もうフルタイムの会社員勤務は限界だった…起業に挑戦する2人が語る「自由」と「お金」のリアル はたして後悔のない選択だったのか

昨年、11万人以上のフォロワーを持つインフルエンサー・ブリエルさんが投稿した「9時から17時までの勤務」に疑問を投げかける声が大きな話題を呼びました。ブリエルさんの声に賛同する人もネット上では多く見られますが、なかには「それなら個人事業主になればいい」という意見も散見されます。

では、実際に「9時から17時の勤務労働」以外の働き方をしている人たちは、働き方についてどんな思いを抱いているのでしょうか。

現在、イギリスやフランス、アメリカなどの欧米主要国では働き方の自由度を尊重した「フレキシブルワーク」が増えています。しかし、日本は未だ「9時から17時までの勤務」のようなフルタイム勤務が多く、2023年におこなわれた株式会社パーソル総合研究所の調査では、調査対象の10,000人の中で正社員として働く人のうち、93.9%の人はフルタイム勤務という結果が出ています。(出典:株式会社 パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」)

そんな中、フルタイム勤務の働き方に限界を感じ、起業やフリーランスなどの新しい働き方に挑戦している人たちも少なくありません。実際にフルタイム勤務の仕事を辞めて起業に踏み切った中西さんと長田さんの2人に、いくつかの質問を投げかけてみました。

中西さんと長田さんのプロフィールは以下の通りです。

▽名前:中西晃さん(仮名)

年齢:20代後半

前職の業界:保険業界

前職の業種:営業職

前職の業務形態:フルタイム(9:00~17:30)

現在の業種:販売業を経営

▽名前:長田裕介さん(仮名)

年齢:30代後半

前職の業界:自動車業界

前職の業種:製造業

前職の勤務形態:フルタイム(6:00~15:00 18:00~3:00の交代制)

現在の業種:Webクリエイター

■私生活がなくなったように感じていた日々

ー8時間労働、週5日勤務は長いと思いますか?

中西さん

「特に長いとは思いません。ただ、好きな仕事をしている時はあっという間に過ぎていきますが、興味のない仕事や上司とのやりとりなどは苦痛だったので1時間だけでも途方もなく長く感じました」

長田さん

「以前はライン作業で機械の組み立て作業や作業管理、トラブル対応などをおこなっており、常に労働時間が長く感じていました。通勤時間も1時間以上必要だったので、ブリエルさんの気持ちがよく分かります」

ーフルタイム勤務で働く上での悩みはありましたか?

中西さん

「とにかく休日が不定期だったことに悩んでいました。例えば休日に遊ぶ予定を入れていても、上司からの業務依頼や取引先からの呼び出しが急に発生し、予定をキャンセルすることは多かったです。そのため休日に自由に予定を入れられず、私生活がなくなったように感じていました。仕事を辞める直前はストレスが原因で抜け毛が多かったです」

長田さん

「交代制勤務だったため睡眠リズムが崩れがちでした。また設備トラブルの対応や作業管理を任されていたため、緊急性が高く責任重大な仕事が多くて体力面だけでなく精神面でも辛かったです。そのため休日はひたすら寝るだけの日々で、充実した休日を過ごせないことに悩んでいました。友人たちがバーベキューに誘ってくれても疲労から動けず、友人グループの中で私1人だけが不参加となった時はとても辛かったです」

■収入は下がったり不安定になったりしたけれど…

ー起業してよかったことはありますか?

中西さん

「一番よかったことは、自分の予定を自分で決められるようになったことです。私の場合は同じような悩みを抱えていた友人と約2年前に共同で起業し、雑貨の卸売業をおこなっています。休日はほとんどなくなりましたが、上司の都合で振り回されることはなくなり、自分の好きな仕事を自分で決めたスケジュールで動けることが何よりも楽しいです。また日中は打ち合わせ以外にも買い付け商品の確認や入荷処理など、やることが多く前職よりも忙しく感じますが、友人と食事をする時間などは前職よりも確実に多くなったことにも満足しています」

長田さん

「4年前からホームページ制作などをおこなうWebクリエイターとして仕事をしていますが、元々好きだったホームページデザインに携われることが一番よかったことです。昔からさまざまなホームページのデザインや構造を見て、どうやったら作れるのか自分で試しに作ってみるのが好きだったので、趣味が仕事になったように感じています」

ー起業して悪かったことはありますか?

中西さん

「あまり不満などは感じていませんが、強いていえば給料が下がってしまったことです。前職では月収が手取りで約35万円でしたが、現職では約30万円になりました。もっと給料を増やせるように事業拡大に努めています。労働時間が長くなり休みもほとんどないため、時給換算で給料を計算しないようにしています」

長田さん

「継続して仕事の依頼をいただけるようなお客様が少なく、収入が不安定になってしまったのが悪かった点ですね。前職では月収が手取りで約40万円でしたが、現職では良い時は約30万円で悪い時は約10万円です。ココナラやランサーズなどを使ってネット経由で営業活動をしているため、仕事がまったくない時もあり、日頃から焦燥感を感じています。起業する前から趣味でホームページをいくつも制作していたこともあり、勉強の苦労はせずに活動開始できましたが、営業活動は未経験だったので今でもかなり苦労しています」

■フルタイム勤務に戻りたいと思うことは…

ーこれまでのようなフルタイム勤務に戻りたいと思うことはありますか?

中西さん

「まったくありません。例えば福利厚生の充実や年末調整の簡単さ、最終的な責任は会社が持ってくれるなどフルタイム勤務にもメリットはありますが、それ以上に自由がないことが私にとっては大きなデメリットでした。前職ではストレスからの抜け毛にも悩んでいましたが、最近は楽しく仕事ができているからか抜け毛がなくなりました。また雑貨店で私が卸しを担当した商品が販売されている光景を見るのも大きな達成感になって、今までにない満足感も得られています」

長田さん

「じつはWebクリエイターとしての仕事が安定しないため、1年前から前職と同じ製造業の現場で派遣社員としても働いています。その仕事は週5日勤務ですが10時から15時までで労働時間が短く、責任も少ないためとても働きやすいことから始めました。今の状態ではWebクリエイターとしての仕事に没頭はできませんが、月収が約12万円加算されることや大きな企業の福利厚生を受けられるなどメリットが大きいので、当分辞めるつもりはありません。派遣社員として働く時間を使えばもっとクリエイターとしての仕事を受けられることや、せっかく自由を手にするために起業したのに結局フルタイム勤務に戻ることへの嫌悪から、派遣社員として働くと決めるまでに1年悩みました。しかし、いざ開始してみると製造ラインで黙々と仕事をこなす時間は意外に楽しいです。もしクリエイター事業の収入が安定したら派遣の仕事は辞めるかもしれませんし、それが今の目標でもあります」

ー最後の質問です。起業したことは自分にとって成功でしたか?失敗でしたか?

中西さん

「成功ですね。起業を決断するまでは友人と何をやっていくかや、どのように営業するかなど、かなり話し合いましたしケンカにもなりました。しかしお互いにツテがあったことや身近に顧客となってくれる知り合いがいたなど運もよかったので、起業して半年くらいで経営を安定させることができた。経営にありがちな大きな苦労がなかったのも成功といえる要因でしょう。前職でのストレスを考えたら、もっと早く始めるべきでした」

長田さん

「現状、事業はうまくいっていませんが、間違いなく成功です。起業したことでクリエイターとして依頼をこなす楽しさも営業の辛さも知れましたし、フルタイム勤務の福利厚生のありがたさも知ることができました。またクリエイター事業と派遣の仕事をこなすことで、改めて自分が製造業の仕事が好きだと再確認できたのも大きいです。これからも時間が許す限り派遣の仕事も楽しめたらと思います。ただし責任あるポジションに異動となったら辞めるかもしれませんけどね」

   ◇   ◇

フルタイム勤務は時間の拘束によって自由がなくなるという考えもありますが、生活リズムを整えたり、安定した福利厚生などメリットが多いことが分かりました。

一方、起業して個人の裁量で働くことも自由で楽しいという面もありますが、収入が安定するとは限らないという側面も見受けられます。

どの働き方も一長一短あるなかで、あなたはどんな働き方を選択しますか。

(まいどなニュース特約・八幡 康二)

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