「ママこわい」「止まれ止まれ」激震におびえる子たち守った母親…避難の実録漫画が話題に 足裏にはガラス片、出血が…「非常用持ち出し袋が役立つとは」
「30年生きてきて、非常用持ち出し袋が役立つときが来るなんて」ーー1日に発生した能登半島地震。石川県内の自宅で被災した漫画家が「思い出せるうちに」と急ぎペンを取った実録漫画がネット上で注目を集めています。「非常用持ち出し袋の重要性が広まってもらえれば」という作者に話を聞きました。
■「ひーっ、長いって!」子どもを囲み「守るからね」
漫画家でイラストレーターの浜井れんこんさんは、夫と5歳と3歳の女の子の4人家族。金沢近郊で義理の両親と同居しています。元日は夫が夜勤で不在だったため、親しい友人女性2人を自宅に招き、泊まりがけの新年会を開いていました。
一部屋に集まり、みんなでテレビゲームを楽しんでいると、震度3の地震が発生。「揺れたね」「まあ大丈夫でしょ」。ゲームを再開した途端、今度は大きな揺れが襲ってきました。ガタガタガタガタ、ドサッ、パリン。「ひーっ、長いって!」「ママこわいよ」「大丈夫だよ大丈夫だよ守るからね」。浜井さんと友人たちは無意識のうちに輪になって子ども2人を囲み、肩を組んでいました。「止まれ止まれ止まれ」。揺れが収まるまでただただ祈るしかなかったといいます。
テレビからは津波警報が。義母は外出中で、義父は「職場に行かなきゃいけん」と勤務先に急行。友人の1人は自宅で留守番する猫が心配だからと帰宅し、もう1人は浜井さん家族とともに避難することを選択。浜井さんは子どもたちにコートを着せて、自宅に備えていた非常用持ち出し袋だけをつかみ、車に乗り込みました。
「みんなどこに避難するんだろう」。ハンドルを握ってはじめて、津波の際の避難場所を把握していなかったことに気付きます。「とにかく山側を目指そう」。道には避難するファミリーカーが連なり、浜井さんたちの車も渋滞に巻き込まれてしまいました。
そこに義父から電話があり、カーナビのハンズフリー機能で状況を説明すると、ある建物が避難所になっていることを教えてくれました。渋滞を抜けて駐車し、徒歩で向かうことに。途中、足の裏に痛みを感じましたが、眠ってしまった3歳児を抱っこし、5歳児の手を引いてくれる友人とともに、ひたすら歩き続けました。
ようやく避難所に到着。係の人に少しでも上の方へと建物の3階に案内され、ほっとして靴を脱ぐと、足の裏から出血が。ガラスの破片でした。どうやら自宅の食器棚の前で割れたガラスを踏んでいたようです。持ち出し袋の中に消毒液とばんそうこうが入っていたため、その場で応急処置できたのが不幸中の幸いでした。
■SNS「リアルな体験談、とても参考になる」
「ママ、お腹すいた」「のどかわいた」。子どもたちが空腹を訴えてきましたが、袋には肝心の水や食料はなし。以前は水や飴などを入れていましたが、賞味期限が切れそうなタイミングで取り出して以降、補充を怠っていました。「ビスコ缶とか入れておけばよかった」
夜になり義母が合流。道中、営業していたコンビニで飲み物や子ども用のお菓子を調達してくれました。避難所からも非常食や毛布が支給され、「食べ物や飲み物があるだけでかなり安心感が増しました」。しかし余震は一晩中続き、眠れない夜を過ごしました。
その頃、夫は仕事の関係で、家族の顔を見ることなく被害の深刻な能登へ向かっていました。浜井さんは「夫は非常時に家族よりも現場に駆けつけないといけない仕事。こういうことには慣れていますがそれでも毎回不安です」と心境を吐露します。
翌日、浜井さん一家は友人とともに帰宅。友人は夫の不在中に子どもたちの遊び相手になってくれて、「友達の存在にすごく助かりました」。夫から「いつ帰れるかも分からない」と連絡があったときは、1時間ほど涙が止まらなかったという浜井さん。数日後、能登の被災地から戻った夫の元気そうな姿を見て、心から安心したといいます。
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浜井さんは漫画の中で「失敗した点」と「幸運だった点」をいくつか挙げています。失敗した点は、持ち出し袋に水や食料の補充をしていなかったこと、地震後に部屋の中でスリッパを履いていなかったこと、津波を想定した避難所をリサーチしていなかったことなど。幸運だった点は、袋の中に現金を用意していたこと、薬やばんそうこうを入れていたことなど。
全16ページの漫画は「リアルな体験談、とても参考になる」「失敗もあったけどご無事でよかった」「私も防災リュックの中身を再点検します」「非常持ち出し袋作ろう」「家と車にそれぞれ非常袋を用意しようかな」などと評判が広がり、拡散が続いています。
浜井さんは公開した実録漫画が注目されていることについて、「非常用持ち出し袋を用意することの重要性について広まってもらえればと思います。今まで大きな地震にあったことがない方やひとり暮らしの方も、緊急時の備えはあった方が良いと思います」とし、非常用持ち出し袋の定期点検や補充の重要さを呼びかけました。
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地震から2週間以上が経ち、浜井さんは現在の自宅の様子を「我が家は棚の物が落ちて割れた程度ですので問題なく暮らせております」と説明しましたが、「家族でよく訪れた水族館等の思い出の場所が被害にあっていることが心苦しく、義援金や募金などに協力する側にまわっています」と被災した地元に思いを寄せました。
◇浜井れんこんさんX(@mikanmanga)
◇ブログ「浜井れんこんのほにゃ日記」
(まいどなニュース・金井 かおる)