絵本『おおじしん、さがして、はしって、まもるんだ:子どもの身をまもるための本』(岩崎書店)の著書で知られ、阪神淡路、能登の地震などを25年以上研究している防災対策に詳しい、清永奈穂さんに聞きました。

(※前編・後編に分けてご紹介します)

■家屋の倒壊が相次いだ能登半島地震「直接死が多い」 まさに「地震が起きたその時」の行動が大切

──年明けの大地震に「次はどこで起きるのか?」と不安に思う人たちも多いかと思います。地震が起きた時、私たちはまずどんな行動をとればいいのでしょうか。

「大地震には『3つの時』があります。最初は大地震が起こった『(まさに)その時』、2番目は大地震の大揺れと闘い逃げる『(避難する)その時』、そして最後の3番目は逃れて『(避難生活を過ごす)その時』です。もちろん2番目も3番目も非常に大切。ですが、何よりも1番目の大地震が起きたその時、自分の"命"を守るためどうするかが最も重要なんです。避難ができるのも、避難生活をすごすことができるのも『起こったその時』をかいくぐっての『命のつなぎ』があってできること。

1995年の阪神淡路大震災でお亡くなりになった方々のうちの80%以上が『直接死』でした。大地震の最初の揺れの「(まさに)その時」に亡くなっています。今回の能登地震でも、今のところですが、直接死が多い状況です。やはり『地震が起きたその時』、まず生き残ってほしいと思います」

──最初の大地震が起こった『(まさに)その時』というのはどれくらいの時間?

「阪神淡路大震災で罹災した大人(当時神戸市外居住。当時小学校4年生。T.Yさん)や、2007年能登地震で罹災した先生(石川県内の園、小学校、中学校教員65名)に『その時何が起こったか』を聞きました(2005年~2007年文部省科学研究費GP研究。清永賢二代表)。分かったことは、ともかく『8秒を生きろ』ということでした。

たとえば大地震では最初の揺れから大揺れまでの時間は、震源に近いか遠いかによって異なりますが、直下型地震のように震源が近い場合には1~2秒、遠い場合には10秒以上の場合もあります。ここではGP研究で聴き取りをした罹災経験者の体感時間(自分はこのくらいの時間だったという時間)を参考にしながら『8秒』を目安としました。

では、この8秒に何が起こったか。罹災経験者に聞くと、まず3~5秒続くカタカタが襲い(図1参照)、そしてすぐに大きなガタガタ、ガタタタタが2~3秒ほど起こり(まだこの時までは少しだけ動こうと思えば動けた)、そしてズゴゴゴゴ、ドーン、ドン、ドンが頭に落ちてきて大爆発(こうなったら動くもなにもない)。死ぬという考えも浮かばないほどの大揺れが縦にも横にも3~5分ほど続きました。こうした時間が過ぎた後は、全く音のしない不気味なシーンが長く続き、時々ドーンが起こりました(T.Yさん)。同じような体験が多くの資料で語られています。

このことから大地震が爆発するドーン、ガーンの前の8秒という間に、安全な場所に体を移動させることが非常に重要なことだと分かります。地震だと感じたら『8秒』を目途に『ともかく生きる』ための『動き』をする、それが『生きるか死ぬか』の分かれ目です。8秒はとても短い時間。でも、私たちは、その後の園や小学校の子ども指導や実証実験を通し『8秒あれば十分どうにかできる』ということをしっかり確認しました。ですので、著書の絵本では、子ども向けにその時の『8秒』に照準を合わせ『いかに生きるか』を述べました」

■地震発生直後は、3つの身を守るポーズ「さがして(うさぎ)、はしって(ねずみ)、まもるんだ(かめ)」

──絵本というと『おおじしん、さがして、はしって、まもるんだ:子どもの身をまもるための本』ですね。

「そうです。親や大人が一緒にいなくても子どもが最初の8秒に自らの判断で安全な場所に移動し、安全を確保する方法が描かれています。キーワードは、『さがして(うさぎ)、はしって(ねずみ)、まもるんだ(かめ)』の3つ。安全を守るポーズを動物にたとえて覚えるものです。2歳ごろから練習することをおすすめします。

まず『じしんだ、パン!』で8秒以内に安全な避難場所に逃げ込む、という練習をしてほしいと思います。ただ『8秒以内に安全な場所に逃げる』大切さが分かっても、子どもたちに『逃げ込め』の掛け声だけでは走り回るだけになります。ではどうしたらよいか? それは8秒の大揺れが始まった時、ウサギさんが何かあればやるように、とっさに頭上や周りを素早くクルリンと見ること。人間は怖い時、自分の目の下かせいぜい目の前しか見られないことが多いのですが、物が飛んでくるのは、真上だったり斜め上、斜め後ろだったりします。『うさぎのポーズ』は、上や斜め後ろなど、普段見ないところにあえて目を向けて『危ないモノが飛んでこないか?!落ちてこないか?!』を素早く察知するためのポーズです。

次にネズミさんのようにサッと素早くテーブルや部屋の隅に走りこみます。体を低くして、素早くです。地震だパン!といった後に、ウサギさんのように周りを見渡し、ネズミさんのようにシュルシュルッと安全なところまで逃げ込めれば(この間8秒)、『よくできたね!すごい!』とほめてあげてください

そして逃げ込んだ後、そこでカメさんのようにしっかり首根っこや体全体を守ります。手も足も引っ込めて、できるだけ①『体の面積を小さくする』②『首の後ろを守る』この2つがポイントです。 どんなに周りで大きな音がしても、安全な場所にいれば音では死にません。そして地震は必ず止まります(余震がまたあるとしても)。止まるまで、そこで体を守るのです。就学前の子どもたちに、安全な場所でカメのポーズをし、1分間程度、周りでいろいろな音を立てる中で『カメのポーズのまま頑張る』という練習をしていますが、泣く子はほとんどいません。逆に頑張れた自分をすごい!とほめたり、『ケガしてないよ、大丈夫』と自信を持って次の行動にうつれる子どもたちが多いです。

カメだけではなく、またはコアラさんのように『(ガードレールなど)硬いしっかりした物にしがみつく』『イモムシのように壁のへりに沿って体を伸ばす』というポーズもあります。こうしたポーズを身につけるには、やはり前もっての練習が必要です。『じしんだ、パン!』に合わせて練習すると、とても効果的に学習が進みます」

──昨年(2023年)5月5日に震度6強の地震が起きた石川県珠洲市内の学校でも「8秒の訓練」を行ったとか。

「はい。まず珠洲市の飯田高校で『5月5日の地震の時にあなたはどうしましたか?』という簡単な調査をしました(株ステップ総合研究所 『激震下における高校生の被災時行動報告書』2023年7月)。約39%の生徒さんが『何もできなかった』と答えています。その39%がもっと少なくなれば、地震が起きたその時に生き残ることのできる人が増えるのではないかと思い、同年7月には珠洲市内の大谷小中学校の方々に呼んでいただき、地域の方や小中学生と一緒にこの8秒の訓練などをしました。

子どもたちや先生、地域の方々からは『8秒間何もせずに固まっていると、物の下敷きになってしまったり、最悪死に至ったりすることにびっくりした。8秒は短いようで長いような時間で頑張って確認や避難をしたいと思った』などの感想をいただきました。ただ、今回の地震で能登全体をみると『その時』に亡くなってしまった方が多く、もっと昨年能登で活動してご高齢の方々にも伝えていればと思いました」

■身を守るための安全な場所とは?

──また身を守るための安全な場所というのは?

「8秒を素早く生き抜くには、比較的安全な場所を前もって知っておく必要があります。そして、その安全な場所がテーブルの下だけではなく、落ちてこない、飛んでこない、倒れてこない、動いてこない所で、家の中や通学路などにそういうところがないかを探しておく、ということが、必要です。就学前の子どもたちでも、何度も『ぐらちゃんみっけ』(ぐらぐらしたら危なさそうな所にしるしをつけて行くゲーム)をしていくと、危ない場所、比較的安全な場所が分かってきます。 

大地震の揺れは、いつ、どこで始まるか確かなピンポイントは誰にも分かりません。ですから普段いつも生活している所で『もしここで起こったら、あそこに逃げ込む』という安全な場所を前もって決めておくことが重要になってきます。安全な場所を選ぶ基本は、物が①上から落ちてこない(ガラスなど)、②前や横から倒れてこない(本箱や塀など)、③滑って動いてこない(ピアノや車など)、④この①から③の物をしっかり受け止め、できれば体全体を守ってくれるテーブルや机などの物がある、という条件を備えた場所や部屋の何もない角が目安となります。あらかじめ、家や園・学校・教室などの中や近所の歩道・通学路などでもこの安全な場所を見つけ、いざというときの『避難場所』と決めておくとよいと思います」

──安全な場所を探して、走って、身を守るのにわずか8秒間。特に小さなお子さんに教えるのは難しそうですが。

「『じしんだ、パン!』で8秒を生きのこる練習をしていただきたいと思います。たとえば部屋の中で食事をしている時、みんなでおしゃべりしている時、お勉強している時、廊下を歩いている時などに、突然お母さんお父さんが『地震だ!』と叫んで手をパンと叩き、子どもたちは決められた安全な場所に8秒のうちに逃げ込む練習をします。逃げ込んだ後、周りでどんなに大きな音がしても動揺せず、1~5分はその場で耐えて命を守る努力をする。家だけでなく園や学校でも『じしんだ、パン!』の練習を行うことは『その時に』備えた『逃げ込む力』を培うのに大変な効き目を持ちます。

この練習は1年に1回、短くて半年に1回で十分です。私たちは、実際ある園で1年に1回『じしんだ、パン!』の練習を行ってきました。ある年、実際に大きな地震が園を襲いました。その時『8秒は頑張る』『音ではケガしない』『あわてない』ということを子どもたちは思い出し、先生が近くにいなくとも自分たちで安全な場所を見つけ、素早く移動し、大声を出すこともなくじっと揺れが収まるまで耐えることができたのです。それを見た先生も保護者も感動の一瞬でした」

■事前に建物の耐震を調べておくことも大切

──安全の場所を探すといっても、今回の能登半島地震の場合、木造住宅が密集する地域で大きな揺れによる家屋の倒壊が相次ぎ、生き埋めになる人が多数いました。

「今回は大きな揺れの後、家の外に飛び出せた方はケガなどせずにすみましたが、飛び出すことが難しかった方は家の下敷きとなったケースが多く、亡くなった多くの方もこれが原因(1月10日時点)となっています。これらは、この地域がたびたび重なる大きな地震の被害に遭ってきたことや耐震性の問題が関わっています。ですから、どこの地域も当てはまるわけではありません。

私たちは過去の地震経験から多くの実践的な生きた知恵を積み重ねてきましたが、特に建物の備えは1980年以後大きく変わりました。1981年の建築基準法の改正で『大地震が来てもあわてて建物の外に飛び出さなくても良いだけの強さ』を持った建物が建てられるようになりました。つまり、必ずしも外にあわてて飛び出すより,屋内にいることの方が安全だ、という地域が多くなってきたのです。大切なことは、子どもが居るその建物が1981年の前に立てられたか否かを問うこと、あるいはそれ以前・以後に大地震に備えた改修を行っているか、1981年以降大地震に見舞われた経験があるか否かを考えてほしいのです。いつの時の建物かを前もって調べておくことが非常に大切です」

  ◇  ◇

いつどこで能登半島地震のような大きな地震が起きるか分かりません。だからこそ、清永さんに教えていただいた「地震が起きた時にとっさにすべき行動」をお伝えしました。続いて、後編では「今回の能登半島地震はどんなものだったのか」についてご紹介します。

【清永奈穂さん・プロフィール】

株式会社ステップ総合研究所長、特定非営利活動法人体験型安全教育支援機構代表理事、日本女子大学学術研究員、博士(教育学)。少年非行やいじめ、子どもが被害に遭う犯罪事件なども研究。警察庁持続可能な安全安心まちづくり検討委員会委員、内閣府「子ども若者育成支援推進のための有識者会議」委員等歴任。現在、こども家庭庁こども家庭審議会基本政策部会臨時委員。主な著書は『いやです、だめです、いきません 親が教える子どもを守る安全教育』(単著・岩崎書店2021)、『あぶないときは いやです、だめです、いきません 子どもの身をまもるための本』(単著、岩崎書店2022)、『おおじしん さがして、はしって、まもるんだ』(単著、岩崎書店2023)、『おうちでヒヤッ でない、あけない、のぼらない』(単著、岩崎書店2023)他。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)

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