寝床を追われ薬をまかれ水をかけられ 野良猫一家はバラバラに 残された1匹を救ったのは近所の優しい人だった
野良猫はどの地域にもいるものですが、地域住民に理解されず、ときに嫌がらせを受けるケースも少なくありません。とある民家の敷地に一家で居着いた推定10歳ほどのメス猫の紅もそういった嫌がらせを受け、結果的に家族離ればなれになってしまった野良猫でした。
■家族離ればなれとなった紅
紅が居着いてしまった民家の家主は、野良猫の世話を良しせず、紅たちが寝床にしていた場所を埋め、ナフタリンなどを撒き、追い払おうとしました。それでも行き場がなく、その民家に居続けることしかできなかった当初の紅たちでしたが、最後にはホースで水をかけられることもありました。
「家に居座ってほしくない」という気持ちはわかりますが、ここまでくると動物虐待ではないでしょうか。せめて、保護団体などを探して保護してもらうなどの対策をしてくれれば良かったのですが……。きょうだい猫たちは散り散りにこの民家を去り、紅だけが残っていました。
一連の様子を遠巻きに見ていた心優しい近隣住民がこっそり紅の世話をし、エサを与えていました。紅もこの人には懐き、いつもちょこちょこと寄ってきては甘えてきてくれました。
■お世話をしていた保護主が家主から叱責される
しかし、これも長くは続かず、後に民家の家主に見つかってしまいます。「野良猫の世話をするということは、『猫を増やす』ことと同じだ」と家主から責められ、やがて紅は追い出されてしまいます。いったんはこの優しい人に保護された紅でしたが、しかし、この人の家では猫を飼えない事情があったため、どうすべきか考えあぐねました。
のちに野良猫の保護活動やずっと一緒に暮らす家族を探すためにサポートするLOVE & Co.(以下、ラブコ)に相談。ラブコのスタッフは、紅がこれまでに受けた胸が痛くなるような仕打ち、そして、この保護主さんの想いを受け、引き取ることにしました。
■FIPを克服し、元気な姿を見せてくれるように
外で暮らしていた頃大変な目に遭ったせいもあるのか、ラブコで引き取った当初の紅は食が細く、病弱そうに映りました。心配したスタッフが動物病院に連れていくと、猫エイズキャリアとのこと。さらに2022年にはFIP(猫伝染性腹膜炎)も発症。治療は根気が要るもので、3カ月もの間、膝の上で注射を打ち続けることになりましたが、のちに見事寛解。以降はご飯もしっかり食べ、同居しているスタッフの自宅の猫たちとも仲良く暮らしています。
野良猫として過ごしていたことからか、他の猫とのコミュニケーション能力がかなり高く「どんな猫ともすぐ友達になれる」という紅特有の性格の良さも次第に見せてくれるようになりました。現在は、ラブコで保護している他のキジトラ猫と親密になり、穏やかで楽しく暮らしています。
■不安なく穏やかに過ごせる家を待ち続ける
ラブコは「保護猫がはたらく会社」とし、保護した猫をモデルにスタッフが描いたグッズを販売することで、お世話にかかる資金の一部を賄うというユニークな取り組みを行なっています。この紅もそのモデルとなり写真のようなかわいいイラストになりました。紅をあしらったグッズは人気があるそうです。
現在も紅は、松本市のラブコスタッフの自宅で過ごしています。スタッフは「紅は他の猫と一緒にいることが大好きなので、先住猫がいる家庭が望ましい」とする一方、「しかし紅の性格の良さなら、仮に先住猫がいない家庭でも里親さんとの距離が短くなって良いかも」と語ってくれました。野良猫として過酷な環境で育った紅ですが、これから先は何の不安もなくずっと穏やかに過ごせる家が見つかることを切に願います。
(まいどなニュース特約・松田 義人)