救助犬が珠洲市内で行方不明者を発見 地震発生後わずか2時間半で現地に出発するも、民間の団体には公的な補償ゼロ…サポート体制の見直しを

「令和6年能登半島地震」発生に伴い、自衛隊や警察庁に所属して「災害救助」などを行う警備犬(※警察犬とは異なる)のほか、全国各地の災害救助犬団体から、多くの救助犬とハンドラーの方々が被災地に出動した。

■救助出発は、地震発生からわずか2時間半後!

「今日、リッターは瓦礫の下からお一人を発見しました。残念ながら生存者の発見にはいたりませんでしたが、どうぞ労ってあげて下さい。冷たい雨のなか、よく頑張ったね」

X(旧Twitter)にそう投稿したのは、愛知県豊橋市を拠点に活動する民間の捜索救助犬活動団体「捜索救助犬HDSK9」のXアカウント、捜索救助犬_ボランティア(@HDSK9_V)さん。

日本レスキュー協会を通して捜索救助の要請があったのは、石川県珠洲市。「捜索救助犬HDSK9」が珠洲市に向けて出発したのは、地震発生からわずか2時間半後のことだった。

■捜索開始4時間後、救助犬リッターが行方不明者を発見!

「捜索救助犬HDSK9」の杉原さんにお話を伺ったところ、予想以上に現地の被害が大きく、珠洲市に向かう道路は全て通行が不可能だったという。なんとか走行可能なルートの情報を得て前進したが、途中、何度も土砂崩れや陥没した道路に行手を阻まれ、ようやく珠洲市内に到着できたそうだ。

そして、珠洲消防署からの要請で、被害地域の安否不明者を一軒ずつ確認。その際、救助犬に帯同するハンドラーさんが、泥のなかで身動きが取れず意識朦朧としていた高齢者を発見。ハンドラーさんによって無事救出された。

1月3日朝、救助犬と共に安否不明者宅を捜索。捜索開始から約4時間後、ベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノアのリッターが吠えて知らせる強いアラートを示したため、当該箇所の瓦礫を消防隊員が撤去。行方不明者1名の存在が確認された。

■救われた高齢者と子猫の命

「珠洲市は冷たい雨が断続的に降り続けています。泥に足をとられて進めなくなったリッターくんたち捜索救助犬チームを、陸上自衛隊の衛生科の皆さんが救急車に乗せて現地に連れていってくれました。ありがとうございました」(「捜索救助犬HDSK9」のXアカウント「HDSK9捜索救助犬_ボランティア」の投稿より)

そして、過酷な捜索のなか、被災地をさまよっていた小さな子猫を保護したことをXで報告。

「私達が現地入りしたことでお一人(と1匹)の大切な命をお救い出来たのなら、こんなに嬉しいことはありません」(「捜索救助犬HDSK9」のXアカウント「HDSK9捜索救助犬_ボランティア」の投稿より)

■ありがとう、見つけてくれてホントにありがとう

珠洲市内で行方不明者を発見したのは、「HDSK9捜索救助犬」に所属する捜索救助犬で、9歳になるベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノアの男の子、リッターくん。

ドイツ語で「騎士」を意味するリッター(Ritter)という名前を持つリッターくんは、これまで何度も捜索救助活動に出動。捜索救助のデモンストレーション・イベントでも素晴らしい捜索能力を披露してきた、「騎士」の名にふさわしい勇敢で優秀な捜索救助犬だ。

「捜索救助犬HDSK9」が珠洲市での捜索救助活動を終え、帰路に着いたのは1月6日。

「帰りに立ち寄ったPAで石川県に雪が降っていると聞き、胸が締め付けられる思いです。今この時も、あの地で生きる人たちがこれ以上辛い思いをすることがありませんように。そして一刻も早く復興への道に歩み出せますように」(「捜索救助犬HDSK9」のXアカウント「HDSK9捜索救助犬_ボランティア」の投稿より)

行方不明者を発見したリッターくんとハンドラーの方々の懸命な捜索救助作業に対して、Xには多くの労いの言葉が寄せられた。

「リッターくん、見つけてくれてありがとう」

「ありがとな(涙)。ホントにありがとうな」

「大きい余震もあり危険ななか、リッターくんにもハンドラーの皆さんにも感謝しかないです」

「すごいよね。救助犬て言っても個人宅の飼い犬なのよ。ボランティアなのよ、飼い主もわんちゃんも。訓練は受けているけど命がけ」

■公的な補助や補償はナシ…民間の救助犬団体の現実

寄せられた多くの温かい言葉に対して、「私達は公的な補助もなく、消防を始めとする役所や警察や自衛隊や他団体の方々の助けなしでは何も出来ません。他団体様あっての私達の活動です。なので、ぜひ、他団体様やこの地で頑張っている皆様への応援の方を宜しくお願い致します」と、Xに投稿していた「捜索救助犬HDSK9」のSNS担当者さん。

続けて、救助犬の安全を危惧する人たちに対して、こんなつぶやきをXに投稿。

「犬に無理をさせる気はさらさらありませんし、嫌だ・出来ないと思ったことはやりませんし、犬にもさせない、超個人的な活動です。ですので、今回のことをきっかけに、多くの方々からこのアカウントに頂いた温かい気持ちのポストやフォローに心から感謝すると共に、あまりにも身に余ることだと恐縮をしております」(「捜索救助犬HDSK9」のXアカウント「HDSK9捜索救助犬_ボランティア」の投稿より)

「捜索救助犬HDSK9」のXアカウントの一連のポストからもわかるように、日本にある災害救助犬団体のほとんどは、寄付や支援で活動を行う民間のボランティア団体。そして、救助犬に帯同するハンドラーは犬たちの飼い主や訓練士であり、我々と同じ民間人だ。

被災地での捜索救助活動には、犬にとってもハンドラーたちにとっても、非常に大きな危険が伴う。しかし現在、民間の救助犬団体に対する公的な補助や補償は行われていない。

■救助犬になぜ「靴」を履かせないの?

救助犬の活躍について報道されると、「なぜ犬に靴を履かせないのか?」といった心配の声が多くあがる。言うまでもなく、救助犬たちの安全を誰よりも考えているのは、犬たちの飼い主でもあるハンドラー自身だ。

災害現場の危険性を鑑みて、捜索救助犬は、「活動靴」を履いて作業をする訓練を受けている。だが、犬の足裏のパッド(肉球)は運動時の衝撃を吸収し、バランスを取って体を支えるスパイクのような役割を果たす。そのため、シリコンや布で出来た「靴」で肉球を覆ってしまうと、肉球と爪で地面をしっかりと掴めず、滑落などの危険が生じてしまう。

また、肉球には多くの神経や血管があり、痛みや温度など、触った場所の情報を得るセンサーのような役割も持つ。さらに、肉球は犬が「汗」をかく器官であり、「靴」で覆われると体温調節が難しくなるばかりか、泥などで足を取られた際は「靴」が容易に脱げてしまうという。

「災害現場には犬たちにとって危険な物が散乱しており、受傷する犬も少なくありません。バランス保持のために素足での活動が望ましいのですが、もし素足のように犬の足にシンデレラ・フィットする活動靴があるなら、ぜひ活用したいと考えています。研究・開発してくださる企業様、ご協力くださる企業様がいらっしゃいましたら、私どもまでご連絡いただけますと幸いです」(「捜索救助犬HDSK9」杉原さん)

■民間の救助犬団体に対する公的制度の見直しを

今回、捜索救助犬のリッターくんが発見したのが生存者ではなかったことを受け、「救助犬は生存者が発見できないことが続くと、ストレスで元気がなくなってしまうと聞いた」というコメントも寄せられた。

「人それぞれの感じ方や捉え方があると思いますので、犬たちが落胆するかどうかについては言及しかねるのですが、私たちハンドラーは、出動先であっても犬たちと遊んだり散歩をして、できるだけいつも通りに接しています」(「捜索救助犬HDSK9」杉原さん)

被災地では、我々と同じ民間人であるハンドラーの方々にも、帯同する救助犬たちと同じく多くの危険が伴う。

だが現在のところ、民間の救助犬やハンドラーが出動した被災地で身体的・心的外傷を受けた場合であっても、国や自治体による公的な補助や補償はない。自然災害が多発する国として、救助犬の育成や団体の運営に対するサポート体制の早急な見直しが求められる。

現在、「HDSK9捜索救助犬」では、捜索救助活動継続のためのクラウドファンディングを実施中だ(※支援募集は2024年2月8日23:00まで)。集まった支援金は「災害への準備」「支援に伴う事務局運営費」「犬や隊員の安全を守る装備の拡充」「現地への燃料費、食料、衛生用品等」に充てられる。

※令和6年能登半島地震でお亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみを申し上げます。一日も早い復旧復興と、被災された皆さまに平穏な日々が戻りますことをお祈り申し上げます。

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ かな)

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